第8話
ジーク様はうっすらと笑みを浮かべ、この状況を楽しんでいるかの様子。
彼は全身からそんな雰囲気を醸し出しながら、私の前まで歩み寄ってきた。
…そしてそんな彼の後ろからは、いやらしい笑みを浮かべる貴族関係者たちの顔が見える。それはまるで、私の処刑をせかすよう彼の背中を押しているように感じられた…。
「さて、ミレーナ。君の罪は明らかなわけだが、なにか反論があるかな?」
「ジ、ジーク様…こ、これはなにかの間違いですよね…?あんなにも私の事を愛してくださって、心を満たしてくださったその姿が、嘘だなんてとても思えません…」
「…僕だってこんなこと、信じたくないとも。けれど君はこの僕の前から逃げ出し、伯爵への反逆の意志を示した。現に、あの日この屋敷の中で君の事を目撃した人間は誰もいない。それどころか、許可なく屋敷から抜け出して外を歩く君の姿を目撃したという人物までいる。これほどに証拠がそろっていて、一体どう言い逃れをするつもりだい?」
楽しそうに説明をする彼の姿を見て、私はこれまで自分がもてあそばれていたという事実をようやく認識した。
…いや、本当は認識なんてしていないのかもしれない。
最後の最後まで、彼の事を信じたかったのかもしれない。
「悲しいことだけれど、これは決まりだから。まぁ、安心してほしい。君がいなくなった後、僕は君の分まで幸せになってみせるとも。だから何も思い残すことはないさ♪」
「…」
全身の力がすべてなくなってしまったような感覚。
どんな言葉も、どんな感情ももはや意味をなさない。
私がつかもうとしていたほんのわずかな幸せは、すべてうそだったのだから。
「さぁさぁ伯爵様、いったいどんな方法で魔女様を処刑されるんだ~?」
「私は火あぶりが見てみたいなぁ…。本当なら奴隷を燃やして反応を見たかったけれど、今やそれもできなくなってしまっている…。が、相手がこの女ならだれにも文句は言われまい?」
「火あぶりなんて古臭いですわ。首からすぱっと剣で切り落とすのが確実な方法ですわ!」
「落ち着いてください皆様。いろいろなリクエストをいただいて大変にうれしいのですが、処刑はこの私の宝剣にて心臓を突き刺すということで決まっております。絶命の瞬間を、とくとご覧くださいませ♪」
私の命をどうやって絶つか。
その話題でこの場はこれまでで一番盛り上がっている様子。
私はもう、どうでもよくなっていた。
さっきまで感じていた震えや恐怖感も、不思議と消えてしまっていた。
むしろ、思い残すこともなくなってしまったかのような感覚を感じていた。
それがなぜなのかわからなかった。
…でも、私はすぐにその理由を察した。
「さて、ミレーナ。ここまで彼らを盛り上げてくれた君に免じて、言葉を聞き届けよう。なにか最後に言い残すことはあるかい?」
腰に掛けられた宝剣を手に取りながら、ジーク様が私にそう問いかける。
…それを見て、私の中に在りし日の思い出がよみがえる。
彼と一緒に宝剣を手に取り、手入れの方法を優しく教わって、扱い方を丁寧に教わって…。
お屋敷の人々からは白い目で見られていたけれど、私には全く気にならなかった。
それくらいに彼との時間は、光り輝いていたのだから…。
「なんだい?なにもないのかい?せっかく僕が時間をあげるといっているのに…」
「…それでは、最後に一つだけ…」
「…ほんのひとときでしたが、幸せな時間をありがとうございました、ジーク様…。あなたの事を、愛しています…」
私の18年に及ぶ人生が、そこで終わった。
でも、なんだか後悔はない気がする。
私が初めて好きになった人に、きちんと思いを告げられたのだから。
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