第10話

 ――二ヵ月後




「はぁー、今日もなかなか売れないなぁ」


「あはは、お嬢ちゃん!そりゃそうだ。魔法薬は俺ら平民には高価な代物だからな」


「ですよね…」


「まぁそんなに落ち込むなって!全く売れてないわけじゃないだろ?昨日はずいぶんと男前な冒険者が買っていってくれたじゃないか。それに少し前には騎士様も買っていってくれただろう?もう少しすれば噂が広がって客も来るようになるさ!お嬢ちゃんの魔法薬を実際に飲んだ俺が言うんだから間違いない」



 そう言って励ましてくれるのは隣で果物を売っているおじさんだ。


 いつも果物をくれるいいおじさんなのだが、先日体調が悪そうだったのでいつものお礼に魔法薬をあげたのだ。あげたと言っても市場では中級や上級を売っても売れないので低級の回復薬しか置いてなかったのだが、それでもすぐに効果があったようでとても驚いていた。そんなに効き目がよかったっけ?と自分でも思ったが、おじさんが喜んでくれたのでよしとした。


 おじさんの励ましを受けて今日も頑張ろうと気合いを入れ直していると早速お客さんが来たようだ。



「いらっしゃいま…」



 しかしそのお客さんは昨日魔法薬を買っていってくれたイケメンだった。しかも何だか深刻そうな表情をしている。



 (え、昨日売った商品になにか問題が…?)



 お客さんの表情を見て自分が作った魔法薬になにか問題があったのかと不安になった。



「え、えっとお客様は昨日の方、ですよね?今日はどうかされましたか…?」


「…」



 (え、なんで無言なの?)



「あの…」


「…昨日の魔法薬を作ったのは間違いなく君かい?」


「え、あ、そうですが…」


「そうか…」



 (いや、そこで黙らないで!言いたいことがあるならハッキリ言ってよ!)



 何を言いたいのか分からない相手にどう対応すればいいのか悩んでいると隣から声が聞こえてきた。



「なぁ兄ちゃん。言いたいことがあるならハッキリ言ってやんな。お嬢ちゃんが困ってるだろう?」



 果物屋のおじさんが黙り込んでいるお客さんに声をかけてくれたようだ。おじさんの声かけにお客さんはハッとしたように顔を上げた。



「す、すまない。実は今日は君をスカウトしに来たんだ」


「えっ、スカウトですか…?」


「ああ。あの素晴らしい魔法薬を作った君をぜひともスカウトしたいと思ってね」



 (素晴らしい魔法薬って、低級の回復薬なんだけど…。何かの間違いじゃないのかしら?)



「あの…昨日お買い上げ頂いた魔法薬は低級の回復薬ですよ?なにか勘違いされているのではないですか?」


「いや勘違いではないさ。よければ今から少し時間をもらえないか?あ、俺はアレス王立学園で教師をしているシェインという。決して怪しい者ではないぞ」



 そう言って懐から学園の職員証を取り出して見せてくれたが、それが本物か偽物かの区別など私にはつかない。しかしこの男性が嘘をついているようにも見えない。いざという時には魔法で逃げれば大丈夫だろうと考え承諾したのだった。


 そして詳しく話を聞くと本当に私のことをスカウトしに来たようだ。どうやら学園の魔法薬学の先生が高齢で退職することから、後任を探していたところに騎士から私の噂を聞いたそうだ。


 なぜ教師が騎士から噂を聞くのかは不思議に思ったがそれは後から分かることになる。


 結果的には条件も良かったし、今まで学んできたことを活かせる場で働けるのは願ってもないことだったので受け入れることに決めた。


 それから私はアレス王立学園の魔法薬学の教師として働いている。

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