閑話 幼き勇者の始まり

 

 幼女勇者の成り立ちとダンジョンに来た理由


 ちょっと今まで書いたことない感じになってしまったから読みにくいかも。ごめんよ

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 その幼女は孤児だった。

 少女と呼ぶには幼過ぎた。5つにして家族はすでになく、身も痩せこけ1人町の路地裏でひっそり息をしていた。

 

 そのまま何もなければ近いうちに消えゆく命だった。幸運にも幼女がいた町にある教会のシスターに拾われ命を救われた。

 それはただの慈悲ではなく、小さい時から教育し敬虔なる信徒を増やすと言う打算のある行動ではあったが、その幼女の命が救われたのは間違いなかった。


 幼女は拾われた時薄汚れていたが、拾われ身を綺麗にすれば見目のいい子供であることがわかった。

 教会の者たちはすぐに通常の信徒シスターではなく、聖女付きもしくは上層部の付きシスターとしての教育を施し始めた。

 それと同時に、護身用の技術を教えることも開始された。


 この世界は危険が多い。

 町の外に出れば人を襲う獣や魔物が存在している。しかし、それ以上の危険が存在した。

 それは人攫い。要するに同じ人間である。


 この世界は人を攫うことに抵抗を感じない人間が数多く存在している。町に住んでいてもその危険は失われない。

 これは王が住まう王都であっても存在している犯罪なのだ。王都から離れた町であればその被害は酷いものである。

 ある程度の広さがある町であれば、年間で100人近い人が攫われていると言われるほどに。


 攫われてしまった人間の行き先の多くは奴隷だ。そして、その多くは貴族などの権力者に買われていく。

 国の中でもある程度の力を持っている教会であっても信徒が奴隷として売買されてしまえば取り返すことはできない。


 人攫いは犯罪である。

 法律としてそうしっかり記載されているが、しかしその法律は平民を守ることはない。


 法律は貴族や大店の商人などの権力者のために存在しているのが現状だ。平民の存在など権力の前ではないも同然だった。


 故に見目のいい女性や子供は自衛のために家から出ないことも多い。その幼女に護身のすべを教え始めたのもこの一環である。


 ただ、想定外にこの幼女はシスターの教育以上に護身の技術を素早く身につけていった。


 幼女には武術の才があった。戦う才があった。

 教えられた護身の術はすぐに使えるようになった。


 この段階でまた教会は教育の方針を変更した。

 仕方のないことではある。ここまで武術の才があるのであるならシスターにしておくのは宝石を見ることなく箱の中に押し込んでおくのと同じで愚かなことだ。


 最初に聖女騎士として育てる案が出た。武術の才があり見目もいい。その案が出るのもおかしくなかったが、しかし、その案はすぐに却下される。

 

 現在聖女として活動しているのは貴族のでの者だ。そこに身を守る護衛として背後を明確にできない孤児を採用することは不可能だった。

 ならば聖騎士に、と言う案も出たが、今後どの程度まであの幼女が強くなるのかわかっていなかったため、保留となった。


 幼女は6歳となった。この歳になれば聖別と呼ばれる、教会で行われる町の住民として認められるための行事に参加することになる。


 本来、聖別とは才ある者を識別するために行われるものだ。しかし、大半の子供が無才として判別されるため、実質その子供がこの町で住んでいることを証明するための行事になっていたわけだ。


 そしてこの幼女には才能があった。勇者としての才能があった。


 これが幸か不幸かそれはわからないが、その幼女には勇者としての才が存在した。


 勇者はこの世界で英雄に成り得る才能を持つ者の称号だ。

 その才の内容は同じ勇者としても全く異なることが多い。この幼女の才能は戦うことに特化した才能だった。


 幼女はこの才能が判明してすぐ国軍に編入させることが決まった。しかし、この幼女は教会の一員として生活していた。

 王政と教会は切っても切れない間柄であることが多い。そしてこの国もその例にもれず強い繋がりを持っていた。

 

