第14話 私は何をやっているのでしょうか

「グラディオン、見て。私の手。綺麗になったでしょう?もう竹刀を握ってもいいわよね!」


グラディオンに手当てをしてもらってから1週間。本当に竹刀を一切握らせてもらえなかった私は、やっと手の傷が治ったのだ。


「痕になってなくてよかった。ああ、いいよ。でも、あまり無理をするなよ。怪我でもしたら大変だからな」


「怪我なんてしないわよ。グラディオンは心配性ね」


それにしてもグラディオンは、周りの事をよく見ている。グラディオンは強いだけでなく、こうやって周りを見る事が出来るから、隊長を任されているのだろう。


「ジャンヌ、やっとグラディオン隊長から竹刀の稽古の許可が出たのか?よかったな。でも、無理をするなよ。ジャンヌが怪我でもしたら、またグラディオン隊長がうるさいからな」


そう言って他の隊員たちが笑っている。もう、私をからかって。


「すぐにからかわないでよ。それよりもダン、あなた歩き方が変よ。足を怪我したのではなくって?」


「ジャンヌは本当によく人の事を見ているな。実はさっき、捻っちゃって。大したことないから気にするな」


「何が大したことないよ。歩き方が変という事は、痛みもあるのでしょう?すぐに医務室に行きましょう。本当にダンは、昔から無理をするのだから」


「ジャンヌは相変わらず、俺たちの事をよく見ているな。お前は昔から、俺たちのちょっとした変化も見逃さなかったものな。分かったよ、ちょっと医務室に行ってくるわ」


そう言って医務室に向かったダン。


「私って昔と変わっていないかしら?この4年で、私は随分変わってしまったと思うもだけれど…」


隣にいた隊員に呟くと


「ジャンヌは今も昔も全く変わっていないよ。お節介で頑張り屋で。それでいて真っすぐで。変わったところと言えば、バストとヒップが立派になった事だな」


そう言ってゲラゲラと笑っている隊員たち。


「ちょっと、変な事を言わないで頂戴。本当にもう」


騎士団は男ばかりの為か、少々品の無い話が出るのだ。まあ、私の前でもこんな話をするという事は、昔と変わらず私の事を女扱いしていないという事だろう。


「お前たち、いつまで無駄話をしているつもりだ。そろそろ稽古を始めるぞ」


「隊長がお怒りだ。ジャンヌ、早く行こうぜ」


「ええ」


急いで皆と一緒に稽古を開始する。この感じ、やっぱり懐かしくて好きだな。私の居場所は、騎士団なのよね。


それにしてもグラディオンったら、随分と強くなったものだわ。私も早く、グラディオンに近づきたい。それに1週間も竹刀を握る事を禁止されていたのですもの。今日からもっともっと頑張らないと!


「ジャンヌ、今日から竹刀の練習に参加してもいいと言ったが、決して無理はするなよ。騎士団に戻って来てから、ジャンヌはずっと無理をしているだろう?それにそんな激しい稽古をしていては、いつか怪我をするぞ」


張り切る私に水を差すような事を言うのは、グラディオンだ。せっかくやる気に満ちているのに、邪魔しないで欲しいわ。


「私は無理何てしないわ。それにちゃんとグラディオンの言う通りに、手の怪我が治るまで竹刀は握らなかったし。ほら、グラディオン、あっちであなたを呼んでいるわよ。早く行ったら?」


さりげなくグラディオンを遠ざける。本当にグラディオンは。


「グラディオン隊長、お前の事が心配でたまらないみたいだな。今のグラディオン隊長って、昔のジャンヌに似ていると思わないか?」


「確かにな。ジャンヌが2人いるみたいだ」


「私はあそこまで口うるさくはないわ。本当に皆、好き勝手言って!副隊長、私と手合わせしてくれるかしら?久しぶりに竹刀を握るから、腕が落ちていないか心配なの」


「別にいいけれど、勝手に手合わせしてグラディオンに怒られないかな?」


「大丈夫よ。やりましょう」


この1週間、本当に竹刀を握らせてもらえなかったのだ。動きが鈍っていないか早く確かめたい。そんな思いで手合わせを行った。


「それじゃあ行くぞ、ジャンヌ」


「ええ、かかって来て」


手合わせをお願いした副隊長が一気に襲い掛かって来る。これくらい、余裕よ。そう思っていたのだが…


「きゃぁ」


「ジャンヌ、大丈夫か?」


この1週間、ろくに稽古が出来ていなかったうえ、ストレッチを行っていなかった事から、副隊長の竹刀を受け止め切れずに、バランスを崩して倒れてしまったのだ。


「ええ、大丈夫よ…ごめんなさい。ちょっと油断しちゃったかしら?」


「いや、俺こそすまない。怪我はないかい?」


「ええ、大丈夫よ」


急いで起き上がろうとした時だった。ズキリと右足が痛んだ。きっと転んだ拍子に捻ってしまったのだろう。


でもこの場で足が痛いと言えば、きっと皆心配するだろう。ここは黙っておこう。


それにしても私、一体何をしているのかしら?本当に情けないわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る