第16話 とりあえず、異界渡りの色々なモノが入ったホットワインを





 ちなみに、2つのスーツケースの前で困惑した恵里花に、オスカーが本体と複写したモノを教えてくれていた。


 そして、困惑した恵里花の為に、オスカーはクリストファーとジャステイーに指示し、本体グループを右側に、複写グループを左側に、分けて置いてくれたのだった。


 恵里花は開いたスーツケース(勿論、複写した方)の中から、蜂蜜のパックと砂糖袋とワインが入ったものを、なんとか引き出す。


 〔蜂蜜に、お砂糖に、ワイン……それとぉ…

 あっ…アメの大袋……と、こんなものかしら?〕


 アメ袋と蜂蜜や砂糖と一緒に、ワインの入った非常用の水入れを、恵里花はテーブルに乗せたいと思ったが…一部のものが、重いので諦めた。


 そんな恵里花の行動を見ていたオスカーが、気遣いの声を掛ける。


 「姫君、重いものは、我々にお任せください」


 「えっあっありがとう」


 「いいえ、どういたしまして」


 爽やかな笑顔と共に、オスカーはワインをヒョイッとテーブルの上に置いた。

 勿論、他の砂糖や蜂蜜、アメの袋はフェリックスが運んでいた。

 すると恵里花は、忘れていたモノを欲しいと言い出した。


 「あのね、お湯割のワインを入れる器と

 かき混ぜるスプーンが欲しいの………


 それと…蜂蜜と砂糖を溶かしたら………

 ワインを入れて欲しいの…良いですか?」


 恵里花の要望に、オスカーは微笑みを浮かべて応じる。


 「直ぐに、用意させます…フェリクス」


 その成り行きを黙って見ていた神官が、口を挟む。


 「いえ、ここに、ありますから、大丈夫ですよ」


 イスに座っていた神官(サミュエルとフェルナンド)が、恵里花に言うと、立ち上がり棚の箱を2つを持って来た。

 そして、箱をテーブルに置くと、蓋を開けて見せた。


 そこには、綺麗に磨がかれた銀のコップが入っていた。

 もう1つには、銀のカトラリーセットが入っていた。

 それを見た恵里花は、2人にお礼を言う。


 「ありがとう……助かります……

 これに、ワインを入れますね

 だから、もうちょっと待って下さい」


 必要なモノが用意できたので、恵里花は樽のお湯の中に蜂蜜と砂糖を入れて、魔法で攪拌する。

 もう、考えることを放棄した恵里花は、バンバン魔法を使う。


 そして、カトラリーの中からスプーンを取り出し、甘さを確認する。

 予想よりかなり甘めだったが、恵里花はそのままワインを入れることにした。


 「こっちのワインを入れて下さい」


 恵里花の指示に、クリストファーとジャステイーが、ワインの入った樽を持ち上げ傾けてワインを静かに入れ始める。

 それを見ていた恵里花が、充分入ったと思いワインを入れるのを止めてもらおうとする。


 「そのぐらいで…………」


 「そのまま入れろ…縁から手のひら一枚分

 隙間が開いていれば充分だ」


 オスカーの指示に、恵里花は首を傾げた。

 そんな恵里花を見て、オスカーは苦笑する。


 「界渡りのワインを入れ過ぎるのは

 危険なのではないかと思いまして………


 出来るだけ、ワインを入れる量は

 少なくしておいた方が良いからですよ


 それに…界渡りの蜂蜜や砂糖も

 今、入れましたよね」


 オスカーの注意に、恵里花は、羞恥で頬をほんのり紅く染める。


 「ごめんなさい…忘れていました

 それと…アメを食べさせたいんですが…

 大丈夫でしょうか?」


 恵里花の質問にちょっと困ったなぁ~という表情をした後に、オスカーは提案する。


 「ワインを飲んでも回復が悪かったら

 与えるというのはどうでしょう?」


 オスカーの提案に頷いてから、恵里花は次の指示を出す。


 「確かに、その方が良いですね………

 では…私の持って来たワインを入れましょう」


 恵里花の指示に従って、非常用水パックからワインを、樽に入れるフェリックスだった。

 色々なモノが入った樽の中のワインを、恵里花はゆっくりと攪拌した。

 そして、オスカーにワインを配って欲しいと頼むのだった。


 恵里花のパパが家に連れて来る見目の良い青年達は、自分達は艦長(恵里花パパ)に、娘の婿候補に選ばれたと思い、当然のように傅(かしず)くので、お願いすることに慣れいるのだ。


 それが、わんこ属性の騎士達にはちょうど良いぐあいにハマッて、嬉々として恵里花の指示に従うのが当然と動く。

 そして、ソレを双方ともに気付いていなかった。


 恵里花は、自力で飲めそうに無い人用に、リュックサックから、簡単便利なエネルギーチャージのゼリー飲料パックを取り出した。 

 それを、ウェストポーチに入っていたはさみで切って、銀のコップに入れる。


 コップの縁近くになるには、もう2個ゼリー飲料が必要だった。

 それを、銀のコップに入れるとスプーンでかき混ぜてみる恵里花だった。


 〔う~ん………これ…一杯じゃ……

 死にそうな顔色の人達全員に与えるには……

 やっぱり少ないわよねぇ………


 まだ…あるから…あと…二杯分…用意しよう

 そうすれば…何人かで手分けして

 重症な人達に与えられるしね〕


 そう、恵里花はこの人ってば不味いんじゃない?と思った相手にのみゼリーをスプーンですくって食べさせる予定なのだ。


 その様子を見ていた恵里花以外の人間達の表情は、かなり引き攣っていた。

 彼らは、食べられる透明なゼリー状な存在を見たことが無かったから…………。

 彼らが見たことのある透明なゼリー状の存在とは…………。


 そう、あの有名なドラゴンクエス○というRPGを、楽しんだ人なら誰でも知っているモンスタースライムだけだったから…………。


 彼らが見ている食べられるゼリー状のモノは、茶色に染まった煮凝り(肉や魚を煮た後に冷えると出来るゼリー状のモノです。そうゼライスの原料です)だけだったから…………。


 ゼラチンというたんぱく質という意味では、同じモノなのですが、そんなコトを彼らがわかるはずもなく。


 エネルギーチャージゼリーをかき混ぜて、にっこりしている恵里花に、はっきりびびっていました。

 そう、彼らには心優しい慈愛の《聖母》いえいえ《聖女》の恵里花が、何の為にゼリーを用意したかを、不幸にもわかってしまったから………。


 それを忘れたくて神官達も魔法使い達も、もったいないなどということを言わずに、オスカー達に配られた甘味入りホットワインを静かに飲み干した。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る