01-34 フォール=グリフィンの一員だった、あの頃

 あたしたちが学部1年の時のこと。


 期末試験を終えて赤階級ロドゥクラスになって間もなく、学食に1枚のポスターが貼られていた。


『こんなところにポスターが貼られている。珍しいね』

『フォール=グリフィンのメンバー求む! ……だって。打倒GFP学院をスローガンに熱意のある人を募集中! って』

 セルラとネアは黒背景に逆さに描かれた銀色のグリフォンのポスターに目が留まった。


『ちょっとお、何見てるのー?』

 あたしは駆け足で2人に近づいて、ポスターに書かれている内容をじっくり読んだ。


『確か、グリフォンパーツ学院がとても強いって噂を聞いたわ』

 あたしは少し真剣になって、声がいつもより低く出た。


『学生大会でいつも優勝を勝ち取っているよね。再来年の学生大会に備えて、ここで勉強させてもらうのも良いな』

 ネアは長い青紫色の髪の毛を耳に掛けた。


『今、長期休みだからちょうど良いね』

 セルラは口元を綻ばせた。


 その直後、あたしたち3人の足元から濃い紫色の魔法陣が現れ、学食から姿を消した。


 行き着いた先、辺りは宇宙空間で、足元は月面のようなでこぼこした灰色の地面。ただ目の前に城の形をした巨大な建物が堂々と建っていた。

 その建物の一番高い円柱の屋根に、ポスターで見た灰色のグリフォンが刺繍された旗が掲げられていた。


『フォール=グリフィンはここで活動しているのかな?』

 セルラは不安そうに建物を見つめた。


 あたしは多分ねとセルラに微笑み、中央の扉へ向かった。


 扉の中は最上階まで吹き抜けになっているのを見て、建物の大きさを改めて実感した。

 視線を天井から向かいの部屋の扉へ戻し、1階の大部屋へ入った。


『お前さんたち、フォール=グリフィンのメンバー入り希望かね?』

 黒色の無地のローブを着た1人の若い男性があたしたちに声を掛けた。


 はい、とあたしたちは返事をすると、その男性は『じゃあこれを着てくれたまえ』と人差し指を縦に振った。


 リーフィル大学の制服としているモスグリーン色のローブから、黒地のローブに変わった。

 襟元と袖口の色は自身の階級である赤色をしていた。


『これはフォール=グリフィンのメンバーの証だ。ここにいる時はこの格好で頼むな』

 男性はそう言い放ったあと、踵を返して訓練に戻った。


 黒のローブを与えられた日から、あたしたちは3人揃ってフォール=グリフィンの拠点へ足を運ぶようになった。


 休日限定ではあったものの、多い月は100ビッツの給与が支払われた。

 それが嬉しくて刺激になっていた。


 ところが、月日が経って階級が上がるたびに、求められるスキルが大きくなり、精神をすり減らしながら訓練に励んでいた。



 そんなある日……


『やあっ!』

 ツツジの花弁が剣身ボディを覆い、あたしの髪色と同じ紅色の光を放ちながら、あたしは剣を前方に振り下ろした。


『こらあ! そんなありきたりな技じゃGFP学院を滅ぼせねぇよ!』

 あたしと対戦していた2年先輩の男性から罵声を浴びせられることが日に日に増え、仕舞いにブレイドで頸椎を叩かれて死にそうになったこともあった。


 セルラもネアもぜぇぜぇ息を吐いては汗を拭い、求められる技を習得すべく必死になっていた。


 先輩たちから未熟者めと馬鹿にされながらも、3年で参加する学生大会で優勝するために我慢して耐えてきた。



 そして、学部3年の卒業間際に開催された7大陸学生大会に参加した。

 この大会の学部生の部門で出られるのは最初で最後だった。


 全大陸から何十万人に及ぶ魔法戦士の学生が集う故、3次予選まで通過しないと、本選に参加できない仕組みになっていた。

 フォール=グリフィンで訓練した成果が実ったお陰で、あたしとセルラ、ネアは本選の参加が決まった。


 しかし、予選ではGFP学院生と当たらなかったため、本選でGFP学院生と対戦することになった。

 あたしとセルラは比較的早い段階で、ネアは準々決勝でGFP学院生と当たった。


 休日にフォール=グリフィンで修業して体得した、物理系と砲弾系を組み合わせた技で攻撃したが、相手のGFP学院生は上手く防御したりかわしたりしていた。


