第5話 来ちゃった
場所は変わって、教室。
正直、朝食の時の彼女らの話が頭から離れない。しかし、双子は双子で全く意に介してない様子で「遅刻するよ!」と急かしてくるので、考える間もなくこうして登校してきたわけである。
一体、何なんだよ。
『知らなーい』
『知らないよ』
何があったんだよ。
みんな仲が良いと思ってたのは、俺だけだったのか?
昼休み、ケイのいるクラスに行ってみるか。
と。
その前に、今日はまだ体育は自習なので、その時間を使ってクラスの交友を深めるための会をするらしいからな。
友達、作ってみせる!
れくりえーしょんは、近くの席の六人で集まって、お互いの自己紹介をしつつ、趣味とか入る予定の部活とかを話し合うというものだった。
クラスにはあらかじめ自己紹介用の用紙が配られていて、家で必要事項を記載して持ってくることになっていた。
俺も机をくっつけ、鞄から自己紹介用紙を取り出して準備を進める。
「何だか、緊張するね」
不意に、くっつけた机の正面に座る女子生徒はくすりと笑う。
「そうだな、長沢さん」
彼女は長沢 小春(ながさわ こはる)さん。
隣の席に座っていて、偶然にもお互い中学が県外だったことから少し話をするようになった子だ。
肩ぐらいまで伸ばした髪はよく手入れされているのか、とても艶があって、笑う度にサラサラと揺れている。
それを見て、そういやハルとカナも髪がすげえ綺麗だったなと思い出した。
女の子ってすげえな。俺なんてたまに石鹸で髪洗うってのに。
「嘘だ。潮見くん、あまり緊張してなさそうだよ」
「そう? 内心は緊張しすぎてすごいから。もう心臓がつっちゃうくらいだから」
「その割にシートが空欄だらけじゃない」
余裕だね、と彼女は俺の自己紹介用紙を指差した。
「ああ、昨日何書こうか迷いすぎて、考えに考えてたら朝だったんだよな」
おまけに、朝はやかましい双子が乗り込んできたから、書くどころじゃなかったんだよな。
「普通に忘れて寝たんだね」
「あたりだ。さすがに誤魔化せなかったか」
再び、くすりと笑われる。
決して派手ではないが垢抜けていて、どきどきするんだよな。
新潟にも女子の友達はいたが、男友達みたいなノリだったから、彼女みたいな子は初めてだ。
「まあ、考えに考えてたってのは本当。だって俺には同じ中学の子なんていないし、大した趣味もない」
ちらほら同じ小学校じゃね? ってやつもいるが、さすがに顔を知ってる程度じゃなあ。
「分かるよ、分かる」
「だろ?」
「いつ引っ越すか分からないのに、がっつり趣味活なんて出来ないよね」
「だよなあ」
彼女は落ち着いた雰囲気で話しかけやすいし、親の転勤という共通点もあってか、結構気が合うんだよな。
「でもさすがにこれじゃ自己紹介出来ないんじゃない。先生が何か言うまでササっと書いちゃったら?」
「ああ」
たしかに言う通りだ。
自己紹介用紙は、半分くらい真っ白。
よくこんなんで友達作るとか言ったな、俺。
お言葉に甘えて書いちゃおう。
「…………」
前から視線を感じる。
顔を上げると、長沢さんはいたずらっぽく首を傾げる。
「ん? ワタシのことは気にしないで。ほら早く書かないと」
「…………」
気にするだろ。いや、気になるだろ。
仕方ないので、がっつりと見られながら、何とか空欄を埋める。
ちょうど、書き終えるか終えないかという頃合いで、先生が口を開いた。
自己紹介は、書いてきた用紙を順番に話して、それに対して一人ずつ必ず一問質問をするというものだった。
よし。
友達作りだ。雪国仕込みのこみゅにけーしょんを見せてやる。
昼の鐘がなった。
周りが「またね」「このまま学食行く?」なんていいながら机を元に戻して解散していく。
俺はというと、グループに恵まれたおかげで、結構打ち解けることが出来たように思う。
男女三人ずつで調和がとれているし、騒がしすぎず、大人しすぎずといった子が揃っていた。
ようするに平和な班だったわけだ。
「じゃあね、シオミー」
「ああ、また。サワさん」
隣に席を戻した長沢さんあらため「サワさん」と挨拶を交わす。
自己紹介の中で、仲良くなるために呼び方を変えようという話になったため、あだ名を考えることになったのだ。
俺は無難に名前呼びに落ち着いたのだが、サワさんは名前が「小春」なので、偶然にも「ハル」というあだ名がついてしまった。
だから、
『悪い。俺の友達に同じあだ名のやつがいるから、別の呼び方にしてもいいか?』
『ふうん。仕方ないね。シオミーだけ特別に違う呼び方を許してあげるよ』
『本当か。ありがとう!』
『いいよ。だから名前呼びで——』
『特別なあだ名だろ、「サワさん」はどうだ?』
『……シオミーにはセンスもデリカシーもないんだね』
こんなやりとりを経て、今の呼び方に落ち着いたというわけだ。
「なあシオミー、良かったら昼一緒に食べないか?」
「もちろん。教室でいいか?」
一緒のグループだった男子、藤崎と日ノ出とも無事に打ち解け、一緒にお昼を食べることになった。
入学から数日、昼は学食で一人寂しく食べてたからな。飛び上がりそうな程嬉しいぞ。
机を寄せて、お弁当を広げる。
そして、いざ食べようというところで、
「あれ誰?」
「すっごい綺麗な人……」
「でも怖くない?」
少し教室の入口辺りが騒がしくなった。
何だ?
すると、最初少し離れていたざわめきが、不意にどんどん近づいてきた。
視線をその方向へ向けると、
「カナ?」
「来ちゃった」
「何で?」
「来ちゃった」
「話聞いてるか?」
カナが俺の机の前に立っていた。
しかも、無表情で「ぴーす」していた。
「来ちゃった」
いや見ればわかるって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます