第31話 頭が混乱しています
「俺はジャンヌが幸せならそれでいい。ジャンヌはシャーロンとの婚約で、深く傷ついている。シャーロンと婚約破棄してまだ半年だろう?俺には想像も出来ない程、ジャンヌは深い傷を負っているはずだ。そんなジャンヌの傷が癒えないうちに、俺が気持ちを伝えたらどうなる?もっとジャンヌを傷つけるかもしれない。俺はもう、ジャンヌに苦痛を与えたくはない」
切なそうにグラディオンがそう呟いたのだ。
私は彼らに気が付かれないように、そっとその場を後にした。
グラディオンが私の事をそんな風に見ていただなんて。でもグラディオン、ずっと私の事を女扱いしていなかったじゃない。
一気に頭が混乱する。私も確かにグラディオンの事が好きだ。もしかしたら、男性としてグラディオンの事を…
いいえ、そんな事はないはずだわ。だって私達は、子供の頃からの友人で、何でも話せる親友の様な存在。その関係は、ずっとかわらないはず。親友だから、私たちは今の関係を築いてこられたのだ。
それにもしグラディオンと婚約したら、シャーロン様の様にまた、冷たくあしらわれるかもしれない。シャーロン様は、危険を冒してまで私の無実を証明してくれた人。その上騎士団時代は、本当に優しくていつも私を気にかけてくれていたのだ。
そんな人ですら、婚約したら私を冷たくあしらってきたのだ。あの4年、私はずっと寂しかった、辛かった。もう二度と、あんな思いはしたくない。
それにグラディオンだって、今すぐに私とどうこうなろうだなんて、考えてはいないはず…
でも、グラディオンの気持ちを知ってしまった以上、このまま何事もなく過ごせるかと言われたら、絶対に無理だわ。
私はそんなに器用ではない。グラディオンには明日にでも、今日の会話を聞いてしまった事への謝罪と、これからもよき友人として接していきたいという旨を伝えた方がいいわよね。
でも…
勝手に盗み聞きして、勝手に自分の気持ちを伝えるだなんて、それもどうかのかしら?
それにもし、グラディオンにそんな事を言ったら、きっと傷つくだろう。私はグラディオンの悲しむ顔なんて見たくない。さっきだって、あんなに悲しそうな顔をしていたし…
グラディオンの悲しそうな顔を思い出したら、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。
いっその事、グラディオンの気持ちを受け入れた方がいいのかしら?私だって、いずれ誰かと結婚するのなら、グラディオンと…
て、こんな中途半端な気持ちでグラディオンを受け入れようとするだなんて、グラディオンに失礼だわ。
あぁ、考えれば考えるほど、頭が混乱する。私は一体、どうすればいいの?
「お嬢様、お屋敷に到着いたしましたよ」
ふと御者の声が聞こえた。
「あら、そうね。ごめんなさい。色々と考え事をしていて」
私ったら、屋敷に着いている事すら気が付かないだなんて。急いで馬車から降り、家の中に入る。
「お嬢様、随分と遅かったですね。もう皆様、ご夕食を召し上がっておられますよ。お嬢様もすぐに湯あみをして、ご夕食を召し上がってください」
「ありがとう。そうね、そうするわ」
急いで湯あみを済ませ、食堂へと向かう。
「ジャンヌ、遅かったわね。それで、トレーニング器具はあったの?」
お母様が話しかけてきたのだ。しまった、混乱していてトレーニング器具を馬車の中に忘れてきてしまったわ。でも、今日はとてもじゃないけれど、トレーニングをする気にはなれない。とりあえず器具は後で取りに行くとして、今は晩御飯を頂かないと。
「ええ、ありましたわ。遅くなってごめんなさい、すぐに夕食を頂きますね」
急いで食事を頂く。
それにしても、明日の騎士団はどうしよう。どんな顔をして、グラディオンに会えばいいのかしら?あぁ、考えただけで頭が…
「ちょっとジャンヌ、あなたは何をしているの?スープをこぼしているわよ」
「えっ?」
どうやらスープをすくったまま、ボーっとしていた様で、スープが机にポタポタとこぼれていた。急いでメイドが汚れた机を拭いてくれる。
「ごめんなさい」
本当に私は、何をしているのかしら?
「ジャンヌ、さっきからボーっとしてどうしたの?何かあった?」
「特に何もありませんわ」
そう伝え、急いで食事を食べ終え自室へと戻ってきた。
部屋に戻って来ても考える事は、グラディオンの事だ。初めて会ったのは、私たちが6歳の時だった。あの頃はまだ、グラディオンは体も小さくて武術も得意とは言えなかった。
それでもメキメキ上達していって、いつしか私の次に強くなった。少しぶっきらぼうのところはあるが、素直で一生懸命で、そんなグラディオンが大好きだった。
4年ぶりに騎士団に戻ってきた私を、温かく迎えてくれたグラディオン。4年前よりも物凄く強くなっていて、私だけ置いてけぼりをくらった気がして寂しかった。
私にとって、グラディオンは大切な人。だからこそ、これからグラディオンとどう接していいのか分からない。
結局この日は、1人悶々も悩み続けたのだった。
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