 普通であれば親元から引き離され、すぐさま国の軍所属の人間として扱われるところなのだが、親が居らず教会が後ろ盾として存在していたことで、所属先について少しだけ揉めた。


 教会側からすれば、初の教会所属の勇者を誕生させる絶好の機会である。簡単に国側の意向に首を縦に振ることはなかった。

 国側からすれば、これほどまで戦う際の持った勇者を軍人として手に入れれば、国軍の強化につながるのは明白たっだ。故にどうしても国軍に所属して欲しかった。


 結果として、この幼女はどちらにも所属しているという、中途半端な立ち位置につくこととなった。

 

 そして勇者としての才が明らかになったことで、将来は聖女付きの勇者になることが決定された。孤児の出ではあったが、勇者であること、同性であったことから意を唱える者は少なかった。


 それに伴い、国軍から十人ほど、教会騎士の中から数人、この幼女の教育権付人として付かされることとなった。


 教会側の人間のほとんどはこれまで幼女の教育に携わっていた者で構成されていた。国軍側は当然ではあるが、幼女が初めて邂逅する者で構成されていた。


 幼女と教会関係者の関係は良好であったが、国軍から派遣された者の中にはそうではない者が存在していた。

 この者たちの多くは幼女の見た目を見て純粋に不安になったり、幼いくせに自分よりも立場が上になったことに対する不満を持ったりした者が多かった。


 勇者としての立場をもってしばらく、幼女は着実に成果を上げていった。まだ幼く特殊な立場とは言え、国軍に所属しているため相応の結果を出す必要があったのだが、幼女は何事もなく期待に応えていった。


 始めは村などに被害を出す獣や魔物の討伐をし、経験を積みつつ徐々に戦う相手の強さを上げていった。

 魔王軍の幹部を倒し、ドラゴンを倒した。


 しかし、そんな幼女の活躍を快く思っていないものはどこにでもいる。勇者だからと幼女に付けられ、一緒に戦ってきた軍人たちの中にも、それは例外ではない。


 そして、幼女が勇者としての活動をする中で1人が愚痴を漏らしてしまった。


 これまでの活躍は我々が居たからこそできたことだと。

 どうして自分があのような子供に付き従わなければならないのかと。これでは格好がつかないと。

 付き従うなら大人の勇者が良かったと。

 できることなら大人の女性が勇者なら良かったのにと。 


 これは幼き勇者を除いた酒飲みの場での発言だったため、同じく勇者付きの者たちは男を慰めながら受け流した。


 しかし、酒の場であったことが災いし、注意力散漫となった者たちの中に幼女がその愚痴を聞いてしまったことに気づいた者はいなかった。


 幼女は知っていた。

 自分と一緒にいる人たちの中で不満を持っている人がいることを。自分のことをあまりよく思っていない人がいることを。


 幼女は少ない経験と知識を使って調べた。


 少しでも早く大人になる方法を。自分のために動いてくれている人たちの不満を減らす方法を。


 そしてたどり着いた。たどり着いてしまった。


 間違った答えに。


「このダンジョンに入れば大人になれる? なら行こう」


 幸か不幸か、そのダンジョンは滞在していた村から比較的近場に存在していた。


 幼女は行動派だった。

 思い立ったら吉日であり、少しでも早く付人たちの不満を解消してあげたかったのだ。


 そうして幼女勇者は、付人たちが気づく前に1人で目的のダンジョンに向かってしまった。



 当然だが、幼女勇者がいなくなったことに気づいた付人たちが周章狼狽状態になったことは言うまでもない。




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 幼女にダンジョンのことを教えたのは、酒場のオヤジ。

 「まさか本当に行くとは思わなかった」とは、幼女勇者の付き人たちに囲まれた時に発した発言である。このオヤジがこの後どうなったかはわからない。


 なお、愚痴をこぼした男は別に勇者のことが嫌いなわけではない。最初はこんなガキが勇者かよくらいに思っていたが、今ではいいガキだとは思っている。でもやっぱり付き人するなら色っぽいボインなお姉ちゃんがいいな、とも思っている。

 10年後どうなっているかが楽しみだね。


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