第35話 グラディオンはどこまでも優しい人です
「グラディオン、どうして?」
顔を上げると、そこには心配そうなグラディオンの姿が。
「どうしてって、ファビレスが中々戻って来ないから、心配で…それよりも、何があったんだ?どうして泣いているのだい?ファビレスはどこに行った?」
「ファビレスならさっき、戻ったわ。多分行き違いになってしまったのね」
「そうだったのか。それよりもジャンヌ、何かあったのか?今日のジャンヌ、おかしいぞ。もしかして俺、ジャンヌを傷つける様な何かをしてしまったか?」
「違うの、グラディオン。私…私…」
涙が次から次へと溢れてきて、上手く話せない。そんな私の背中を、優しく撫でてくれるグラディオン。背中越しに伝わるグラディオンの温もりが、より一層私の涙を誘った。
泣いていてはダメ!きちんとグラディオンに話しをしないと。そう思ったのだが、次から次へと涙が出てきて、上手く話せないのだ。
「グラディオン…ファビレスから…すべて聞いたわ。4年半前、あなたが私を…助けてくれたのよね」
グラディオンの方を見つめ、必死に涙をぬぐい、声にならない声で訴えた。すると大きく目を見開き、そしてため息をついたグラディオン。
「あいつ、あの時の話をジャンヌにしてしまったのだな…」
「どうしてあの時、すぐに教えてくれなかったの?あなたは命を懸けて、私を守ってくれた事。あんな大けがまでしたのに、シャーロン様に手柄を横取りされたのよ。どうして怒らなかったの?」
「そうだな、あの時、本当の事を話そうと思ったよ。でも…ジャンヌが嬉しそうに、シャーロンと婚約が決まった事を報告してくれただろう?ジャンヌのあんな嬉しそうな顔を見たら、それ以上何も言えなくなった。ジャンヌはシャーロンが好きなんだって、わかったしな。俺はジャンヌの無実が証明されたのであれば、それでいい。ジャンヌが笑ってくれていたら、それで満足だと思ったんだ。でも…」
なぜか悔しそうにグラディオンが唇を噛んでいる。
「あの時俺が真実を話さなかったせいで、あのままジャンヌはシャーロンと婚約してしまった。そのせいで、ジャンヌは4年もの間、辛い時間を過ごしたんだよな。ごめん、ジャンヌ。俺のせいで、ジャンヌに苦しくて辛い思いをさせてしまって。俺はやっぱり、ジャンヌの笑顔を守る事が出来なかったんだよ…」
悲しそうに微笑むグラディオン。この人はどこまで私の事を考えてくれているの?それなのに私は…
「謝るのは私の方よ。私、グラディオンの事を何でも分かっているつもりだった。グラディオンが無意味に悪党と戦ったりしない事だって。それなのに私…全然グラディオンの事を分かっていなくて…まんまとシャーロン様の嘘に騙されて。自分が本当に情けないわ。グラディオンはずっと昔から、私を守ってくれていたのよね?ありがとう、グラディオン」
「俺はそんな立派な人間じゃない。俺は不器用で、守りたい人すら幸せに出来ない様な男だよ」
「そんな事はないわ。ごめんね、私昨日、グラディオンと副騎士隊長の話を聞いてしまったの。正直どうしていいか分からなくて。グラディオンにどう接していいか、悩んでいたの。でも、もう悩まないわ。グラディオン、私もあなたが好きよ。最初は仲間としての好きだと思っていた。でも、やっと気が付いたの。私はグラディオンと共に、未来を歩んでいきたい。グラディオン、私と婚約してくれませんか?一度失敗しているこんな私だけれど、今度こそ幸せになりたい。これからは私が、グラディオンを守るから」
再び大量の涙が溢れ出てくる。私ったらいつからこんなに泣き虫になったのかしら。今グラディオンを守るって宣言したのに、こんなに泣いてばかりではダメだわ。
そんな私を、グラディオンがギュッと抱きしめてくれたのだ。
「ジャンヌ、お前はいつもいつも、どうしてそうなんだよ…本当にもう…」
「グラディオン?泣いているの?」
ビックリしてグラディオンから離れようとしたのだが、ギュッと抱きしめられていて動く事が出来ない。
「頼む、今俺の顔を見ないでくれ…みっともない姿を晒したくない…」
「みっともないだなんて、そんな事はないわよ。でも…分かったわ」
グラディオンが泣くなんて、初めてかもしれない。グラディオンはどんなことがあっても、決して涙を見せる事はなかったから。そんな彼が泣くだなんて。
「ジャンヌ、俺は子供の頃からジャンヌが大好きだった。最初は俺自身の手でジャンヌを幸せにしたいと思っていた。だから、何が何でもジャンヌより強くなりたいと思ったんだ。でも、ジャンヌを抜かせなくて。そんな中、あの事件が起きた」
グラディオンの抱きしめる力が、さらに強くなるのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます