第13話 神官様に聞いてみました
オスカーは、恵里花の視線を感じて、極自然にかがみ込む。
身長差がかなりある為だ。
〔…うふっ…オスカーさんて……パパみたい
でも、かがんでもらえて助かるな
ずっと見上げて喋ると首が痛くなっちゃうもん
………じゃなくて、聞かないと………〕
「オスカーさん、倒れた神官様達を寝かせるのに
棚にある絨毯を床に敷いてもイイでしょうか?」
オスカーは、神官達を寝かせるためなら、神殿内の絨毯を勝手に使うコトを躊躇(ちゅうちょ)する必要は無いと思ったので、恵里花の要望に応える。
「良いと思いますよ
クリストファー…ジャスティー…
絨毯を床に敷いてくれ」
「「はい」」
オスカーに名前を呼ばれた、クリストファーとジャスティーは、棚から絨毯を引き出すと、床に敷いていった。
その上に、運んで来た神官達や魔法使い達を次々に寝かせていく。
寝かされた者達は《魔力》切れで、総じて顔色が悪かった。
その間に、恵里花は、顔色は悪いが、しっかりと歩いて部屋に入った神官達に質問する。
「あそこにある樽の中身はワインですか?
出来れば、中のワインを気付けに倒れた人達に
飲ませてあげたいんですが…ダメですか?」
恵里花の優しさがこもった言葉に、微笑みを浮かべながら、答える神官は少し残念さを滲ませながら答える。
「確か、まだ、樽の半数はワインが
入っているはずです
気付けに使うのは良いと思います
…でも…蜂蜜や砂糖などの
《魔力》切れに効く《甘味》は無いので……
効果は薄いと思いますが……」
ワインだけでも多少は効果はあるかも知れないが、回復効果を引き出すのに必要な《甘味》が無いという言外の言葉を読み取り、恵里花ははっきりとした言葉で言う。
「それは、大丈夫です
私のスーツケースの中には《甘味》があります
蜂蜜と砂糖が多数入っていますから
それを使います
それと…異世界から来た私の荷物には
界を渡ったエネルギーが入っていると思うので
ワインを足してもイイでしょうか?」
その恵里花の言葉に含まれるモノの重大さに気付いた神官が、ハッとした表情で言う。
勿論、オスカー達もハッとした表情にはなったが、わんこ属性なので、恵里花からのお願い(指示)があるまでは黙っていた。
「姫君、界渡りのエネルギーの入った
ワインや蜂蜜や砂糖を使用したなら………
倒れた者達が助かる率は
かなり上がると思いますが………」
言いよどむ神官に、恵里花は小首を傾げる。
〔どうして、そこで言いよどむの?
もしかして、異世界から持ち込んだモノは
安全かどうかの検証が終わってからしか
使っちゃダメなのかな?
いいや、遠まわしは面倒だもん
ズバリと神官さんに聞いちゃえ〕
「何か、使用に問題が有るのですか?」
恵里花の真面目な表情に、神官は緩く首を振って言う。
「いいえ、使用には問題ありません
ただ……ここで、それらを使ったら………
今言った、ワインや蜂蜜や砂糖は
もう、二度と手に入らないんですよ
それでも、よろしいのですか? 姫君」
恵里花が、自分の目の前で倒れた顔色の悪い、自分達神官や魔法使いのことで意識がいっぱいになっていると判断した神官は、あえて水をさす。
あとで、優しい心を持つ恵里花が哀しまないように…………。
〔あっ…そうね…うふふ……神官さんて
神様に仕えるだけあって優しいんだぁ…………
そんなことを、気にしてくれるんだ………
でも、今は目の前で失われるかも知れない
《魔力》という能力や生命よね
持ってきたモノがなくなったら
似たような代用品を探したってイイし……
なければ、作れば良いんだもん〕
恵里花は、なんだそんなことという表情で神官に答える。
「命に代えられるモノはありません
それに…私は…未成年ですから…
ワインを飲むことはできませんから……」
恵里花の言葉に、二度と手に入らないコトを理解している上での発言と認識し、神官は頷いて言う。
「では、姫君のワインを
ここにあるワインで割りましょう
界渡りのエネルギーが入ったワインを
そのまま飲むのは…キケンかも知れません……
……効力が有り過ぎる可能性が高いので……
毒になるかもしれませんから………」
神官の助言に、直ぐにその意味に気付いて恵里花も頷く。
〔そっか……希釈した方が安全か……〕
「ああそうですね
薬に付き物の副作用と一緒ですね
確かに、まんまで飲ませるのは危険ですね
では…ワインの樽を開けてください
それと…空のワイン樽も開けて欲しいんです」
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