未来の#秒恋♡ 溺愛カレシと刻む、たくさんの、初めて〜私の初恋は、優しくて甘くて、ちょっぴりキザ♡〜

れん

piece1 2人の、初めて

第1話 2人の幸せな夜

12月の下旬。2学期の終業式を迎えた。

悠里は、親友の彩奈とともに、いつもの集合場所に行く。

恋人の剛士と、彼の親友 拓真と合流するために。

放課後、こうして4人で集まるのは、皆の日課だ。


今日は皆で、ボウリングとカラオケを楽しむ予定を立てていた。

悠里は、皆と笑い合いながらも、1年前のこの日を懐かしく思い返していた。


1年前、4人は同じように、ここに遊びに来た。

そして、剛士の元恋人――エリカに会った。


それはとても辛く、悲しい出来事の始まり。

悠里と剛士の心を試し、また絆を深める、試練の幕開けとも言える出来事だった。


ひとつボタンを掛け違えれば。

ひとつ、道を間違えれば。

ひとつ、掛けるべき言葉を失敗していれば。


悠里は剛士と手を繋ぎ、隣で笑い合う今は、なかったかもしれない。


けれど時間をかけて、親友たちの助けも借りて。

少しずつ2人の道を近づけ、重ね合わせることができた。

これから先に何があっても、剛士と力を合わせて、乗り越える自信を持てた。


この出来事があったからこそ、全身で剛士と気持ちをぶつけ、確かめ合い、信じることができた。

今は胸を張って、そう言える。



ボウリングで盛り上がった後、勢いそのままに、4人はカラオケボックスに入った。

拓真が楽しげに、流行りの歌をうたっている。


悠里はそっと、隣にいる剛士の手を握った。

剛士が微笑んで、悠里の手を暖かく包み込む――



ずっとずっと、大好きだった剛士と恋人同士になれて、3か月が経った。

毎日が楽しくて、かけがえのない時間だった。幸せだった。

これからも2人で大切に、時を積み重ねていきたい。


悠里はそんな願いを込め、彼の切れ長の瞳を見上げて微笑んだ。



悠里は今日、もう一歩を踏み出そうと思っている。



悠里は、剛士の手のひらを、ちょんちょん、と指でさすった。

どうした?と問いかけるように、剛士が彼女の唇近くに耳を寄せる。


「……あのね、ゴウさん」

「ん?」

「今日ね、家に誰もいないの」

「ああ、そっか。お父さんたち、まだ出張中だっけ」

「うん。帰ってくるのは、あさってなんだ」


悠里の両親は、同じ会社で働いており、部署は違えどタッグを組むことの多い仕事だ。

同じイベントに関わるため、2人で長期出張に出ることも珍しくない。


両親に会ったこともあり、仕事のことも知っている剛士は、悠里の言葉に頷いた。


「悠人は?」

剛士が、中学生の弟のことも尋ねてくる。

悠里は、緊張する胸を押さえて答えた。

「中学も、今日が終業式で。そのまま部活仲間と、お泊まり会することになったんだって」

「そっか」


悠里は勇気を振り絞り、剛士に囁いた。

「だから、今日……お家に泊まりに来て欲しいな」


彼の瞳が瞬き、いろいろな考えを巡らせているのがわかった。

悠里は恥ずかしさのあまり、答えを急かしてしまう。

「……ダメ?」


彼女が頼りなげに瞳を揺らめかせるのを見て、剛士は優しく微笑んだ。

そうして、安心させるために悠里の頭を撫でる。

「行く」

「本当?」

「ん」

剛士は、切れ長の目を柔らかく細めた。


彼の長い指が、つうっと悠里の手のひらをなぞる。

くすぐったいような、甘い感覚に、悠里は思わず身を震わせる。

大きな手が、しっかりと彼女を包み込んだ。

大丈夫だよ、と伝えてくれるような優しい温もり。

悠里はそっと身を寄せ、彼の手を握り返した。



カラオケを終え、4人で駅に向かう。

拓真と彩奈が、口々に冬休みの楽しい計画を披露し合っている。


