第33話 4年半ぶりに明かされた真実

「ええ、構わないわよ。そう言えばこうやってファビレスと話すのは初めてね」


ファビレスは騎士団の中でもとても大人しくて、同じ隊に所属しているのにほとんど話した事がなかったのだ。


「あの…ジャンヌ…」


なぜか小刻みに震えている。一体どうしたのだろう。


「ファビレス?大丈夫?あなた、震えているわよ。もしかして体調が悪の?」


心配になり、彼に近づこうとした時だった。


何を思ったのか、ファビレスが急に土下座したのだ。一体何をしているの?


「ジャンヌ、本当にごめん。僕のせいで君は…君は…」


「ちょっとファビレス、一体どうしたの?とにかく落ち着いて。ほら、立って」


急いでファビレスを立たせようとしたのだが、私の手を振り払いその場から動こうとしない。どうやら泣いている様だ。


「僕は4年半前、君に無実の罪を着せたメンバーの1人だったんだ。あの頃、ジャンヌの事を嫌っていた先輩に、“ジャンヌを陥れるからお前も協力しろ”と言われて。先輩が怖くて逆らえなくて。本当にごめんなさい。僕はずっとジャンヌに謝りたかった。でも、勇気がなくて。今日2人きりになれて、今謝らないと一生謝れないと思ったんだ」


「ええ、知っていたわ。シャーロン様から、私を陥れたメンバーの名前を聞いていたから。でも、あなたはあの時の事件を反省し、今謝ってくれたでしょう。それだけで十分よ。さあ、もう立って」


私を陥れたメンバーはあの後、3ヶ月の謹慎処分になったと聞く。その後騎士団に復帰したものの、ほとんどのメンバーが居づらくなり辞めたとの事。唯一残ったのが、このファビレスだ。


「ジャンヌは、僕が君を陥れたメンバーだと知っていたのかい?それならどうして戻って来た時、僕を責めなかったのだい?あの事件のせいで、君はものすごく傷ついただろう?それなのに、どうして…」


「さっきも言ったけれど、ずっと後悔していたのでしょう?それにファビレスはあの後、心を入れ替えて、騎士団の稽古に必死に励んでいたのでしょう?見ればわかるわ、あなた、随分と強くなったものね。かなり後悔していて、いつか私に謝罪したいと考えていたことも。それに私に謝罪したのだって、相当勇気がいったと思うの。だから私は、ファビレスのその気持ちを素直に受け止めるわ。だからもう、この話しはお終い。これからもチームメートとして、仲良くしてね」


「ありがとう…ジャンヌ。本当にごめんなさい。僕が弱かったばかりに、こんなにも優しい君を傷つけてしまった」


何度も何度も謝るファビレスの腕を掴み、彼を立たせた。よほど自責の念に駆られていたのだろう。彼の目から大粒の涙が次から次へと流れていた。


きっとファビレスもこの4年半、ずっと苦しんできたのだろう。どうか彼の苦しみが、今日で解放されますように。


「さあ、もう泣かないで。はい、ハンカチ」


ファビレスにハンカチを渡すと、ゴシゴシと顔をこすり始めたのだ。さすがにそんなに強くこすると、お肌に良くない気がするが。


「ジャンヌ、僕はもう1つ、話さないといけないことがあるんだ。4年半前、ジャンヌの無実を命をかけて証明しようとしたのは、実はグラディオン隊長だったんだよ」


えっ?今なんて言った?グラディオンが私の無実を証明したですって。でも…


「ちょっと待って、私の無実を証明したのは、シャーロン様でしょう。だって機密書類を取り返し、あなた達を自首させたって…」


「それは表向きの話なんだ。実は僕たちは、裏の組織と繋がっていて…あの日、僕たちのアジトを突き止め、乗り込んできたはグラディオン隊長なんだ。グラディオン隊長はたった1人で、裏の組織の人間を倒し、機密書類を取り返した。でも、酷い怪我を負っていて…その時たまたまやって来たシャーロンに、機密書類を託したんだよ」


ファビレスは何を言っているの?という事は…


「シャーロンはね、君をどうしても手に入れたくて、僕たちにある提案を持ち掛けたんだ。ジャンヌを困らせるため書類を盗んだが、シャーロンに見つかってしまった。シャーロンの必死の説得で自首をするというシナリオを。そしてグラディオン隊長の怪我は、全く別の事件にしようとも。僕たちも侯爵令息でもあるグラディオン隊長を瀕死に追いやったうえ、闇の組織と繋がっていたことがバレたら、タダでは済まされないから、ついシャーロンの話に乗ってしまったんだ。そのせいでジャンヌは、シャーロンと婚約する羽目になったのだよね…本当にごめんなさい」


再びファビレスが頭を下げたのだ。

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