黒幕に操られる系の悪役錬金術師に転生した僕。錬金術を極めて破滅を回避しようとしたら闇堕ちヒロインに懐かれていました
路紬
第一章悪役錬金術師に転生してしまいました
第1話 悪役錬金術師に転生しました
『愛してました勇者様。こんな形になってしまったのはとても残念ですが』
『……ごめん。俺ではキミを救うことはできなかった』
今、パソコンの画面に映し出されているのはシュミレーションRPG『アステリズムクロス』の一シーンだ。
銀色の髪、宝石のような青の瞳、妖精かと思うほど可憐な容姿。そんなメインヒロインにも劣らないビジュアルを持つ女キャラクターの胸に主人公の聖剣が突き刺さっている。
そんなイベントスチル。僕はそれを見て深いため息を吐いた。
「やはり……どう足掻いても彼女をヒロインにさせないという強い製作者の気持ちが伝わる!!」
テレシア・アスクレピオス。それが今画面で息絶えたキャラクターの名前だ。
メインヒロイン級のビジュアル、ミステリアスな雰囲気と性格を持ち、ゲーム内でも意味深な行動をし、ストーリーの中核に入り込む、重要キャラクターだ。
凄まじい人気を誇り、キャラクター人気投票では主人公やヒロインたちを押し除けて一位に君臨している。
そんな彼女は僕の推しキャラだ。アステリズムクロスのパッケージイラストに描かれている彼女に一目惚れ、彼女がヒロインかと勘違いした僕はすぐに製作者の罠に引っかかってしまう。
そう、このキャラクターはヒロインではなく、主人公の敵キャラなのだ。ゲームにある仲間になりそうでならないキャラクター的な。
作中において終始出番があるというのに、全てのルートにおいて死んでしまう……!
「DLCでも救済ルート出なかった……! し、仕方ない。起きたら二次創作でも読んでこの気持ちを発散するか……」
僕はそう呟いた後、大きなあくびをする。ぶっ続けでゲームやってたから眠い……。とりあえず寝て、起きたら二次創作でも漁るとしよう。
***
「……いたた。一体なにが」
「大丈夫ですかヴィクトル様!? も、申し訳ございません! どんな罰でも受けますので……!」
僕は知らない天井を見上げていた。見慣れた六畳間の自室ではなく、豪華な洋風の天井だ。
何が起きたのか分からないまま、ただ数秒間ボーッと天井を眺めていると青色の髪の女の子が顔を覗かせてくる。
次の瞬間、ドクンと心臓が高鳴った。
「お怪我などはございませんか? 頭を強く打たれて意識が遠いとかは? 血とかは……」
「……綺麗な人だ」
「……え、え? 今なんと……?」
ポニーテールに結んだ青髪。白い肌、大きくぱっちりと開いた緑色の瞳、桜色の唇と整った容姿。
困惑する姿でさえ可愛らしく、美しいと思ってしまう。
困惑し、どこか落ち着かなさそうにしている彼女に声をかけようとして、彼女の名前を口にしようとする。
その瞬間だ。
「いだだだだだ!? こ、この記憶は!?」
頭の中に入り込んでくる多くの記憶。
アステリズムクロスをプレイしてた自分、眠りについた自分、本棚から魔法書を取ろうとして床に転げ落ちた自分、同い年くらいの彼女に強く傲慢な態度を取っていた自分。
知っているはずの記憶と、知らない記憶、その両方が流れ込んできて、僕は自分の名前を思い出す。
僕の名前は……。
「ヴィ……ヴィクトル様!? ど、どうしましょう!?」
僕の名前はヴィクトル・ゾディアック。アステリズムクロスに出てくる悪役貴族という奴だ。
本来名前だけのそっくりさんという可能性を考えるものだが、ヴィクトル自身の記憶がアステリズムクロスの出来事と酷似している。
その証拠に床に落ちている魔法書……『ゾディアック式召喚術』はゲーム本編で出てくるアイテムと同じ名前だ。
「お、落ち着いて欲しい。ぼ、僕は大丈夫だから。そんなに慌てなくてもいいよ」
「え……で、ですが。いつもなら……えぇ?」
メイドさんはすごく困惑しているようで、大きく首を傾げる。
それもそのはず。何故ならヴィクトルは悪役貴族の肩書きに相応しく、相当なクズとして振る舞ってきたのだから。
アステリズムクロスに登場する悪役貴族ヴィクトル・ゾディアック。彼はゲーム本編では序盤の敵として主人公たちの前に立ちはだかる。
その性格は陰湿で嫉妬深く、他人の欠点を見ることに快楽を覚え、おまけに支配欲と権力欲にまみれているという分かりやすい悪役貴族そのものだ。
ヴィクトルはそんな性格ゆえに自分の婚約者や従者を徹底的に虐めていた。ゲームだと婚約者を虐めていたところに主人公が介入し、そのまま敵対することとなる。
そんな彼の末路は死のみ。一度主人公と戦い敗北した後、黒幕に唆されて事件を起こし主人公と再戦。主人公に敗北したヴィクトルは精神崩壊を起こし、最後は自身の婚約者の手によって殺されてしまうという結構悲惨な末路だ。
やってきたことに対して妥当な結末だが……このままだと僕は死ぬ!
