第5話 蜂蜜色と勿忘草色
「トビウオ」
「なんでしょう?」
あれから俺とシロネコさんは、
ちょっとだけ、世間話をするようになった。
シロネコさんは、ちょっとだけ浮世離れしている、
ふわふわしたところがある。
つかまえていないと、どっかいっちゃうなぁと、
思うけれど。思うんだけど。
つかまえたら、消えちゃうか壊れちゃうか、
あとは、嫌われちゃうか。
様々の可能性を考えた挙句、
俺はまだ、お調子者の友達以上のことは何も言えない。
いいんだ。
ふわふわしたシロネコさんが、俺に警戒心を持たないで、
じっと見ているだけで。
「トビウオ?」
「ああ、はい、なんでしょう?」
「聞いてなかった?」
「あ、はい、すみません。すみません」
シロネコさんのくるくるとしたきれいな髪が、やっぱりいいなぁとか。
シロネコさんのきれいな目が、
あー、目の色が最近おいしかった蜂蜜みたいだなーとか思う。
そうじゃなくて、シロネコさんの話聞かなくちゃ。
「勿忘草色って、どんな色なのかしら?」
「へ?」
俺は、シロネコさんの問いに、思わず妙な声を上げる。
「トビウオはわかる?」
「俺にわからないことなんてないですよ!」
俺は勢いで、思っていることと反対の事を言い出す。
おい、トビウオさん、というか、俺、
わからないってはっきり言えよー。
「わかるの?」
そのときのシロネコさんったら、蜂蜜の目がきらきらとしていて、
俺はデタラメをかますことにした。
喜んでください、できれば、俺の頓珍漢なデタラメで。
聞いたあとで笑ってください、バカだなーって。
「ワスレナグサ色ってのは、空の色なんです!」
俺は、びしっと空を指差す。
「空を見たら思い出してと言うくらい、忘れないで欲しいから」
俺は言葉を区切って、
「だから、ワスレナグサ色は、空色をしているんです」
渾身のデタラメ。
俺は、ごめんなさいジョークですを付け加えようとして、
シロネコさんが大真面目なのに気がついた。
「忘れないで欲しい色なのね」
「え、はい、うん」
俺とシロネコさんは空を見上げる。
空の色なんか忘れようもないなぁと。
そのくらい忘れられない存在になりたい。
そのすぐあと、俺は勿忘草色を調べて、
本当に空の色だったと知る。
神がかり的デタラメ。こんなこともあるさ。
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