第7話 俺と一緒に、部活を作ろう

 結論からいうと、ジョーには追いつくことが出来た。

 俺も不思議だ。

 何で?


「はあ……っ、はあ……っ」

「……」


 もっというと、校舎に入る前に捕まえられたんだけど。

 何で?


「はあ……っ、はあ……っ」

「疲れすぎじゃね?」


 何で?

 こっちは息一つ乱れていない。


「くそ……っ、まんまと策にはまってしまった……!」

「いや何もしてねえよ」


 お前が勝手に疲れただけだよ。


「とりあえず座りませんか?」


 ジョーは、そう言って近くの適当なベンチへとフラフラ歩いていく。もう逃げようとはしていないみたいなので、俺も大人しく後をついていく。


「はあ……はあ……」


 まだ疲れてるよ。

 こんなに疲れるなら何で走って逃げたんだよ。

 昔から、ジョーは頭脳派であまり身体を使う遊びは得意ではなかった。

 だから、色鬼とか高鬼とか隠れ鬼のような、頑張れば単純な追いかけっこにならずに勝てる遊びが強かったっけ。

 反面、純粋な鬼ごっこや缶蹴りとかは弱かったなあ。

 ……。

 …………。


『ジョーさ、無理せず違う遊びしようぜ』

『そうだよ』

『オレはSASUKEごっこがしてえな!』

『ケイは黙っててくれるかな』

『何だと!?』

『それで、ジョー。どうする? 色鬼するか?』

『いや、ルカの提案は嬉しいけど、一度始めた遊びは最後までやりましょう。それが自分の信条なので』

『心譲だけに?』

『ケイは黙っててください』

『何だと?!』


 …………。

 ……。

 懐かしい記憶だ。

 あの時みたいに遊ぶことは出来ないのか?

 俺のこと、嫌いになったのか?


「ジョー」


 ベンチに二人揃って座る。


「久しぶりだな。俺のこと覚えてるか?」

「……その名で呼ばれるのも、久しぶりですね。もちろんルカのことを忘れたことなんて、ありませんよ」


 顔見た瞬間に逃げたのによく言うよ。


「じゃあ何で逃げたんだよ」

「……風の噂で、あなたがこちらへ帰ってきていたのは知っていました」

「うん」


 それで?

 

「それを嬉しいと思う反面、ルカが変わっていないか、また一緒に遊べるのか、少し怖くなってしまいましてね」

「何だそんなこと……」

 

 そんなことあるわけない。

 気持ちと裏腹に尻切れとんぼになる言葉。

 脳裏に響く朝の会話。


『アタシたちが親友だったのはルカだけだから』


「ルカ?」

「いや……何でもない」


 首を横に振る。

 代わりに気になっていたが、怖くて双子には確認出来なかったことを聞いてみることにした。


「あのさ、俺が引っ越してから、本当にみんなで遊ばなくなったのか?」


 すると、


「ええ、でもね、最初のうちは集まっていたんですよ」


 ジョーの話では、俺がいなくなった当初は放課後に文化センターで集まって遊んでいたようだ。

 しかし、まず双子が来なくなった。

 何も連絡はなく、本当にぱったりと来なくなったらしい。喧嘩もしてなければ、不満が募る様子もなかったそうだ。

 ハルとカナとは、それっきりだという。

 学区も違うし、活動範囲の狭い小学生では追いようがないからな。

 続いて、ジョー自身が塾に通い始めることになったため、行かなくなったのだとか。


「塾という理由があったとはいえ、ハルたちに引き続き自分までいなくなるって知ったら二人からなんて言われるか、想像して怖くなってしまいましてね」


 だから、情けないことに何も言わずに行かなくなってしまったと、ジョーは独りごちる。


「だからさっきも逃げたんだな」

「いつかきちんと謝りたいとは思っているんですよ。だから、二人のことは今も気にかけてはいるんです」

「二人……なあ、ケイはこの学校にいるのは知ってるんだが、カリンもいるのか?」

「ええ、いますよ」


 なんと。

 かつての幼馴染が、みんなこの学校に通っているなんて。


「ただ、あいにく二人ともクラスが違います。なので、自分も中々会いに行く勇気が出なくて」


 彼は、申し訳なさそうに眼鏡をくいっと釣り上げた。


「ルカは、自分たちにとって、大きすぎる存在だったんだと実感しましたよ」

「……」


 いつも遊んでいた面々を集めたのは、まごうことなく俺なのだが、長いこと一緒に遊んでいれば、それなりにみんな仲良くなる。

 俺がいなくなっても、そのまま遊び続けて仲良いままでいられると思っていた。

 が、間違いだった。

 俺が引っ越してから、まるで割れた硝子のように散ってしまった。


「ジョーは、またあの時みたいに遊びたいって、思うか?」

「……難しくないですか」

「どうして?」

「もう自分たちは高校生ですから。あの時とは違ってしまっているんじゃないかって、思うんですよ」

「そりゃ変わってるところはあるだろ。つか、質問は『お前が遊びたいのか』だ。ジョーの意思はどうなんだ」

「……」


 彼は考え込んでいる。


「…………ルカ」

「何だ」

「勉強することが全てだった自分にとって、あの時の思い出はかけがえがないものだったんですよ」

「……そうか」

「だから、あの日々が戻ってくるなら、また一緒に遊びたいです」

「よし」


 よく言った。

 俺はベンチから立ち上がり、彼の方を振り返る。


「決めたぞ!」

「ルカ……?」


 散ってしまった幼馴染たちだが、偶然なのかみんなこの学校に通っている。

 疎遠にはなってしまったが、喧嘩別れじゃないんなら、話は簡単だ。

 また集めればいい。

 そして、今度は同じ状況にならないようにすればいい。


「一緒に部活を作ろう!」


 きょとんとしているジョーのために、もう一回言ってやる。


「俺と一緒に、部活を作ろう」


 俺はお前たちとまた目一杯遊ぶために、わざわざ雪国から帰ってきたんだぜ。

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