第8話 受け入れられぬ運命

 まだ満足に動かぬ体を引きずり、牛もどきに近づく。


 「ブモッ ブモォォ!」


 牛もどきは近づく僕に対して、いまだ力強い瞳で睨みつけながら吠えている。なんとか体を起こそうと暴れているがやはりバランスが取れずに起きれていない。


 こいつの体を傷つけるのは容易ではないことは戦闘中に分かった。まずは氷の槍で目を潰す。更に暴れるが気にしない。


 そのまま体の上に跳び乗り心臓の位置に手を当てる。そして心臓まで届くように魔力を牛の体内の深くまで放出する。そして、魔力に雷の属性を付与する。


 「ブモッ ブモッ ブモッ」


 牛もどきが痙攣し始める。だんだんと牛の命の灯火も尽き始める。


 そうしてようやく牛もどきの命の灯火が完全に尽きる。次の瞬間眩い光が辺りを包む。母様が亡くなった時にも起こった現象だ。この後だ、見失うな。この後に命の灯火は体から離れ飛んでいくはずだ。


 光が収まる…ある、牛もどきの体から今まさに離れ飛んで行こうとする光が。考えるよりも先に、その光を掴もうと行動していた。魔力を掌に纏い、光を優しく包む。光は手の中に収まる。


 この手の中から決して光を零さぬように慎重に、されど急ぎつつテンの元へと辿り着く。


 今まさに消えようとしているテンの命の灯火。回復魔法で助からぬ命なら諦めるしかない。それが世の常だ。しかし、そんなものを受け入れられるわけがない。この子は、テンは僕が守ると誓ったのだから。


 手の中の光を、テンの命の灯火がある位置へと押し当て、魔力を放出しながら2つの命が1つにに混ざるようにイメージする。


 そうしてどれだけ経ったか。僕の魔力が尽きかけようとする直前、テンの体内で反発しあっていて2つの光が1つになった。


 僕にやれることは無くなった。効果は無いだろうと思いつつも更に回復魔法をかける。


 テンの様子を探る。尽きようとしていた命の灯火も、今は力強く光っており、苦しそうに呼吸していたのが今は安定している。


 よかった…この様子だとなんとか助かっただろう。本当に良かった。


 ひとまずは拠点にてテンを休ませよう。そしたら後は牛もどきの解体だな。この巨体じゃ一度で持ち帰るのは無理だな。それに皮にナイフを通すのも一筋縄じゃいかなそうだ。なんとか日が暮れる前には終わらせないとな。




 ふぅー、、、不器用ながらもなんとか終わらすことができた。解体した肉は寝床にも使った大きな葉っぱに包み、魔法で冷気をかけ拠点の奥に保管した。


 僕には皮の加工など出来ないし解体も上手くないため牛もどきの一部は戦闘した場所にそのままになっている。きっと生態系の一部として何かしらが後処理をしてくれるだろう。それに未だに草食動物と思わしきものしか見ていない。動物の肉を食らう生き物がどんなものなのかを知るいい機会になるだろう。


 「キュー?」


 牛もどきの肉を焼きながらそんな事を考えているとテンが目を覚ました。


 「テン!目を覚ましたか!危険を冒してまで僕を守ろうとしてくれてありがとうな…ただ、テンがアイツに突き飛ばされた時気が気じゃなかったんだぞ。」


 そう言って泣きながらテンを抱きしめる。


 ちょっと、くすぐったいって!


 僕の涙をぺろぺろと舐めてくれる。


 「キュ!キュー!キュー!」


 だがその後に抗議するように僕の胸に前足をペシペシと叩きつける。


 「僕の方こそ危険な事をするなってか?」


 「キュ!」


 まるでそうだと言わんばかりに鳴き、足を叩きつけるのをやめる。


 「そうか。ごめんな。おまえにも僕しかいないんだもんな。」


 「キュー」


 「さあそろそろ肉も焼けてきたし食べるか。」


 テンが食べやすい様に一口サイズに切り分けテンの前に出す。


 「それじゃ食べようか。いただきます。」


 もぐもぐ


 「んー美味しい!」


 牛のようなのに家畜化された牛とここまで美味しさが違う事に驚きを隠せない。


 「キュー!キュー!」


 「そうかそうか、テンも美味しいか。」


 テンも僕の周りをぐるぐる回り嬉しさを表現している。


 今日は初めて動物と戦い殺した。決して簡単な戦いではなかった。一歩間違えばテンを失ってしまっていた。それでも今生きていることに意味がある。テンを失わないようにもっと強くならないとな。



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