第2話 もう無理です
馬車に乗り込んだ瞬間、涙が溢れだす。
「私…惨めね…どんなに令嬢らしく振舞っても、他の令嬢から怖がられたり、勇ましいと言われたりして…シャーロン様もきっと、こんな勇ましい女、嫌いよね…」
大好きだった騎士団も辞め、楽しくもない夜会にも参加して、何とか令嬢らしくなろうと今まで必死に頑張って来た。
それもこれも、少しでもシャーロン様の隣に並んだとき、恥ずかしくない様にするため。でも、どんなに私が頑張っても、シャーロン様の隣にはふさわしくないのだ。
現にシャーロン様も、私に寄り付きもしない。こんな状況でシャーロン様と結婚しても、お互い辛いだけ。
シャーロン様が好きだった。だからこそ、自分が嫌われている状況で、彼と結婚なんてしたくない。彼には好きな人と結婚して欲しい。
でも今更婚約破棄だなんて、出来るのかしら?そもそも私たちの婚約は、親同士が決めた事。だからこそ、シャーロン様も私との婚約を断れなかったのだろう。
やっぱりこのまま私は、シャーロン様と結婚するしかないのかしら?親の命令で私と婚約させられたシャーロン様。令嬢たちはもちろん、令息たちからも同情されていると聞く。
いい加減、シャーロン様を解放してあげたい。一度お父様に話しをしてみようかしら?でも、家は伯爵家で相手は侯爵家。我が家から婚約破棄の話をしたら、シャーロン様のご両親もいい気はしないだろう。
本当に貴族というものは、面倒な世界だ。
なんだか今日はどっと疲れた。
屋敷に戻ってきた私は、すぐに湯あみを済ませ、そのまま眠りについたのだった。
翌日
「お嬢様、お手紙が届いておりますわ」
メイドが私に手紙を持ってきてくれたのだ。差出人を見たが、何も書かれていない。
またか…
手紙を開けると案の定、私に対する辛辣な言葉が書かれていた。
“いい加減シャーロン様を解放してあげて”
“シャーロン様がお可哀そう。彼はあなたを嫌っている”
“シャーロン様の前から消えろ”
などなどだ。どうやら私が怖い様で、直接言ってこられない人たちがこのような手紙を送ってくるのだ。この手紙にも随分慣れた。
「あら?これは何かしら?」
手紙のほかに、何枚かの紙が入っていたのだ。
「きゃぁ、何なの!これは!」
それはシャーロン様と令嬢の写真だったのだ。シャーロン様と令嬢が抱き合っている写真、口づけをしている写真、胸に顔をうずめている写真。
それもどれも別の令嬢ではないか。
あまりの衝撃的な写真に、吐き気を覚え、トイレに駆け込んだ。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
メイドたちが心配して私の後を付いて来た。
「ええ…大丈夫よ。ちょっと体調が悪くなってしまって…少し休むわ」
一旦ベッドに横になる。
我が国では、婚約者以外の異性との不貞行為は、貴族世界でも嫌われている。たとえ親同士が決めた婚約だったとしても、不貞を働く事を良しとはしないのだ。
ただ、近年親同士の婚約に反発するため、あえて不貞を働き婚約破棄を狙う人が増えているとも聞いたことがある。要するに、シャーロン様もどうしても私と婚約破棄がしたくて、不貞を働いたという事なのね。
「随分と舐めた真似をしてくれるじゃない!ここまでされたら、さすがの私も、シャーロン様と結婚なんてする事は出来ないわ!」
この4年、どんなに相手にされなくても、彼に近づきたくて必死に頑張って来た。大好きな騎士団も辞め、苦手なマナーレッスンも必死に受け、シャーロン様の隣にいても恥ずかしくない令嬢になるため自分を犠牲にして来たのだ。
もちろん、私にも至らないところがあっただろう。それは分かっている。
それでもまさか不貞行為を働くだなんて。それも色々な令嬢と。さすがに気持ち悪い。
一気にシャーロン様への気持ちが消えていく。そもそも私、どうしてそこまでシャーロン様の事が好きだったのかしら?
そうだわ、騎士団時代、強すぎる私に嫉妬した令息たちに嵌められ、無実の罪を着せられたのだったわ。それをシャーロン様が危険を顧みず、私の無罪を証明してくれたのだ。私を守ってくれたシャーロン様の姿を見て、好きになったのだった。
あの時のシャーロン様は、とてもカッコよかったわ。
でも…
こうなってしまった以上、もう私はシャーロン様の婚約者でいる事なんて出来ない。シャーロン様も一刻も早く、婚約破棄をしたいと考えているはずだろう。
こうしちゃいられない。すぐにお父様に話しをしないと!
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