第2話
私の一日は日が昇る前から始まる。
日が昇る前に起きて使用人の服に着替え厨房の手伝いと屋敷の掃除をする。
掃除が一段落する頃には完全に外は明るくなっていて休む暇もなく次の仕事に取りかかる。
自室に戻り公爵家の領地経営に関する書類を片付けていると屋敷の中が賑やかになっており、公爵一家の朝食の時間なのだろうと推測される。
この公爵一家という言葉の中に私は存在しない。
私は書類仕事が終わると急いで厨房へ行って朝食のパンとスープを貰い部屋へと戻る。
この朝食の時間が一日の中で唯一心休まる時間だ。しかしその唯一の時間はとても短いのであっという間に終わってしまう。
朝食を食べ終わったら自分の身支度に入る。
私の身支度を手伝ってくれる使用人などいないので一人でやらなければならないが、元々孤児院で生活していたのでそれほど問題はない。
問題なのは身支度を整えて行かなければならない場所だ。
使用人のような扱いを受けていても公爵家の養子となっているので学園に通わなければならないのだ。
憂鬱な気持ちになりながら使用人の服から学園の制服に着替え髪を整える。
鏡など無い部屋なので髪を整えるといっても手で梳かすだけであるが。そういえばまともに手入れができていないからか昔より髪色がくすんでしまった気がする。
身支度が終わったら屋敷の玄関ホールに向かい同じく学園に行くリリアンを待つ。
ここでリリアンより遅いなどあってはならない。だいたいいつも三十分ほど待つとリリアンが公爵と公爵夫人、それにロバートを連れてやってくる。私は頭を下げて公爵一家のやり取りが終わるまで待ち続ける。大抵この時に文句やら嫌味を言われるのだがもう慣れたものだ。
いつもの流れが終わり馬車へと乗り込む。この馬車だけは公爵が体裁を気にしてなのかリリアンと同じ馬車に乗ることが許されている。
確かに乗り心地はいいのだがこの馬車の中でもリリアンは毎日飽きもせずに嫌味を言い続けるのだ。慣れているので気にもしないがよく飽きないなと呆れている間に学園に着く。
学園では午前中は授業を受け、昼休みは生徒会の仕事をこなし、午後も授業を受ける。学園でのこの生活ももう三年目になるので昼食を食べないことにも慣れた。
午後の授業が終わると王太子妃教育を受けるために王宮へ行く。
そう、なぜか私は王太子殿下の婚約者なのだ。公爵は何を考えて私を王太子殿下の婚約者にしたのかは分からないがリリアンと婚約させればいいのにと思わずにはいられない。
王太子殿下とリリアンの仲は皆が知っているのだから。
それなのに婚約者は私。そのせいで私は王太子殿下にも嫌われていてるのだ。
それなのに生徒会長が王太子殿下なのだがこういう時だけ婚約者だからと生徒会の仕事を押し付けられている。
それに王太子妃教育が終わった後もなぜか王太子としての仕事も押し付けられる。
以前王太子の仕事をするのはさすがに婚約者でもダメだろうと思い王太子殿下に伝えたのだが生意気だと頬を打たれた。それ以来言っても無駄だと悟り何も言わずに仕事をこなしている。
王宮での仕事が終わって家に帰る頃にはすでに外は真っ暗だ。公爵一家の夕食の時間はとっくに終わっているので誰もいない厨房へ急いで行き食べられそうなものを持って自分の部屋へと戻る。
食べ終わった後も休む間もなく自室の机に置いてある書類作業に取りかかる。
領地経営の書類をこなす日もあれば招待状や手紙の代筆をする日もある。
すべてが終わる頃にはもう夜中だ。こんな時間ではお湯など沸かせないので桶に水を入れ、布で髪と体を拭く。
そして着古した寝間着に着替え固いベッドに横になる。寝心地は悪いが疲れているのですぐに寝ることができる。ただそれもほんの数時間だけ。
もう既に明日の始まりが迫っている。
こうして私の変わらない一日がまたすぐに始まるのだ。
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