第7話 【着火】マンは歓迎会に参加する

 私の歓迎会をすると言って聞かないフロルたちに連れられて冒険者ギルドの酒場を訪れた。

 窓の外を見るととっぷりと暮れている。


 冒険者の酒場は冒険者ギルドの中にある。

 荒くれ者用に安酒と食事を出してくれるようだ。


 受付カウンターでレイラさんが仕事をしているのを見ながら食事するのは何だか変な感じだね。

 もう夜になったので、これぞ冒険者という感じのパーティがワイワイと酒を飲んだり食事をしたりしていた。


 チョリソーが身軽に動いて隅の席を確保して、我々を呼んだ。

 さすがは盗賊だなあ。


「意外に美味いんだぜっ。おっちゃん、定食を五つくれい」

「おうよフロル、今日は景気がいいな」

「【着火】マンが銀のグリフォン団に入って、ハンターベアを狩ったからな、大金持ちさ」

「そりゃ、すげえや」


 酒場の親父さんは、がははと笑ってフロルの注文を受けた。


「おじさん、私も定食~、あとねエールと、おつまみ~~」

「なんだよ、ウジェ姉ちゃん、あんたは銀のグリフォン団じゃないだろう」

「い、いーじゃないのうっ、私もマレンツ博士と一緒にご飯が食べたい~~」

「ウジェニーさん、黄金の禿鷹団の他の方々は?」

「今は休暇中~~、一昨日五十六階から帰ったばっかりだから寝てるか、女の子と遊んでいるかだよっ」


 そうか、ちょうどダンジョンアタックから帰ってきた所だったのか。

 五十六階とはどれくらいの深度なのだろうか。


「ゼラビス大迷宮はどれくらいの深さまであるんですか?」

「わっかんない、百階とか二百階とか言われているよ、これまでの最大深度は八十四階、五十年ぐらい昔の話」

「まだ底についたパーティは居ないのですね」

「いねえって、ゼラビスは前人未踏の大迷宮なんだぜ」


 おじさんとウエイトレスさんが定食を運んできた。

 メニューは、シチューと黒パン、それから漬物だった。

 質素な感じだが、大学に行っていた頃はだいたいこんな感じだった。

 懐かしい感じもするね。


 エールも来て、ウジェニーさんがぐびぐびと飲んだ。


「ぷはーっ、おいしいっ」


 美味しそうにお酒を飲む人だなあ。

 私はシチューを口に運んだ。


 お、これはなかなか美味しい。


「美味しいね、これ」

「そうだろー、酒場のおっちゃんは料理上手いからな」

「美味しいよねえ~」


 他の人と一緒に食事をするなんて何年ぶりかな。

 なんだか楽しいな。


「ハカセはどこに泊まるんだ?」

「決めて無いよ、やっぱり迷宮都市はホテルが高いかな」

「高い」

「高いよ」

「観光客向きだから高いね」

「ホテルに泊まる奴は馬鹿だってかあちゃん言ってた」


 着の身着のままで実家を追い出されたからなあ。

 財布に入っていたお金だけで迷宮都市までやってこれたが、ハンターベアのお金が入って良かった。


「ああ、学者さん、あんた宿を探しているのかい? 汚い部屋だがギルドの三階に部屋があるぜ」


 ウジェニーさんのおつまみを持って来たオヤジさんが会話に混ざった。


「お幾らぐらいですか」

「一人部屋で五千ロクスだ。飯は付かないし、ギルドは夜中まで騒がしいが、まあ、泊まれるぜ」

「ああ、そうしろハカセ。後でアパートとか探せばいいよ」

「そうしようかな、お願いします、オヤジさん」

「あいようっ」


 オヤジさんはレイラさんの元に行き、二三の言葉を交わしたあと鍵を持って帰ってきた。


「支払いは前金でレイラさんに渡してくれよ」

「わかりました、ありがとうございます」


 食事を完食した。

 意外に美味しくて満足できたな。

 値段も馬鹿みたいに安い。


「それじゃ、俺たちは帰るよ、また明日なハカセ」

「おやすみ、みんな。明日も薬草摘み?」

「そうだよ、あとエリシアに早くファイヤーボールを教えてやってくれよ」

「わかった、薬草を摘みながらコーチをしようか」

「たのしみ~~、早くファイヤーボールを撃てるようになりたーい」

「なによ、ファイヤーボールなら私が教えてあげようか」

「え~~、ウジェニーさんは何だか理不尽な教え方しそうだから、やだ~~、ハカセがいい~~」

「なによう、私はS級なのに~~」


 子供達は帰っていった。


「さて、私も部屋に行きますか。おやすみなさいウジェニーさん」

「ああん、もうちょっと一緒に飲みましょうよう~~」

「疲れているので、ごめんなさいね」

「女の子のお誘いを華麗にかわすマレイン博士も素敵」


 うん、なんかウジェニーさんの目が捕食獣みたいだからね、深入りしないのが正解でしょう。


 ギルドのカウンターに行って、レイラさんにお金を払った。


「何か注意する事は?」

「無いわね、酒場が遅くまで騒いでいるから寝にくいけど、慣れてください」

「解りました、ありがとうございます」


 私は階段を上がって三階まで登る。

 沢山の小部屋が並んでいるね。


 306号室、ここだね。

 開けてみると細長いウナギの寝床のような部屋だった。

 本当に寝るだけの部屋だな。


 寝台に横たわると藁の良い匂いがした。

 意外にシーツは綺麗だな。


 さて、明日からは本格的に迷宮都市生活が始まる。

 今日はゆっくりと寝ますか。


 私は魔法灯を消して眠りについた。

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