10新聞記事

「まさか、アビスにも種類があんのかよ」

「また新しいことを知ったね」


「帰ったらハンターギルドの図書室で調べてみようぜ」

「それじゃ、黒石を回収しておこう」


「どれも四等級以上だな、アビスにも強いやつがまだいるのか」

「一人でだったら厄介だったね、二人でちょうど良いくらいだった」


 それから俺たちは夜が明けたら依頼達成印を貰って、また乗合馬車で首都テンプルムに帰ってきた。そうしてハンターギルドに行って報酬を貰い、黒石を銃弾用に十等級以外はとっておいた。十等級の丸い黒石はまたアーツを作ろうと思って、それからできるだけ太陽に当てておくことにした。それから真っ先にハンターギルドの図書室に向かった、そこに書いてあることをまとめるとこうだった、アビスには稀に変種が出るということだった。


「昨日の奴が変種って奴か、あれが複数来たら厄介だな」

「僕たちもまだまだ成長が必要ってことさ」


「確かにオウガ!! 運動場で練習するぞ!!」

「了解、ロン。まだまだ強くならなきゃね」


「今まで変種に襲われなかったのは、本当に運が良かったぜ」

「全くだよ、あんな個体がいるとは思っていなかった」


 そうして俺たちは運動場で実戦形式の練習試合を繰り返した、他にもハンターがいたからできれば仲良くなって試合をしてみたかった。でもそれは難しそうだった、他のハンターは俺たちのことを馬鹿にするように見ていた。同じ十つ星のハンターでも違いがあるのか、俺はそんなこと分からなかったが、受付でハンターギルドのお姉さんに声をかけられて初めて理由が分かった。


「なんだよこれ!? 『期待の十つ星のハンター現る!!』ってなんで俺たちが勝手に新聞に載せられてるんだ!?」

「何これ? ロンハンターも、オウガハンターも恋人になってくれる女性を募集中!?」

「……やっぱりガセでしたか、その新聞社は問題が多いところでして、良ければハンターギルドの弁護士を紹介します」


「へ? 弁護士?」

「ああ、ぜひお願いします。こんな適当な嘘が書かれていることが腹立たしいので」

「それでは、少々ロビーでお待ちください」


 俺は知らなかったが弁護士というのは法律的に代わりに戦ってくれる職業らしい、オウガはハンター以外の勉強もよくしていたのでそんなことまで良く知っていた。それにしてもこの記事は酷い、酷過ぎると俺たちが改めて記事を読んでいると、金の髪に蒼い瞳の男性が現れた。スーソルさんといってハンターギルドの弁護士だそうだ、オールバックのきちんとした髪型にスーツの態度が丁寧な男性だった。彼はハンターギルドの部屋を借りると、分かりやすくズバッとした話をした。


「全くのでたらめをT新聞社に書かれたと、それではどこまでやります?」

「ん? どこまで?」

「どこまでというと、具体的にはどうなりますか」


「まず小さな訂正記事を書かせるなら金貨二十枚、大々的に訂正記事を書かせるなら金貨二百枚かかります。私としてはT新聞社に訂正記事を書かせてもいい加減なものになるので、小さな訂正記事と別の新聞社に依頼することをおすすめします」

「別の新聞社、結局は新聞に載るのかぁ」

「ロン、全くでたらめが書かれているよりかはマシだよ」


「それではT新聞社に小さな訂正記事を書かせるのと、別のハンターギルド御用達の新聞社に記事を書かせて貰うということでいいですか? これなら金貨二十枚は私がいただきますが、その代わりに新聞社にも友人がいるので、お二人のことを記事にするように薦めておきます」