 相手から物理系の攻撃魔術で剣を振り下ろされた時、単なる物理系の技だと思い込み、剣身ボディで受け身をとった。

 しかし、防御しきれず、攻撃を食らってしまった。


 しかも、かなり強力だった故、胸に深い切り傷が入ってしまった。

 当然、出血量も普通の怪我と比べて多く、戦闘不能になってしまい、敗北に終わった。


 貴重な休みを返上して訓練に勤しんだにもかかわらず、攻撃魔術が通用せず、いつの間にか一撃で倒れてしまった。

 悔しくて、虚しくて、治療室で目を覚めた時は大粒の涙で天井すら見えなかった。



 数日経って、何が原因で、何が足りなくてGFP学院生に負けてしまったのかを冷静に考えたところ、波動系という単語が脳裏に浮かんだ。

 フォール=グリフィンで練習していた頃、物理系と砲弾系の技ばかり練習しており、波動系の技は疎かにしてしまっていた。


 反転世界ピューマールではGFP学院生を物理系と砲弾系でボロボロにしていたが、現実ではGFP学院生は強く、こっちがボロボロにされていた。

 現実世界ベスマールのGFP学院生は波動系の攻撃魔術で他の大学に通う魔法戦士の学生を打ちのめにしていたのだ。


 それがわかってから、反転世界ピューマールでいくら修業しても無駄だとあたしたちは気づいた。



 学生大会が閉幕してから、フォール=グリフィンの拠点の1階の大部屋でいつものように訓練している先輩にこの話を持ち掛けた。


 すると、

『ふざけるな! 貴様らはドナデュウ様に逆らう気か!?』

 とあたしたちの頬を平手で叩いた。


 まさしく重い鉄球が直撃し、骨折したかと錯覚したくらい凄まじい威力だった。


(今のままではGFP学院生を倒せる訳がないのに、何でわかってくれないの……?)


 あたしたちは平手打ちされた衝撃で床に叩きつけられた。

 あたしは感情を殺して無表情でいたけど、セルラの瞳は潤んでいたのを覚えている。


 この時点で、フォール=グリフィンを脱退しようか悩んでいた。

 このまま精神を削って努力したとしても、報われないのは目に見えていた。


 ところがこのあと、フォール=グリフィンを脱退する決め手となったイベントが起きた。


 頬を叩かれてから、痺れが少し収まった時だった。

 2階の大部屋へ移動すると、スクリーンに残虐な戦闘シーンが映っていた。


 しかも、黒いローブを着たフォール=グリフィンのメンバーが、GFP学院生と思われる人を背後から斬りつけた一部始終を見てしまった。


 あたしたちは絶句してしまった。


『……まさか、私たちが人殺し……?』

 セルラは声を震わせた。


『人殺し……? ああそうだよ。打倒GFP学院ってのは、GFP学院とそこの学生を抹殺するって意味だぜ。もしかして、今まで基本中の基本をわからずに過ごしてきたのかぁ?』

 スクリーンから振り返った魔術研究者の男性は挑発するような口調で言った。


『……そんなはずは……』

『じゃあ、何でここに入ったんだよ?』

『ただ、強くなりたかっただけで……』

 あたしは裏切られたような気持ちになり、顔を青ざめた。


『あぁ!? てめぇらは都合が良すぎんだよ! GFP学院を憎いとは思わんのか?』

『……』

 あたしたちは何も答えられずに突っ立っていた。


『GFP学院生はな、非魔術界ル=ヴァール出身だ。魔術が使えねぇのにこっちへ来て魔術を使ってんだぜ。し・か・も、あんな超名門スーパーエリートのヘヴンソウル大学やシーラム大学の学生を木っ端微塵にするんだぜ』

 眉間にしわを寄せたその男性は続けて

『俺様は戦えねぇけどよ、GFP学院の野郎が強力な魔術を使いこなすってのが気に入らねぇんだ!』

 と吐き捨てた。


 学生大会でGFP学院生に負けたのは悔しい気持ちでいっぱいだが、だからと言って人殺しは非人道的だ。


 冷静に話を聞いていたネアは口を開いて

『もう結構です。フォール=グリフィンを辞めます』

 とリーフィル大学の制服の上に重ね着していた黒いローブをその場で華麗に脱ぎ捨てた。


『ふん、よくもそんなことを言えたな。辞めるって言った奴は“反逆者”って言われるんだぜ』

 むかつく彼は冷たい笑みを浮かべ、視線をスクリーンに戻したのであった。

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