第12話 すぐに勘を取り戻したけれど…

「それじゃあ、早速稽古に入ろう。ジャンヌ、お前はこの4年、令嬢として生きて来たのだろう?無理はしなくていいからな」


「グラディオンったら、甘やかさないで。私は騎士団員としてここにきているのだから、皆と同じメニューをこなすわ。皆も私の事を、昔と同じように令嬢と思ってもらわなくてもいいからね。それじゃあ、早速稽古に入りましょう」


この1週間、自主的に練習を行ってきたのだ。きっと大丈夫なはず。


そんな思いで稽古を開始した。


「ジャンヌは4年ぶりの稽古なのに、あまり動きが鈍っていないな。さすがジャンヌだな」


「本当だ。見た目だけは立派な令嬢になっちまったけれど、やっぱりジャンヌだ」


私の練習風景を見て、他の仲間たちがそう言って笑っていた。皆から見ても、私の動きはあまり変わっていない様だ。


ただ、見た目だけは立派な令嬢とは、どういう意味だろう。


でもよかった。皆と同じ練習メニューを、なんとかこなせている。それに、段々勘が戻ってきたわ。


ただ…


「ジャンヌ、今日は初日だ、あまり無理するな」


「わ…私は…大丈夫…よ…」


勘は戻って来たものの、体力が付いていかないのだ。昔は余裕でこなせたメニューが、半分程度で息切れを起こしてしまうだなんて、情けない。


せっかく騎士団に再入団出来たのに、皆のお荷物になってしまうだなんて…シャーロン様と婚約破棄した今、もう私には貴族令嬢としての居場所はないだろう。だからこそ、騎士団は私に残された唯一の居場所なのに…



悔しくて涙が込みあげてくる。こんなんじゃダメよ、もっともっと頑張らないと。その日何とか稽古をこなした後、積極的に後片付けを行った。


「ジャンヌ、今日は相当疲れているだろう?片づけは俺たちがやっておくから、お前はもう帰れよ」


「私は大丈夫よ。私、今日皆にいっぱい迷惑をかけてしまったから、これくらいは私にやらせて」


心配そうな仲間たちに笑顔を向けると、黙々と片づけた。


全て片付けが終わり、皆と別れて馬車に乗り込む。さすがに今日は疲れたわ。


「ジャンヌ、大丈夫かい?久しぶりの騎士団だ。かなり疲れたのだろう」


「姉上、顔色があまり良くないですよ。無理は禁物です。どうか今日はゆっくり休んでください」


お父様とディーノが心配そうに声をかけて来た。


「ありがとうございます。でも私は大丈夫ですわ。これくらい、何ともありません」


本当か物凄く疲れている。でも、昔の私ならこんなもの平気だったはず…


そうよ、一刻も早く、4年間のブランクを取り戻さないと!私に必要なのは体力よ。


翌日から朝早く起きて、自主練習を行った。さらに


「お父様、ディーノ、今日から私、早く行く事にしましたの。ですので、別々で騎士団に参りましょう」


そう伝え、2人よりも一足先に騎士団へと向かった。皆が来た時に、すぐに稽古に取り掛かれる様に、1人もくもくと準備を行う。今の私は、この隊のお荷物でしかない。せめて少しでも、皆の役に立ちたいのだ。


「あれ、ジャンヌ。おはよう。もしかしてこれ、全部ジャンヌが1人で準備したのか?」


「おはよう、グラディオン。そうよ。私はこの隊で一番下っ端なのだから、1番早く来て準備をするのは当然でしょう。それに昨日、皆にも迷惑をかけたし」


私が体力がないばかりに、皆の練習の足を引っ張ってしまったのだ。


「そんな事は気にしなくていいよ。それにうちの部隊では、下っ端とかそんな事は関係ない。そもそもジャンヌが言ったんじゃないか。“みんな平等に準備も片付けもしよう。新人にばかり押し付ける様なことは絶対にダメだ”って」


「確かにそうだけれど、それは嫌がる人に無理やり準備や片づけをさせていた人がいたからよ。でも、私は自分の意思でやっているの。皆の役に立ちたいのよ。もう私には、ここしか居場所がないから…」


しまった、ついうっかりグラディオンにこんな事を言ってしまった。


私の言葉を聞いたグラディオンが、一瞬大きく目を見開いた。そして


「ジャンヌ、俺のせいですまない…」


悲しそうに呟いたのだ。どうしてグラディオンが謝るの?その意味が、私には全く分からない。


「すまない、何でもない。ジャンヌ、この隊の隊長は俺だ。誰か1人に何かをやらせることはさせない。これからは1人で準備をしたり片づけをしたりするのは避けて欲しい。ただ、ジャンヌが焦る気持ちもわかる。4年もの間、騎士団を離れていたのだからな。ジャンヌが望むなら、俺が自主練習に付き合ってやるよ」


「グラディオンが?いいわよ、あなたはただでさえ隊長の仕事もあって忙しいのでしょう?私は大丈夫だから。それから、勝手な事をしてごめんなさい。この隊はあなたの隊だものね。これからは、隊長でもあるあなたの指示に従うわ」


昔からずっと一緒に稽古に励んできたグラディオン。この4年で、彼は隊長にまで登りつめたのよね。私はいつの間にか、グラディオンにも置いて行かれてしまったわ…


それがなんだか悲しくて寂しい。でも、仕方がない事なのだ。


「ジャンヌ、俺は…」


「ジャンヌ、グラディオン隊長も。随分早いな。ジャンヌ、昨日お前無理をしただろう?体は大丈夫か?」


他の隊員たちがやって来た。


「ええ、大丈夫よ。今日もよろしくね」


皆の足ばかり引っ張ってはいられない。もっともっと頑張らないと。

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