第14話

 図書室での出来事から時が経ちとうとう今日は学園の卒業式だ。


 あの日以降もテオハルト様は変わらず私に優しく接してくれた。あの出来事などなかったかのように。

 きっと優しいテオハルト様のことだから私に気を遣ってくれたのだろう。おかげで私も心を落ち着けることができた。

 そして私の心が落ち着いた頃にはもう卒業式を迎えていた。

 卒業式は恙無く終わり残すは卒業パーティーのみ。



(卒業したら王太子殿下と結婚すると言われていたけど恐らくそんな日は来ないでしょうね)



 その証拠に当日ギリギリまで待ってみてもエスコートの申し出もなければパーティーで着るためのドレスも贈られることはなかった。

 エスコートに関しては今さらなので気にしても仕方がないがドレスが無いのは正直困った。

 今までは公爵家で体裁もあったからかドレスを一応用意してくれていたので困ることはなかったが今日に限っては公爵家でもドレスを用意している様子はない。リリアンのピンクのフリルが沢山あしらわれたドレスは届いていたがそれだけだ。

 おそらく今日、私は公爵家を追い出されるのだろう。



「…ドレスもないしパーティーは参加しなくてもいいかしら」



 卒業パーティーは卒業生を祝うためのパーティーであるが参加は任意なので絶対参加しなければいけないものではない。

 在校生の参加は婚約者やパートナーのみに限定される。それと卒業生の親も参加可能だ。



「制服で行くわけにも行かないし持っているドレスはもうサイズが合わないし仕方ないわよね」


「何が仕方ないのかしら、おねえさま?」


「…」



 ノックもせずリリアンが部屋へと入ってきた。きっと私を笑いに来たのだろう。

 いまだに制服姿の私と違ってリリアンはこの間届いていたピンクのドレスを身に纏っていた。



「あら、まだ制服だったの?早く着替えなさいよ、ってそうだったわドレスが無いんだったわね」


「…ええそうよ。だからパーティーには行かないつもりよ」


「まぁ!パーティーに行かないなんてだめよ?今日はガイスト様から大切な話があるから参加資格がある人は必ず参加するようにと命令があったのよ。だからおねえさま、王族の命令に背くなんてノスタルク公爵家の顔に泥を塗るようなことしないわよね?」



 そんな命令が本当に出ているかは分からないが私は一応まだノスタルク公爵家の一員だ。その様な言い方をされてしまえば参加しないわけにはいかない。

 王太子殿下と公爵家はどうしても私をパーティー会場へ引きずり出したいように感じる。ドレスもなく制服で行く方が恥になるというのに、


 一体私はどうなってしまうのだろうか。



「…」


「聞いてる?着るものがないなら制服のままでいいからちゃんとパーティー会場には来なさいよね。私たちは準備があるからもう行くわ。じゃあ会場でね、おねえさま。ふふっ!」



 言いたいことだけ言ってリリアンは部屋を出ていった。

 卒業パーティーは夕方から始まるのであと三時間ほどしか時間がない。そんな時間じゃもうどうにもならないと分かっていてリリアンはわざわざやって来たのだろう。



「…時間ギリギリに行くしかないか」



 屋敷の中は公爵一家が先ほど出掛けていったので静かだ。私は準備することが何もないので窓の外を眺めた。



(私も鳥のように飛べたらいいのに。そしたらどこへでも行けるのにね。鳥が羨ましいわ…あら、馬車が来たわ。こんな時に誰かしら?)



 公爵一家は不在なのに来客が来るなんてめずらしいこともあるんだなと窓から馬車を見つめた。

 しかしこの距離ではどこの家の馬車かは分からない。



(まぁ不在なら不在で誰かが対応するでしょうから私には関係ないわね)



 自分には関係ないことだと思いそのまま外を眺めていると屋敷が騒がしくなっていることに気がついた。それに誰かの足音がこの部屋に近づいてくる。




 ーーコンコン




「!」



 扉がノックされたことに私は驚いてしまった。

 この家の人達はほとんどの使用人も含めて私の部屋にノックして入る人などいない。ノックしてくれるのは一人のメイドだけだったが彼女はつい先日退職してしまった。

 なので私の部屋をノックする人などいないはずなのだが一体誰なんだろうか。



「…はい、どちら様ですか?」


「テオハルトだ。突然の訪問ですまない」


「え?テ、テオハルト様!?今開けますのでお待ちください!」



 部屋への訪問者はなんとテオハルト様だった。

 それなら先ほどの馬車はテオハルト様が乗ってきた馬車だったのだろう。

 しかしテオハルト様もこの後の卒業パーティーの準備があるはずなのにどうしたのだろうか。



「お、お待たせしました」


「いや、突然来てしまいすまない」


「い、いえ。それで突然どうかされましたか?卒業パーティーの準備で忙しいはずでは…」


「あぁ、ミレイア嬢に渡したいものがあってね。私の使用人も一緒だから部屋に入ってもいいかい?」


「も、もちろんです!」


「ありがとう」



 そう言ってテオハルト様と箱をいくつも抱えた女性の使用人が部屋へと入ってきた。これでも一応婚約者のいる私と二人きりにならないように気を遣ってくれたのだろう。

 それにしてもこの沢山の箱は一体なんなんだろうか。



「あの、これは一体…?」


「これは私達からミレイア嬢への贈り物だ。ぜひ受け取って欲しい」



(私達?)



「ベラ、箱を」


「はい」


「っ!あ、あなたは…」


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