第6話 心霧 真陽side

あの日以来なんだか先輩とは顔を合わせにづらくなり保健室に行ってもベットでスマホを弄り時間を潰す日々を送っている。

でも、あの人は先輩とどういう関係なのか気になって先輩に直接聞きたくてずっとモヤモヤしていた。

「真陽ーまだ寝てるの!?ごはんよ!」

「今行くー」

母さんの声に応えつつ階下に行くとテーブルには茶漬けが置かれていた。

「いただきます」

手を合わせ食前の挨拶を手早く済まし茶漬けを啜る。

「ねえ真陽、たまには外で遊んで来たら?仲良い子ぐらい居るでしょ?」

「…ん、気が向いたらね」

「熱でもあるの?」

「ないよ」

「じゃあ、丁度麦茶のパックも切らしてるし買って来て?あ、それと今日の夜から母さん出張だからお留守番よろしくね。熱出たらパパに連絡してね」

「…わかったよ」


昼間の陽射しが痛いと出て来たことを後悔する。

だが、その後悔もスーパーに入ると消えた。

買い物も済ませスーパーを出ると紗綾と先輩から呼ばれていた子に出会した。

「あっ」

「あ…」

お互いに気まづさで固まりつつ紗綾のほうから口を開いた。

「貴方は翼の何?」

「はい?」

「貴方が翼を連れ去ってった時、翼は貴方を呼び捨てで呼んでた。普段なら呼び捨てなんて絶対しないのに」

「呼び捨てなんて絶対しない」って僕のことはいつも呼び捨てで呼ぶのは先輩も僕のことが好きなのだろうかなんて思いながら僕は紗綾という子へ宣戦布告をする。

「僕は先輩のことが好きです。先輩がどう思っているのかは知りませんが、僕は先輩が好きです!」

「ふーん。ま、私は負けないけど」

先輩はこの人を嫌っているのかもしれないのにどうしてそんなに自信満々なのだろう?虚勢でも張っているのだろうか?と思っていると

紗綾さんがすれ違いざまに「翼は私の彼氏なんだから男のアンタに振り向くわけないじゃない」

確かにそうだ。

同性を好きになるなんて有り得ない。だが、好きになってしまったんだ蓋なんか出来るはずない。

だが、これは僕の気持ちだ。先輩はどう思っているかなんてわかるわけがない。


モヤモヤしながらいつまで歩いていたのか分からなくなった頃スマホにLINEが届いた。

"ごめん、真陽は俺のこと嫌ってんだろうけど、俺を助けて欲しい"

"嫌ってなんかいません!ただ先輩は"

【紗綾って人のことが好きなのかな】って何を書いてるんだ。消そう。

"嫌ってなんかないです!どうしたんですか?"

"ならよかった。紗綾って俺の元カノなんだけどよ、別れたくないって家の前に居座ってんだよな。だから、しばらく泊めてくんねぇかな?"

あぁ、元カノなんだ。

元カノってことはやっぱり女の子のほうが好きなのかな。

"大丈夫です。迎えに行きましょうか?"

"いいの?!わかった、学校前で待ってる。ありがとよ、返信してくれて"

"スタンプを送信しました"


そして先輩を迎えに学校へ行き談笑しながら歯ブラシセットやらの日用品を購入し帰宅すると母さんは既に出張へと行っていた。

「ご両親は?今日居ねぇの?」

「はい、出張で」

「そっか、じゃあよかった」

「え?」

よかったって?よかったってどういう意味だ?

「真陽、なんで俺のこと避けてたの?」

「…そ、れは…」

プルル…

「ちょっと失礼します」

見計らったのかと思うくらいタイミング良くかかって来たパパからの電話に出る。

「もしもし」

「お、出たか。元気か?」

「大丈夫」

「なんかあったら連絡しろ」

「はい」


「なんかあった?」

「父からです。何かあったら連絡してくれって」

「そっか。あー、なんか腹減ってない?なんか作るよ」

「僕も手伝いますよ」

「いいって、休んどけ」

「暇なんです」

「…わかった。じゃあ手伝って」

「はい!」


料理が完成すると先輩から受け取った料理を机に置いていく。

「先輩料理とか自炊するんですね!僕Uberに頼っちゃうから尊敬しちゃいます」

「俺も滅多なことがない限りはUberに頼ってる。だから仲間」

そのはにかんだ先輩の顔はいつもの頼もしい先輩からは想像もつかないぐらいあどけなく思わずドキドキする。

「そうなんですね!」

「あぁ」

そうしてふたりで食べたこの日の夕御飯の味を僕は一生忘れないだろう。と思いながら先輩と作った味噌汁を啜りつついつしか今までの気まずさも忘れ仲良く談笑していたのだった。


次の日先輩は大学のオープンキャンパスに出かけている間、僕は暇なので肉じゃがを作りつつ先輩をデートに誘ったので支度をする。

鏡を見ながら服を並べ時間をかけてコーデを組みお洒落をし、肉じゃがを冷蔵庫に入れ、先輩との集合場所へと出かけるべく僕も自宅を出た。


「先輩!」

「真陽ー!こっちこっち」

「待ちましたか?」

「全然待ってねぇから、じゃあ行こうか」

「はい!」

その後は近くのショッピングモールに出向いたり、古着屋を巡ったり、ゲーセンに寄って帰る。

そして気付けば時刻は昼から夜に変わり空はすっかり暗くなっていた。

「うわー夏とはいえ流石に20時になると暗ぇなー」

「ですねー。あ、これ…」

「ん?」

「先輩、これお揃いにしませんか?」

「多肉植物か…」

「いらっしゃいませー!何かお探しですか?」

「あ、俺このユーフォルビアで」

「じゃあ僕はサボテンで…」

「はーい!ラッピングはどうしますか?」

「大丈夫です」

そして会計を済ませ店を出ると先輩は言った。

「はい、これあげる」

「これ…さっきの…」

「これの花言葉真陽にピッタリだから」

「ユーフォルビアの花言葉って…」

何ですか?と聞こうとすると先輩は僕の言葉を遮るように言った。

「行こ」

「あ、はい…ってか…それなら僕のサボテンも受け取ってください」

「フェアじゃないからってことか?ま、ありがとな」

「いや、フェアじゃないとか関係なしに先輩のこと想って選んだやつ…だから…」

僕は本当に何を言っているんだろうか…段々と顔が火照ってくる。

「わかった、帰ろ。サボテン早く飾りたい」

「はい!じゃあ、今日は隣に僕のユーフォルビアも飾って良いですか?」

「うん、いいよ」

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