私は聖女になります、性女(娼婦)にはなりません
ブラックベリィ
第1話 日常が崩れる瞬間って………
その時、柳沢恵里花(やなぎさわえりか)は、大荷物で喘いでいた。
その姿は、大きな旅行用カバン(外国製品の2週間はばっちりOKという超が付くビックサイズ)コロコロ付きを、無理矢理押しながら………。
その背中には、大きなリックサック(アウトドア用なのか?登山用なのか?というサイズ)が背負われ、袈裟懸けに肩に掛けられた大きなショルダーバックも存在していた。
更には、大きなウェストポーチが腰に巻かれている。
恵里花は、どんだけっといういでたちで、ハーハーゼェーゼェーと喘ぎながら、旅行カバンを押しながらやっとの思いで歩いていた。
その背中には、後悔とか哀愁とか疲労とか訳のわからない雰囲気を漂わせて…………。
そんな彼女が歩いていたのは、最近の駅前再開発により建ってさほど経っていない、元駅前商店街に有ったお店も入っている駅ビルの中だった。
恵里花は、新聞に一際目を引く目玉商品が載った広告が入っていたので、嬉々として駅ビルに来たのだ。
そう、一月分のおやつ(お菓子)の材料に、米や小麦粉などの粉モノや、乾物や乾燥した果物、缶詰やちよっとしたレトルトパックに調味料やお茶などに、飲み物などを色々と買出しに来た結果が、その凄惨な(笑)姿?だった。
〔あうぅぅぅ~……ちょっと……いや、かなり
欲張りすぎちゃったわね……思ったより重い…
いや、マジでとんでもなく重いわ〕
恵里花がいつも行くのは、元商店街に有ったお店なので、おまけをしてもらったり、御礼にお菓子を届けたりという、超が付くような、なぁなぁな関係の場所ばかりだった。
その為に、こっそりとお酒も買っていた。
恵里花の家族は、うわばみと言っても過言ではない酒好きの酒豪しかいなかったので、毎月の酒代はかなりのモノだった。
が、恵里花以外はとにかく忙しい人間だったので、お酒の買出しは基本的に恵里花の仕事となっていた。
勿論、料理も洗濯も掃除も恵里花の仕事である。
その代わり、恵里花が何かしたいとか、何か欲しいと言えば、家族は何でも叶えてくれるという関係になっていた。
その中でも、父親と兄は、恵里花にベタ甘だったりする。
欲しいと言えば、何でも買い与えようとする程…………。
ちなみに、恵里花の母と姉は、普通よりちょっと薄い家族関係にあった。
それは、恵里花が、チビで地味なぽっちゃりな女の子だったから…………。
恵里花の両親も兄も姉も、かなりの美形だった。
特にモデル兼俳優の兄とアイドルの姉は、売れっ子で有名人。
母は、ある大手建築会社の美人インテリアデザイナーとして業界では有名だった。
父は、海上自衛隊員で、駆逐艦の美形過ぎる艦長として知る人ぞ知るという存在。
顔の美醜にこだわらない父と兄に可愛がられているが、こだわりのある母と姉との関係が微妙な恵里花は、容姿にコンプレックスをたぁ~ぷりと持っている。
が、それを口にすると父と兄が、自分を抱き締めてにこにこ笑って言う言葉に、言い返すのも面倒になるのだ。
父と兄いわく。
「恵里花ほど可愛い女の子はいない」
「パパは、恵里花がお嫁に行きたいと
男を連れて来たら………
絶対に、その男の気持ちを試すぞ
その為に躯を鍛えているんだからな
もし、この男(ひと)が好きって言うのが
現われたならば、ちゃんと連れてくるんだぞ
パパは、何時でも全力で戦うと決心するほど
恵里花が可愛くてたまらないんだから………」
父親が、そう熱く語れば、兄も負けじと言う。
「お兄ちゃんも、恵里花を友達に紹介して
盗られるのは嫌だから………
どうでもイイ、由梨絵(恵里花の姉)を
紹介しているんだから………
あいつなら、どんな男でも大丈夫だしな」
そう力説してから、恵里花の手を取って哀しそうに言う。
「実の兄妹じゃなかったら
恵里花を何処にもやらないのに…………」
切々と血の繋がった兄妹じゃなかったらと言う兄の隣りで、それに競うように父親は愛娘の恵里花に訴える。
「パパはな、恵里花
パパって言って腕にぶら下がってくれる
可愛い恵里花が大好きなんだ
由梨絵は、中学に入る頃には
パパって呼ばれて一緒にいると
エンコーかしらと影口を言われ………
仕舞いには警察に通報される娘なんて
いらないんだ
パパの娘は恵里花だけだよ」
などと、世間様と恵里花がドン引きすることしか言わないほど、父親と兄には溺愛されている。
そのお陰で、容姿にコンプレックスは有ったが、男は胃袋だと思い料理に精進していた。
一時期、曾祖母(父親の祖母)の元にいたので、かなり色々なコトが出来る恵里花は、理想のお嫁さんという女の子だった。
いや、胃袋男なら、まず、間違いなく堕ちる程度には………。
そんな恵里花が、なぜ大荷物だったのかはのちほど…………。
とにかく大荷物の恵里花は、エレベーターに乗る為に、その前までなんとか移動し、階下から上がって来る表示の光点を見ながら、そこに並んでいた。
そこへ、ぱらぱらと美少女が、集まってきた。
それを見た恵里花は、大荷物なので、次にくるエレベーターに乗るしかないなと思っていた。
〔うわぁ~……勘弁してよぉ~……見るからに
男なら誰もが喜びそうな美少女達って…………
しかも、タイプ別のなんて………〕
と、恵里花が内心で嘆く中、突然、スマホから地震警報の不気味な音が、鳴り響く。
〔ウゲッ…また…地震なのぉ…ここって3階
…絶対に大きく揺れる…マジ勘弁して欲しい〕
恵里花がそう思って大型旅行カバンの柄をギュッと握り身構えると、それから幾らも経たずに、建物が揺れ始める。
〔ひぃぃぃ~ん……思ったより……規模が……
…すごいんですけど……もしかしなくても……
とんでもなく、不味いような気が…あぁ揺れるぅ〕
これは大変なことになった…こんな…大荷物で…どうしよう…などと恵里花が思った時に、その立っている場所の床が光りを放った。
光りに気付いた恵里花は思わず床を見詰める。
と、足元には、ラノベに出て来るような丸い魔法陣が出現していた。
〔これって、まさかの異世界召還
……冗談じゃ無い…ここから逃げなきゃ…〕
そう思って、慌ててその魔法陣から逃げようとした恵里花だったが…………。
地震のセイで大きく波打つように揺れる床と、大荷物の重量によって、恵里花の行動は激しく阻まれた。
そして、眩しい光が床から這い上がって来たなと思ったら、恵里花の意識はブッツンッと切れてしまったのだった。
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