第35話

「とりあえず、ここで話をしましょ」


 連れてこられたのは、王都のギルド近くにあるカフェだった。

 華美な印象はないものの、しっかりと手入れの行き届いているこぎれいな店だ。


「あっ、リーダー!」


「こっちこっち!」


 案内されるがまま入り口近くのテラスまで案内されると、ぶんぶんとこちらに手を振る女の子と、恥ずかしさからか帽子を目深に被り直している女の子の姿があった。


「ほう……良い店だな」


「へぇ、この店の良さがわかるのね」


「ああ、こういう裏通りにある古めの仕立ての店は洒落てて好きだぞ」


 俺の呟きに答えるのは、俺達を先導してくれていた短髪の女性だ。

 彼女はミラ。

 『紫電一閃』でエヴァと一緒に前衛を張っている子だ。


 初対面の時に俺をあんた呼ばわりしてきたのも彼女で、どうやら俺に対する印象はあまり良くはないらしい。


 勝ち気で強気そうな瞳が印象的だが、身長が低めなので睨まれてもどうにも迫力がない。

 ただ彼女もAランク冒険者なので、容姿から舐めた人間は痛い目を見ることになるのは間違いない。


 ちなみに腰に提げられているのは反りのある刀で、蒔絵のように綺麗な鞘がちらりと見えている。


「何食べる?」


「とりあえずそんなに腹は減ってないから……スープと飲み物で」


「私も……今は流石にあんまり量が入らないからね……」


 二日酔いで食欲がいつもの五割程度まで落ち込んでいる俺達は軽めの食事を頼む。

 どうやら『紫電一閃』の三人は腹が減っているようで、普通にがっつりめのものを頼んでいる。


(これが……今のエヴァの仲間達か)


 あまり不躾にならないよう気をつけながら視線を向ける。

 Aランク冒険者パーティー『紫電一閃』。

 冒険者界隈では珍しく、メンバーの四人全員が女性で構成されているパーティーだ。


 四人とも見目麗しいおかげで、本来であれば普通の冒険者が呼ばれることのない高位貴族のイベントごとに呼ばれることもあるというから、やはりどの界隈だろうが美人は得ということなのだろう。


 当然ながら残る二人に関してもある程度の情報は入ってきている。

 ……というか、その情報源自体が酒の席のエヴァだ。

 なので巷で流れているような噂ではなく、生っぽい事実の方を知っている。


「ええっと……まずは自己紹介から。私の名前はフラウ、クラスは精霊魔導師の後衛だよ」


「わ、私はアンジェリカ……同じく後衛をしています」


 フラウはプラチナブロンドをした女性で、その瞳は右が赤で左が青のオッドアイ。

 瞳の色と同じく、火と水の精霊魔法を使う。


 いかにも魔女然としたローブを着ているものも相まって妙に雰囲気があるが、語る口調やこちらへの態度は柔らかい。

 ちなみに彼女は重度のギャンブル中毒者で、財布の管理はエヴァがしているらしい。


 もう一人の女の子はアンジェリカ。

 おどおどとしている様子から、かなりの人見知りであることがわかる。


 ちなみにかなりの内弁慶で『紫電一閃』だけの内輪になると彼女が一番口数が多いらしい。

 この様子を見てると、ちょっと信じられないけどな。


「俺はアルド。まぁ多分知ってると思うが……以前エヴァとはパーティーを組んでた」


 そのことは全員知っているようで、驚いた反応はない。

 軽く自己紹介をして飯を食いながら、世間話をしているエヴァ達の話に適当に相づちを打つ。


(にしても……俺はなんで呼ばれたんだろうか?)


 最初はエヴァと二度と会わないように警告されるのかとも思ったが、よくよく考えるのならそれなら彼女を一緒に連れてくるはずがない。

 というかぶすっとした表情をしているのはミラだけで、アンジェリカとフラウの方はこちらに興味津々な様子だ。


 彼女達と話そうとするとなぜかエヴァに話をインターセプトされてしまうため、なかなか口を開くタイミングがない。


 というか、スカイは大丈夫だろうか……。

 初めて留守番を言いつけたんだが、好奇心旺盛なあいつが果たしてしっかりと家にいてくれるかは少し心配だ。


「それで、本題に入るんだけど……」


 俺が心ここにあらずな状態でぼうっとしていると、皆がようやく真面目な話をするモードへと切り替わった。

 俺も意識をこちらに戻し、彼女の言葉を待つ。


「――エヴァとあなたって、一体どういう関係なの?」


 ……なんだ、関係を確認したかっただけなのか。

 それなら宿で聞いてくれればそれで済んだだろうに。


「ていうかさ、付き合ってるの!?」


「いきなり宿を引き払ったと思ったら、アルドさんの宿に行ってるわけですし、これはどう考えても……」


 見ればアンジェリカとフラウは目を輝かせながらこちらを見つめていて、その隣にいるミラは少しぶすっとした仏頂面を浮かべている。

 そして俺の右隣にいるエヴァは、何かを期待するような顔をしてこちらを見つめていた。


 しかし、俺とエヴァの関係か……。

 誤魔化して煙に巻いてしまうこともでいるが、今ではエヴァと命を預け合うパーティーメンバーである彼女達に、隠し事をするのは良くないだろう。

 なので俺は正直に告げることにした。


「エヴァは俺の――元カノだよ。今はそれ以上でも、以下でもない」

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