「ボウリングもカラオケもいいけど、日頃できないことも、やってみたいよね!」

「日帰り旅行とか?」

「それ、いい!」

次々と花が咲くように、2人の顔には明るい笑みが溢れ出す。


拓真が悪戯っぽく笑いながら、剛士を振り返る。

「オレたちは、高校最後の冬休みだし!いっぱい思い出作りたいよね!な、ゴウ?」

「……ああ、そうだな」

いつものように、悠里の頭に手をやり、剛士は答えた。


高校3年生の剛士と拓真だが、推薦入試に合格し、無事に進学先を決めていた。

しっかりと、決めるときは決めてくる2人を、ひとつ年下の悠里と彩奈も尊敬している。


「ああ、こうして4人で学校帰りに集まれるのも、あと数か月かあ」

彩奈が大仰に嘆いてみせた。

「そう思うと、寂しいよね!」


「えー、オレたちが大学行ってもさ、ちょくちょく集まろうよ?」

拓真が、戯けたように片目をつぶる。

「これまで通り、ゴウと悠里ちゃんカップルに、便乗しよ?」

「あっはは!それいいね」


弾かれたように彩奈が笑い出した。

そうして、悠里の腕にしがみつく。

「ね、悠里? デートの邪魔はしないからさ。たまには、私と拓真くんも混ぜてね!」

悠里、そして剛士は顔を見合わせて笑った。

「もちろん! これからも4人で、いっぱい遊ぼうね!」



駅に辿り着き、彩奈と拓真と別れる。

「じゃあね、悠里! また連絡するからね!」

「また近いうち、集まろうよ!」

2人は口々に、別れの名残惜しさを表現する。

悠里と剛士は、笑って手を振った。

「うん! また遊ぼうね」

「お前ら、気をつけて帰れよ」


剛士のひと言に、拓真がピンと来たらしい。

「あー、ゴウってば、悠里ちゃんを送ってあげるんでしょ」

彩奈の赤メガネも、キラリと輝く。

「わっ、いいなあ! 2人で2次会だ!」

剛士が、ふっと余裕の笑みを浮かべる。


「はは、いいだろ?」

彩奈が、親指を立てて笑い返した。

「あっはは!いいですよ? じゃ、悠里をよろしくお願いします!」

「はいよ」

悠里の髪を撫でながら、剛士も笑った。

「じゃあ、またな」

彩奈と拓真は、晴れ晴れとした笑顔で手を振り、遠ざかっていった。



「……さて。俺たちも行くか」

悠里の手を握り直し、剛士が微笑む。

2人きりのときに聴く彼の声は、優しくて、甘い。

「ゴウさん……」

悠里は頬を染めながらも、おずおずと剛士を見上げた。

「急に誘って、ごめんね」


「なんで? 俺、嬉しいよ」

剛士が、笑みを大きくする。

「今日はずっと、一緒にいられるんだな……」

逞しい腕に肩を抱かれ、そっと引き寄せられる。

「ゴウさん……ありがとう」

その温もりに安心し、悠里は微笑んだ。



「悠里、ちょっと買い物していい?」

剛士が楽しげにファストファッションの店を指す。

「着替え買うから」

「あ……ごめんね」


私が払う、と言いかけた悠里の言葉を押し留めるように、剛士が笑う。

「置いて行くからさ。いつでも泊まれるように、お前の部屋に置いといて」

次があることを仄めかされ、悠里の顔がほころんだ。


繋いだ手をぶんぶんと振り、悠里は無邪気に笑う。

ふっと剛士が吹き出し、彼女の頭を撫でた。

「お前って本当、可愛い」

剛士が、優しい顔をして笑う。

「悠里の嬉しそうな顔。俺、大好きなんだ」


見上げた切れ長の瞳は、柔らかく悠里を映し出していた。

悠里は甘い気持ちに包まれ、頬を染める。

きゅっと彼の大きな手を握り、悠里は答えた。

「私、ゴウさんと一緒なら、いつでも嬉しいよ」

「じゃあ、ずっと」

剛士も彼女の手を握り返し、微笑した。

「一緒にいような」

「うん!」


2人の幸せな夜が、始まった。


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