ヴィクトルが死んだ理由が多すぎるっ! けどその原因の一つに人望の無さ、他人からの好感度の低さがある。
もう少し人望や好感度が高ければ助けてくれる人がいたかも知れないのに……。
先ずは人望や好感度を得ていくことを目標に努力しよう。ということでこのメイドさんへの対応、慎重にならなくては!
「ごめんね。困惑させるようなことをしてしまって。それに無茶も。でも本当に怪我とかないから。大丈夫だからそんなに慌てなくてもいいよ」
「え……えぇ!? ヴィ……ヴィクトル様が頭を下げて……。いつもなら罰が降るところなのに……!?」
頭下げて謝っただけでこの言われようだ。一体どんな生活をしてきたのやら。
さて、このままだと困惑するだけで信頼を獲得できないな。
「いや、頭を打ったせいか、人に痛みを与えるのは良くないなって……。そ、それに君はいつも僕のために頑張ってくれているだろう?」
「ヴィ……ヴィクトル様。ほ、本当にそう思っているのですか? 私を試すためとかではなく?」
「うん。本当にそう思っているよ。これを機にもう少し人との接し方を考えようかなと思ってね」
「ヴィクトル様……!」
頭を打っただけでこの変わりようは流石に怪しまれるか……?
そんな不安を一蹴するが如く、目の前のメイドさんは目をキラキラと輝かせていた。
「ローザは感激しましたっ! あの時のお優しいヴィクトル様が戻って来られるなんて……!」
あん? あの時のお優しいヴィクトル様?
ヴィクトルはゲーム序盤で破滅する悪役で、ゲーム内だと特にこれといった掘り下げはなかった。
人違いじゃないか?と思いつつも記憶を辿ってみる。
しかし、それらしい記憶は思い浮かばない。なにせ、目の前のメイドさんの名前すら、ヴィクトルは記憶していないようだから。
ヴィクトル自身のことをよく知る必要があるな。今は取り敢えず話に乗っておこう。
「まあ……そうだね。痛みを感じて理解することもあったんだよ。さて、僕はこの魔法書を勉強したいから部屋に戻るよ」
「あ……お待ちになってください。ヴィクトル様が探していたのはこちらでは?」
ローザは床に転がっていた『ゾディアック式召喚術』という魔法書を拾い上げて、そう口にする。
同じ名前のアイテムがアステリズムクロスにも登場するが、それを使えるようになるのはゲームの中盤で、もっと言うとあるヒロイン専用の強化アイテム的な位置付けだ。
ヴィクトルがそれを勉強したところで使いこなせないどころか、無駄な努力に終わってしまうだろう。
それよりも勉強すべきは錬金術……!
ヴィクトルは錬金術師という職業で登場する。錬金術と相性がいいはずなのに、ヴィクトルは先ほどローザが出してきたゾディアック式召喚術をメインに使う。
ゾディアック式召喚術はゾディアック家の秘術の一つだ。ただ、長年使い手がいないせいで魔法書は本体ではなく、別邸に保管され、ゾディアック家からも存在を忘れ去られていた。
秘術というだけあってその召喚術はゲーム中最強。ヴィクトルは使いこなせないくせにそれを使おうとして、自分の強みである錬金術を捨ててしまった。
僕は同じ愚はしない。錬金術を極めることで様々なアイテムを作り出して、破滅を回避するために使うんだ……!
「気分が変わったんだ。あ、それは僕が戻しておくよ」
「あ、ヴィクトル様……。本当に昔みたいになられたのですね」
「ま、まあ……。あんまりいわれると恥ずかしいからやめてくれないかな?(身に覚えがないし)」
「いえいえ、私は嬉しいのです。その姿をお見せになればすぐに周りの人もヴィクトル様を認めてくださりますよ」
にっこりと笑うローザを見つつ、僕は引き気味な笑みを浮かべる。
ヴィクトルが破滅するのは人望の無さ故。しかし、それ以外にも原因はゴロゴロと転がっている。
僕が破滅を回避するために、乗り越えなくちゃいけない難所がいくつかある。
一つはゾディアック家でのヴィクトルの立ち位置を変えること。
もう一つはゾディアック家がゲームの黒幕に利用されてしまうことを阻止すること。
そしてこれが大きな問題なのだが……ヴィクトルの婚約者をどうにかしないと、僕の破滅の可能性は完全に消えたとは言い切れないだろう。
その婚約者の名前は……。
「それにきっと……お優しいヴィクトル様なら婚約者のテレシア様のお力になれるはずですよ」
【作者からのお願い】
読んでいただきありがとうございます!
もしよろしければ作品のフォローや応援、星で称えるから星を入れてくださると執筆の大きな励みになりますのでよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます