第65話
「俺が……『紫電一閃』に?」
一瞬、頭が真っ白になった。
呆けたように辺りを見渡すと、他のメンバー達にもふざけた様子はない。
……おいおい、本気で言ってるのか?
「アルドさんのあの戦いっぷりを見て文句をつけられる人はいませんよ」
「男女間でもめ事が起きるので異性を入れるのには反対でしたが、アルドさんであれば問題はなさそうかなーと……」
フラウとアンジェリカはそういってはにかんだ。
そういったことには一番反対しそうなミラは、一度しっかりと唇を引き結んでから、
「私は……消極的な賛成かしら。竜騎士が入ればたしかにパーティーの戦力増強にはなるけれど、まだアルドのことをそんなによく知っているわけじゃないし」
「竜騎士って、俺はそんな大したもんじゃないが……まあ、ミラの反応が普通だよな」
「えー、でも……」
「エヴァからアルドの話は嫌っていうほど……」
「わーっ! わーーーーーっっ!!」
大きな声を上げながらブンブンと手を振り、メンバーの言葉をインターセプトするエヴァ。 酒を飲んでいるからか、その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
普段はあまり見ない取り乱したエヴァを見ながら笑う。
けれど俺の頭の中は、めまぐるしいほど高速で動き回っていた。
(にしても……まさか俺がAランクパーティー、それもエヴァからスカウトを受けることになるとは……)
スカウトを受けたのは、人生初めての経験だ。
つまりはエヴァを含めた『紫電一閃』が、俺の実力と人柄を見た上で、問題がないと判断してくれたということ。
そんな風に申し出てくれたことは、もちろん嬉しい。
だが……
『ごめんなさい、アルド。でもやっぱり無理があったのよ、私達』
脳裏をよぎるのは、何度思い出したかわからないエヴァの別れの言葉だ。
過去の彼女の残像は、今でも俺の心の奥底に焼き付いて離れない。
あの時と比べて、俺は変わることができただろうか。
そう、それこそ、エヴァと肩を並べることができるくらいに……。
エヴァが俺のことを認めてくれている、ということはわかっている。
だからこれは俺が……アルドというこの世界で生きてきた一人の人間としての、意地だ。
俺は覚悟を決めて、こちらの返答を待っているエヴァ達に、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「大変ありがたい申し出ではあるんだが……今はまだ、遠慮させてもらえたらと思う」
「……ははっ、ええ、そうよね……」
明らかに気落ちした様子のエヴァ。
けれどミラの方は俺の言外の意味に気付いたようで、こちらをジッと眺めて次の言葉を待っている。
「俺は色々な幸運が重なって、力を持つことができた。それこそ……エヴァ達のような一流の冒険者に認めてもらえるくらいに」
「あれだけたくさんの自律魔法を使える人間はなかなかいないですよね」
「何個か教えてほしいくらいだよ」
「二人とも、茶化さないの」
唇が渇く。
水で舌と喉を湿らせてから、不安げに揺れるエヴァの瞳を見る。
美しい黒の瞳の中に、弱々しく笑っている冴えない男が映った。
「でも正直なところ、俺はまだ……この世界に何も成すことができていない。だから……こんな状況じゃ、『紫電一閃』には入れない」
「――っ! それって……」
「ああ。もし俺がきちんと実績を出して、胸を張って『紫電一閃』と肩を並べることができるようになったらその時は……ぜひ、よろしく頼む」
俺はもう二度と同じ思いをしたくないし、エヴァにもさせたくない。
だからこそ俺が『紫電一閃』に入るのなら、彼女達のお荷物にならないと、そう自分で胸を張れるようになってからにしたいのだ。
今『紫電一閃』に入れば、俺はきっと彼女に甘えてしまうだろう。
だがそれではいけない。
対等の立場で向き合うことができない関係がどんなに悲惨な結果を生むかは、もう散々味わってきたから。
加入するのが、いつのことになるかはわからない。
だがそのために、今から全力疾走を続けるつもりだ。
大きく深呼吸をする。
覚悟は決まった。
だから俺は……自分の心に封をして、久しく口にしていなかった言葉を、もう一度口にすることにした。
「エヴァ、だからもし俺が自分のことを認められて、『紫電一閃』に入れるくらいの男になれたのなら……もう一度俺と、付き合ってほしい」
「な……あ……」
口をパクパクさせながら、頭から湯気を出し始めるエヴァ。
「未練がましいと思われるかもしれないけど……別れてからも一度だって、君のことを忘れたことはなかった」
一度口にすれば、あとはするすると言葉が出てきた。
意地を張るのは馬鹿らしい?
――男というのはいつになっても、好きな女の前でくらい、格好をつけたい生き物なんだよ。
「う、うん……」
エヴァがしおらしくなるのを見て、ミラ達が代わりにこちらにやってきた。
そして彼女達は俺の胸をぽすんと叩く。
「エヴァを待たせんじゃないわよ、アルド!」
「そうそう、エヴァもそろそろ適齢期なんだからね!」
「アルドさんと一緒に仕事できるの、楽しみに待ってますからね!」
「……ああ」
年を取ったからか、最近は涙腺が緩んでいけないな。
視界がどうにも滲んで、たまらない。
――こうして俺は、エヴァ達と一旦別れることになった。
だがその別れとは、以前とは意味合いが全然違う。
これはもう一度、今度はしっかりと前を向いて一緒にいることができるようにするための、前向きな別れだ。
俺は前を向いて歩き始める。
まず最初に目指すのは――今回の防衛戦のおかげで受けられるようになったBランクの昇格試験に合格だ。
「よし……行くか、スカイ」
「きゅうっ!」
俺はスカイと共に、再び空を駆ける。
目指すは試験会場のサロマの街。
俺のセカンドライフは、まだ始まったばかり――。
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