第7話 サイラス視点(手紙)
サイラス・カリスト様
この手紙を読まれているということは私が屋敷から出ていったことに気がついたのですね。
この手紙は特定の人物にしか開けられないように魔法をかけておいたのでもしかしたらこの手紙は読まれないかもしれないと思いましたがひとまず安心しました。
今回出ていくにあたり伝えたいことがありましたので手紙を書きました。
どうか最後まで読んでくださいね。
私がこの家に嫁いできてから三年が経ったことはご存じですか?
この三年は私にとってとても辛いものでした。
まず私の一日は誰に起こされることもなく一人で起きるところから始まります。
普通なら使用人が起こしに来て、顔を洗い、着替えをして身支度を整えるものなのでしょう。
しかし私のところには誰も来ないので全て一人で行っていました。
朝食は毎日固いパンと冷めた野菜屑のスープが厨房に置いてあり、それを自分で取りに行って食べていました。
朝食が終わった後はこの作業部屋で夜まで魔法薬の開発と作成をしていました。
当然昼食もなければお茶が運ばれてくることなどありません。
それでも自分に与えられた仕事だからと励んできました。
毎日魔力が無くなる直前まで作業をして、終わる頃には日は完全に沈みきっています。
魔力が尽きそうになりながら厨房へ夕食を取りに行き、夜も遅く、しかも誰も手伝ってはくれないので湯浴みもできずタオルで身体を拭くだけの毎日。
ちなみに夕食も朝食と同じかパンだけの時もありました。
そして疲れた身体に鞭を打って毎晩夫婦の寝室で旦那様が来るのを待ち続ける、そんな日々を三年続けてきました。
これだけを読めば使用人が仕事を放棄していることが悪いように思いますがそれは違います。
一番悪いのは旦那様、あなたです。
結婚式の日の夜に仰いましたね。
『今は君を抱くことはできない』と。
そして三年が経った今も私の身体は清らかなまま。
この事は屋敷の人間であれば誰でも知っています。
そしていまだに旦那様に抱かれていない私は誰からも屋敷の女主人として認められていないのです。
旦那様から相手にされない女などこの侯爵家には不要だと考えたのでしょう。
しかし魔法薬の事業は私なしでは進みません。
ですので食事だけは飢えない程度に与え、魔力が無くなるまで作業することが私の仕事だと、旦那様からの命令であると家令から言われ続けてきました。
その時の私にはここしか居場所がなくそれを受け入れるのが当たり前だと思っていました。
それにたまにやってくるお義母様には孫はまだかとプレッシャーをかけ続けられていました。
お義母様は私達が白い結婚だということをご存じないようですね。
ご存じであればいつも笑顔で『早く孫が欲しいわ』なんて言わないはずですもの。
それをなんとか笑顔で受け流すのは気力も体力も削られ大変でした。
そして手紙の冒頭に戻りますが、先日結婚して三年が経ちましたね。
その日も旦那様が夫婦の寝室に来るかもしれないと待ち続けていましたが旦那様が来ることはありませんでした。
そんな私はふと思い出したのです。
白い結婚が三年続いた場合は婚姻を無効にすることができることを。
ですので私は婚姻を無効にするために屋敷から出ていくことにしました。
だって三年も抱かない妻なんていらないってことですよね?
女主人として認めてもらえない私はなんの役にも立てません。
なのでせめて婚姻無効の手続きは私の方で滞りなく進めておきますので心配はいりません。
きっと近いうちに教会から通知が来ると思いますのでどうぞお受け取りください。
最後になりますが今までお世話になりました。
まぁ質素な食事と質素な服くらいしか頂いておりませんが、一応今日まで生きてこられたのでお礼は伝えておきます。
それではもうお会いすることはないと思いますがお体に気をつけてお過ごしください。
追伸
アルレイ伯爵家には私は死んだとでもお伝えください。
援助も打ち切って構いませんのでよろしくお願いします。
セレーナより
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