29蓮華章

「それではまた明日、今日はお疲れ様です。ロンさん、オウガさん」

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」


「ふふっ、お疲れのようですが基本的にマナーは相手を不快にさせないことです。それでは、また明日お待ちしております」

「分かったぜ」

「分かりました」


「お二人の仲がとてもよろしくていいですわ、テーラーが少し戸惑っていましたよ、それではごきげんよう」

「おう、さよなら」

「さようなら」


 俺たちは最後にレンフィアさんが言った、テーラーさんが戸惑ってたの意味が分からなかったが、帰ってみて俺の服を脱いだら分かった。俺の背中にオウガが何回も爪を立てた跡があったし、オウガには俺がつけたキスマークがついていた。レンフィアさんもハンター新聞くらい読んでいるのだろう、それで俺たちにあんなことを言ったのだ。オウガは理由を知って真っ赤になってしまった、それで今日はするかと言ったらしないと言った。


「ああ、今日もマナーの練習か」

「仕方がないよ、ロン」


「あと12日でなんとか形にしなきゃな」

「恥をかかない程度にはならなきゃね」


「ん~、ハンターの方の腕がなまる」

「それも仕方がない、あと十二日だけだよ」


 そうして俺たちはレンフィアさんのところへ約二週間通って、どうにかマナーの練習をして基本を叩きこまれた。レンフィアさんは優しかったが、間違っていると違いますよと優しい注意をするのだった。テーラーに頼んだ礼服もできて、着てみたが俺にぴったりと合っていた。オウガの方もカッコいい礼服に仕上がっていた、ちょっと脱がせて抱きたいと思ったのは秘密だ。そうして十二日後にはレンフィアさんにお礼を言って、マナーの練習が終わったが、またいつでもご相談くださいと言われた。


「うう、凄く緊張してきたぜ。オウガ」

「笑顔がぎこちないよ、ロン」


「失敗したらと思うとな、ふぅ~」

「僕もそう思うよ、一緒」


「まぁ、失礼なことだけしなきゃいいだろ」

「そうだね、呼ばれたよ。行こう、ロン」


 そうして俺たちは王宮の謁見の間に呼ばれた、レンフィアさんとの練習では王様のお付きの人に呼ばれたら返事をして、武器になるのでアーツを預けることになっていた。そうして王様の前に片膝を床につけて跪き、王様が蓮華章を授けると言ったら、お付きの人が胸に蓮華章を着けてくれるということだった。そして、このような素晴らしい勲章をいただき身に余る光栄にございますと答えて、後はアーツを返してもらって退出すればいいはずだった。


「ロン」

「はい」


 やがてお付きの人から俺は名前を呼ばれた、だから返事をして武器になるアーツを別のお付きの人に預けた。そうして金の髪に緑色の瞳の王様の前で片膝をついて、俺は次の王様の言葉を待った。


「王族・貴族ならびにわが国民を窮地から救った証に、リベーラ・ヴィスベル・ナトールの名においてロンには蓮華章を授ける」

「このような素晴らしい勲章をいただき身に余る光栄にございます」


「ところで私には第七王女がおってな、そなたさえ良ければ勲章と共に授けよう」

「え!? いいえ、私には既にオウガという妻がおりますので」


「そうか、残念だ。素晴らしい活躍をしてくれた、もう下がって良いぞ」

「お忙しい中、私などのためにお時間を割いていただき、ありがとうございました」


 そうして俺はお付きの人に胸に蓮華章を着けて貰ってアーツを返して貰って、そそくさと王様の前から退出した。えっ、第七王女を授けようって何だ、俺は何を言われたんだと混乱した。混乱して馬鹿なことを言っていないかだけが心配だったが、次に呼ばれて勲章を受けて戻ってきたオウガは大丈夫だよと言ってくれた。ああ、もう凄く疲れた。アビス十体と戦うよりも疲れたと俺は思った、オウガも疲れたのだろう、俺たちは王城を王家が用意してくれた馬車で後にした。