「十つ星のハンターってそんなに珍しいのか?」

「この様子だと、かなり珍しいみたいだね」


 ということで俺たちはハンターギルド御用達の新聞社から、スーソルさんのおかげで二人とも取材を受けることになった。せっかくだからと服と靴もまた買いなおした、そうして今度は本当のことを記事にしてもらった、ただ俺が言ってみた奥さん募集中という言葉はオウガににっこり笑顔で無かったことにされた。T新聞社から訂正記事が出るのと、その通称ハンター新聞の記事が出たのは同じ日だった。それからはハンターギルドに来る別のハンター、彼らの俺たちを見る目がわりと優しくなった。


「新聞って怖いなあ、悪評がすぐに広がるもんな、オウガ」

「さすがにその辺は首都って感じだね、ロン」


「でも別の新聞社の記事が出てから、何もなくて良かったぜ」

「田舎から出てきた健気に頑張る、そんな新人ハンターって感じだったからね」


「健気には頑張ってるだろ、今だって戦闘訓練中だ」

「ロンはまだ余裕があるね、一段階上げるよ」


 俺たちはまたハンターギルドの運動場に来て、また実戦形式の戦闘訓練をしていた。オウガが一段階上げるというので速く重い攻撃がきた、でも俺の方も素早く対応して同じように攻撃しかえした。むぅ、もう二十二歳の俺が十五歳のオウガと互角なんだもんな、こいつの努力と才能は末恐ろしいものがあると俺は思った。


「おーし、昼飯だ。首都は美味い店が多くて嬉しいぜ」

「うん、魚料理の種類も豊富で美味しい」


「いつものチェーン店でいいか?」

「いいよ、僕あそこの魚料理が好きだし」


「それじゃ、肉料理。俺はハンバーグにしよう」

「ロンはいつも肉料理だね」


 そうやって和やかに俺たちは昼飯を食べていた、そうしたらどこかで見たような緑の髪に同じ色の瞳の女が、恨めし気にガラス越しにこっちを見ていた。俺はなるべくそっちを見ないようにして、美味しいハンバーグを綺麗に食べきった。そうして店を出たら、案の定。T新聞社の見覚えのある女が俺たちに喚き散らした、はっきり言って迷惑だったし煩かった。


「私が依頼した時には取材を受けなかったのに!! 他の新聞社の依頼を受けましたね!!」

「そりゃ、あんたが好き勝手に、いい加減なこと書くからだろ」

「あんなに適当な嘘を書かれても困ります」


「いいじゃないですか!? 田舎から出てきた十つ星のハンターの二人!! それだけで十分ですよ!?」

「いや、よくねぇだろ。思いっきり内容は適当だったし」

「見るに堪えないような記事でした」


「おっ、おかげで私はT新聞社を首になりかけです!! さぁ、新しい取材をさせてください!!」

「俺はお断りで、弁護士を通してくれ」

「僕もです、まず僕たちの弁護士と話してください」


 こうしてT新聞社の嘘つき女記者は去っていった、スーソルさんとはハンターギルドを通して、専属弁護士としての契約を結んでいた。何かあったらスーソルさんに頼むことになっていた、多くのハンターギルドのハンターがそうしているそうだ。俺はこれでようやく面倒な新聞記事もおさまったかと、安堵のため息を一つ吐いた。


「都会ってこういうところが怖いな、オウガ」

「新聞なんてものがあるからね、ロン」


「T新聞社って本当にいい加減なんだな」

「だから売れるっていうのもあるみたい、とにかく面白可笑しい記事が読みたい人に売れる」


「さすがに首都だけあって、いろんな人間がいるもんだなぁ」

「これで新聞騒ぎは終りだといいね」


 その後T者のあの女記者は首になったらしい、また俺たちの前に現れてぎゃあぎゃあと煩かったからだ。それ以外では俺たちは平和だった、また訓練をしながらアビス退治を続けていた。そして今日も真面目に訓練をしていたら、一人の短い銀の髪に蒼い目を持つハンターが俺たちに声をかけてきた、何でも俺たちと戦闘訓練をしたいそうだった。


「私はアレシア、私と訓練してもらえませんか?」

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