商業作家の作り方

赤夜燈

架空の商業作家、架空の作品、架空のライナーノーツ


 ほんの出来心だったんです。


 私はけっこうな読書家で、ある日ふと「自分でも創作をしてみたい」とつぶやいたんですよ。


 そうしたら、フォロワーの商業作家が「書きなさいよ」と乗ってきて。


 商業作家でもなんでもないのに、商業作家を勝手に名乗る与太アカウントも乗ってきて。


 ええ、いつものお遊びですよ。「あの辺」の人たちの、ごっこ遊びです。


 創作に二の足を踏む、私の背中を押したいって気持ちもあったんでしょうね。それ自体はありがたいんですが、ええ。またいつものように、


 私が商業作家で、私が書いた架空のデビュー作について、みんながあれこれ感想を語る。


 そんな与太話のドッジボールを、楽しんでいたんです。いつものように、深夜まで。



 翌日? 普通に起きましたよ。仕事の合間に昨日の与太話タイムラインは楽しかったなあ、なんて、架空のデビュー作である『パンの太陽』で検索したんです。虚言だけでできた存在しない自分のデビュー作の話を、反芻したくて。


 書影が出てきました。


 書影と、著名な先生の書いた帯と、発売日。


 誰もが知ってる出版社のアカウントで、私の名前で架空のデビュー作が発売されることになってました。


 きちんと、 昨夜、『パンの太陽』なんて作品は存在しないと確認したはずなのに。


 私、書いてないんですよ。でも、作者のTwitterアカウント名は間違いなく私で、宣伝とかしてくださいねってメールが編集部から来て、発売前重版いけるかもしれませんよとか言われて、それで今宣伝のつぶやき必死にしてるんですけど。


 教えてください。


 私は、何になってしまったんですか?



――何って、「商業作家」ですよ。おめでとうございます。



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