「オウガ、俺は何か変なことを言わなかったか?」

「大丈夫!! むしろ嬉しかったよ!!」


「なっ、何が嬉しかったんだよ!!」

「ロンが王様の前でも、僕が妻だって言ってくれたからだよ」


「…………俺そんなに正直なこと言ってたか? 記憶が全くねぇや」

「言ってた、だから僕は凄く嬉しい!!」


 王宮から帰る馬車の中で俺はオウガに抱き着かれた、まぁ見張りの人もいないことだし、俺はオウガを抱きしめて軽くキスした。オウガはそれでは足りなかったようで、俺にもっと深いキスを何度もしてくれた。そうして王宮からハンターギルドまで馬車で送ってもらった、これはハンターギルドの会長から蓮華章を貰ったら、一度ハンターギルドに顔を出してくれと言われていたからだ。言われたとおりにハンターギルドに入ると、受付のお姉さんがおめでとうございますと言ってくれた。


「蓮華章を叙勲、おめでとうございます」

「ありがとな」

「ありがとうございます」


「ふふっ、良く似合っていますよ」

「そうか?」

「嬉しいです」


「ハンターギルドの会長室にどうぞ」

「ああ、分かった」

「行ってみます」


 そうしてハンターギルドの会長からは、叙勲おめでとうとまた俺たちは強力なハグをそれぞれ受けることになった、アーツで防御しているのに苦しかった。そして、そこでハンター新聞の取材も受けて写真を何枚か撮られた。それからハンターギルドの会長からは、蓮華章は貴重な勲章であるから耐火金庫を買うように薦められた。俺たちはそこで予定にはなかったが、着替えてから耐火金庫を見に行くことにした。そうしてハンターギルドの会長室を出て、一旦家に帰ってから耐火金庫を見に行くことにした。


「金庫の専門店なんてあったのか?」

「確かに大切な物をしまっておきたいもんね」


「うっわっ、これ重さが百五十キロもあるぞ」

「泥棒避けだろうね、百五十キロもあればアーツを使っても、なかなか運び出せないよ」


「それでどれにする?」

「お店の人に聞いてみよう、すみませーん」


 そうしてお店の人に薦められた金庫は重さ百五十キロもあって、火事の時でも中身は燃えないという頑丈な金庫だった。俺たちはできれば今日運んでくれと頼んだら代金は金貨二十枚だった、それですぐにお店の人は馬車に乗せて運んでくれた。ただ、俺たちの家は五階のマンションだったから階段があった。


「ありがとな、ここまででいいぜ」

「ええ、後は僕たちが運びます」


「やっぱりちょっと重いな、この金庫」

「二人でやっとってところだね」


「ふぅ~、設置完了。蓮華章を2個入れておこう」

「あと結婚式の写真とネガも、それにハンター新聞も入れようっと」


 階段からは俺とオウガがアーツの力を使って二人がかりで金庫を運んだ、そうしてリビングに設置して蓮華章を2個入れておいた、オウガはそれとは別に結婚式の写真とネガや『五芒星』を倒した時のハンター新聞も入れていた。俺やオウガにとっては蓮華章も大事なものだが、それと同じくらいいやもっと結婚式の写真や『五芒星』を倒した時のハンター新聞が大事だった、もしこれを盗んだ泥棒がいたとしたら蓮華章はともかく、結婚写真やハンター新聞に首を傾げるだろうと思った。


「はははっ、俺たちらしいな」

「だって大事なものだもん」


「だよな、十五歳のオウガはそこにしかいねぇんだからな」

「二十二歳のロンもね」


「他に入れるものがないな」

「また大事なものができたら入れればいいよ」


 次の日のハンター新聞には俺たちが蓮華章を貰ったことが出ていた、ハンターギルドの会長室で撮られた写真も載っていた。それから俺たちのところへは叙勲のお祝いの手紙が届いた、ハンターギルドの会長や弁護士のスーソルさん、マナーを教えてくれたレンフィアさん、それにエフィからのおめでとうという手紙だった。


 ハンターギルドの会長からは何故か筋トレグッズが、スーソルさんからは置き時計が、レンフィアさんからは綺麗な絵画がそれられていた。エフィからは綺麗な花が届いた、俺たちはそのお返しにそれぞれの頂いた物につりあうように、いろんな値段の蓮の花が描かれているティーセットをそれぞれに贈った。


「ふあぁ、これで蓮華章の件は終わりかな」

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