第8話 襲われる村 戦う少女
どんくさい女神様に業を煮やした三郎は、アルケーを担ぎ戦場へと急いだ。
何かが破壊される音、怒号や悲鳴が混じった喧騒が次第に大きくなって来る。
森を抜けた先は急な斜面になっていた。その下には小さな集落があり、そこを見た事のない生き物が暴れ回っている。
「あれがモンスターって奴か!?」
大きい鼻をした角の無い小鬼。猪頭の偉丈夫。人間の様に立っている山犬。
それぞれゴブリン、オーク、コボルトと言ったモンスターだが三郎が知る筈もない。
「ちょっと早く下ろしなさい」
担いでいたアルケーが脚をバタバタさせて三郎を蹴る。そして地面に下ろされるものの、バランスを崩して転んでしまう。いよいよどんくさいでは済まなくなって来た。
「アンタもっと丁寧に運びなさいよ」
「なら自分で歩ける様になれ。お前の脚に合わせてたら1町歩く内に日が暮れちまう。それより見てみろ」
兜を被り直す三郎に示されて眼下の惨状に目を向ける。
そこには1人の少女がモンスターと戦っていた。鎧を纏い右手に剣を左手に盾を装備し、逃げる村人達を庇いながら孤軍奮闘している。
だが驚くべき事に、多勢に無勢である筈の少女の方がモンスターを圧倒していた。鎧の重さを感じさせない軽やかな動きで駆け回り、攻撃を受ければ盾で防御、すかさず剣での斬撃を見舞う。既に多くのモンスターが屍となっていた。
が、高所から見ていると、モンスターの一部が迂回して村人達が避難している建物に向かっているのが見えた。
「どうする女神様?」
問い掛ける三郎の手には既に矢が取られていた。
「当然、助けるわよ!」
「どっちを?」
「人間に決まってるでしょバカ!」
「誰がバカだコノヤロー!」
「いいから撃て!」
三郎は口をへの字にしながら弓を構えると、一番大柄なオークに向けてびゃっと射る。放たれた矢は、今まさに少女を潰そうと大槌を振りかざしたオークの首元に命中し、勢い余ってそれを跳ね飛ばした。
「ぃよーし! 見たか! 一番デカい首を射てやったぜ!」
さっきの怒りはどこへやら、三郎は子供の様にはしゃぐ。
(いや、オークの首を跳ね飛ばす矢って、どんな威力よ!?)
オークは強靭な肉体を持つモンスターだ。生半可な攻撃では倒す事は出来ず、むしろ怒らせて返り討ちに合う者もいる。
そもそも矢で肉を断つなんて事が出来るのだろうか。
突然の援護射撃に少女がこちらを向く。それに対して三郎は弓を掲げながら、空に轟く大音声を上げた。
「敵が迂回しているぞ!! 戻れぇ!!」
だが少女は中々戻ろうとはしない。戻りたいがここのモンスター達も捨て置く訳にはいかないといった所だろう。
三郎はもう一度叫んだ。
「戻れぇ!!」
その後押しで漸く少女は後退を始めた。
しかしこの叫びで三郎達の位置がバレてしまい、数体のコボルトがこちらに向かって来る。
彼等にとっては急斜面などなんて事はない。わずかに手足が掛かる足場を飛び跳ねる様にして迫って来る。
それを獲物が来たと三郎が弓を構えた時だった。
「
アルケーの銃口に光が走った。淡水色の魔法弾は向かって来るコボルト達を次々と崖下に叩き落とす。弓なんかより遥かに優れた速射は、三郎が狙った獲物までも横取りして一方的な勝利を見せた。
「はぁ~撃った撃ったぁ!」
全ての敵を撃ち落とした女神は満足感たっぷりの清々しい笑顔を見せる。
そして一体も射る事が出来なかった三郎は不満気なジト目を向けた。
「ずりぃ……」
こんな言葉しか出て来ない。
こっちは身体全体を使って渾身の一射を放っているのに、あっちは指一本で敵を全滅させてしまった。これではあまりに不公平だと感じた。
「それ俺にくれ」
「は? 人間が扱える訳無いでしょ。一発撃つだけで魔力が吸い取られて干乾びるわよ」
「寄こせよ!」
それでも引き下がらず三郎は無理やり奪おうとする。
「何でよ!? 人には使えないって言ってんでしょ!?」
「やってみねえと分かんねえだろうが! 寄こせ!」
「だいたい無理矢理奪おうとするなんて、どういうつもりよ!?」
「欲しけりゃ奪う! それが坂東武者だ!」
「蛮族か! 無法過ぎるでしょ!」
アルケーは取られないように、さっさとアーリーライフルを別次元へと格納する。こうされては流石の三郎も引き下がるしかない。
既に村を襲っていたモンスター達は逃げ去っている。避難していた村人達が、斧などを持って周辺の警戒に当たり始めていた。
「さあ、行くわよ。この村で情報を手に入れるの」
アルケーは比較的傾斜の緩やかな所を見付けて、斜面を降りていく。三郎もそれに続こうとした時、
「イヤァァァァ~~!」
バランスを崩して転げる様に滑落して行った。
「どんくさい過ぎるだろぉ」
三郎も続くがこんな斜面、彼にとってはなんて事はない普通の下り坂だ。
崖を降りると、さっきモンスターと戦っていた少女がこちらに駆けて来た。
赤のインナーに白の鎧を身に纏った小柄な少女。髪は茶色で顔にまだ幼さが残っている一番可憐な時期の娘だ。
こんな少女がさっきの大立ち回りをしていたとは、にわかには信じられなかった。
「あれ? 貴方は……」
少女の顔を見たアルケーは驚いた様に目を丸くした。
同じく向こうも彼女の顔を見た途端、口を大きく開けて驚愕し女神の名を言う。
「あ、ああ……アルケー様!?」
その声はまるで恩人に出会ったかの様な、喜びの感情が混じっている。
「やっぱり! 貴方は!」
「はい! 貴方様に力を与えられた勇者!
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