第10話 『未来』

階段を降りきったカミラの目の前には真っ暗な部屋があった。すると彼女は、部屋の4隅の燭台に火を移し、部屋は一気に明るくなった。


降りてきたエイジは部屋を見て、その光景に度肝を抜かれ驚く。


「…なんだ、これは…」


まず目に着いたのは、壁に吊るされたぼろぼろのアンドロイドの残骸だった。それに四肢はなく、顔と胴体だけ。さらにはその胴体も左半分が抉れていて、断面からはコードやその他の部品がむき出しで飛び出ていた。人間に入れ換えて考えると、目を背けてしまうほどに悲惨な有り様だ。

そして、その顔にはくちばしがあり、ボディは真っ黒だった。

次に床に目をやるとそこには箱が3つほど置いてあり、その中にはアンドロイドの部品と思われるものが無造作に詰め込んであった。



「…こいつが…"鴉"なのか ? 」


壁にかかったそのアンドロイドの亡骸を見つめながら彼は呟いた。




「ええ、そうよ」


彼の独り言にそう答えたカミラは、


「ようこそ、私の研究室へ」


と両手を広げてそう言った。


エイジは頭に浮かんでいる疑問を彼女に投げ掛けた。


「なぜ、こいつらの残骸をお前が持ってるんだ ? 」


彼はそう問いかけたが、カミラはただ黙っている。


エイジは自分が見てきたこと聞いてきたことを思い返し考える。


「ッ! まさか…お前」


その瞬間、彼の頭の中で全てが繋がった。


最初に合ったときからずっと彼女が持ち歩いていた狙撃銃のこと。彼女は頻繁に外に出ているということ。昨日の夕食のときにジークが言っていた、鴉は時間が経つといなくなるということ。そして、ここにあるぼろぼろの鴉の亡骸。

それらすべてを繋ぎ合わせ、たった1つの結論が浮かんだ。


「お前…ずっと奴らと戦っていたのか……それもたった1人で……」


カミラはまたもや黙った。そんな彼女の姿をしばらく見つめたエイジにある予感がよぎった。

それは、彼女が体を覆い隠すローブを常に纏っている理由のことだった。


「…おい。ローブを脱いでみろ」


「…嫌よ」


「いいから脱げッ」



彼はそう言いそのローブへ手を伸ばし、半ば強引に取り払った。

彼女のローブの下をエイジは初めて見た。

その服装は、砂漠での行動に特化した涼しくて動きやすい肌の面積が多いものだった。


そして、その肌には戦闘によってできたであろう無数の傷痕があり、とても17歳の少女の体とは思えないものだった。


少女は傷だらけになりながらもたった1人で戦い続け、人知れず村を守っていたのだ。


それを見たエイジの心には、どうしようもない悲しみと怒りが込み上げる。そして、その感情をすべて乗せた悲痛な叫びを彼女にぶつけた。


「なぜだッ ! ? こんなになるまでなぜ大人に助けを求めなかったッ ! ?」


「無駄よッ ! 」


カミラは大声でそう強く言い返した。


「あいつらには…村の大人達には戦う意思がない…ただ閉じ籠って…奴らの足音に怯えてるだけよ…そんな役立たずはいらないッ ! そう思ってずっとずっと1人で戦って、一匹残らず奴らを破壊してきた…だけど…」


彼女は力強く真っ直ぐな瞳で続ける。


「だけどアンタ達は違ったッ ! 戦う意志があるッ! さっきのアンタ達の目を見て思った。この2人になら背中を預けられるって…本気で…」


彼女はそう言うと、部屋の机の上に置いてあるメモを手に取り2人に見せて言った。


「だから、これを見せようと思ってここに連れてきた…」


「…これは ?」



「奴らと戦う上で役に立つと思ったことがまとめてあるわ。これまでの戦いの中で分かったこと全てをね…」


エイジは彼女の数十枚に及ぶメモを受け取り軽く目を通した。

そこにはお世辞にも綺麗とは言えない字でびっしりと、鴉に関する知見が事細かに書かれていた。


「これは…使えるぞ…」


「…アタシは…あそこを子ども達が安心して暮らせる村にしたい…あの子達には輝かしい未来がきっと待ってる。だから…アタシがそれを守る。あの子達の未来はアタシが繋いでみせる !」


彼女は胸に秘めた想いを語った。その目は、決して曇りなく、誰にも汚せないほど強く輝いていた。


「一緒に戦って欲しいってアタシに言ったわよね…ならアタシからもお願いするわ。一緒に戦って。そして、村に平和を取り戻して」


彼女からの頼みにエイジは覚悟を胸に答える。


「ああ、勿論だ。必ず奴らを倒し、村の未来は俺達が繋ぐッ ! そのために力を合わせよう」


エイジとカミラは手を真っ直ぐ伸ばし重ねた。

そして、突っ立っているアイビスの方に向かってカミラは言う。


「さっきからずっと黙ってるけど、アンタも戦うんでしょ ? ほら、手」


「勿論、私も一緒に戦います」


「まったく、ご主人様のために随分健気ね…流石アンドロイドと言ったとこかしら」


「いえ、これは私の意志です」


「…へぇ。いいわね、それ」


そしてアイビスも手を伸ばし、3人の手のひらが重なった。


3人は掛け声と同時にその手を上に掲げ、現状を打破すべく立ち上がった。

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