第10話父からの手紙

親愛なるリリアへ




 カールライヒ伯爵の訃報を伝え聞いた。

お前も嫁いだばかりで大変だろうが、私たちはここのところ心労がかさみ、母さんは寝込みがちだ。

葬儀には参列できそうにないから、ご親戚の皆様の言うことをよく聞き、諸手続き・挨拶状など抜かりなき様に。

落ち着いたら必ず連絡しなさい。


 手紙をしたためたのには、それとは別にお前に相談があってのことだ。

実は今度ヴァンルード侯爵が結婚の挨拶に我が家へ来るが、どの様に応対すべきものかと苦慮しているので良く読んで返事が欲しい。

それというのも、フォレスティーヌのことだが、最近どうにも強い言動が目立つようになったのだ。

母さんの心労の原因はそれだ。

驚くかもしれないが、侍女・料理番も私たちには見せないものの、少なからず思い悩んでいる様だ。それほどに激しいものなのだ。

屋敷の中は、いつもより少しだけ鬱々としていて、それでいて忙しない。

厨房の中より時折励まし合う声などが聞こえる。私は聞かないフリをしている。


 いつの間にあの子はああなってしまったのだろうか。

昔はとてもしっかりした姉さんだった。聡明でお前の面倒もよく見て、私たちや屋敷のものへの配慮を欠かさない良い子だった。



 今ここに告白する。

ヴァンルード侯爵から求婚される以前にフォレスティーヌは異邦民との間でただならぬ関係になり、妊娠しそして流産している。

お前には言わなかったが、フォレスティーヌが流産した時から刺激しない様にと慎重になりすぎるほど慎重に接してきた。

思えばそれが良くなかったのかもしれないし、妊娠がわかった時に「リリアには知られるな」と言ったのが良くなかったのかもしれない。

今となってはわからない。

初めはそう言う経緯だったが、今ではこちらが慎重に接しなければ、何をきっかけにどんな面倒なことを言われるかと思うと気が気ではない。それでもお前の前では変わらぬ良き家族でいたが、お前が嫁いでからはフォレスティーヌが我が家に帰ってくるのが苦痛に感じられる。

兎に角妊娠以降、フォレスティーヌは変わってしまった。

私たちへの態度や言動は、耳を塞ぎたくなるもので、同室したくない程の威圧感だ。



 ああ、本当にどう対応すべきだろうか。お前ならどうするだろう?

こんなに思い悩むのには、とにかくヴァンルード侯爵と末永く未来を共にしてほしいと切に願うからだ。

我々に対する態度がヴァンルード侯爵に知られれば離縁されてもおかしくないと感じている。

そうなれば、誰が傷物のレントバーグ家の"姉の方"を欲しがるだろうか。ましてや歪んでしまったあの性格だ。


 良き姉の背中しか知らないお前にこんなことを言うのも憚られたが、今こそ家族の危機だと感じているのだ。

茶の種類から服装に至るまで、できればチェックをお願いしたいが、きっと葬儀前でそうもいかないだろう。

最近の流行りなどを考慮した上で、年頃のお前から見てもさほどおかしくない物をいくつか見繕って返事をくれないだろうか。

忙しいのは重々承知の上だが、どうか頼む。



ドストアストラ・レントバーグ

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