四天王2

 わし、げんじーこと島崎玄柊が脱獄を決意した理由。


それは人知れず封印していた反魔の書のレプリカが何者かの手によって持ち出されたことにある。


あれには勝手に持ち出したらすぐに分かるように細工していたから牢屋にいても把握することができた。


何者かとは言っても誰がやったかなど明白だ。


全盛期のわしが施した封印魔法を解くことができる者などわしの弟子くらいしか思いつかん。


そしてあれを持ち出す理由といえば大体見当がつく。

あの馬鹿弟子は世界を消そうとしているのだろう。


しかしそれはわしのせいでもある。


あいつが一番辛い時、わしはそばにいてやれなかった。


あいつの師匠でありながら支えてあげることができなかった。


こんなことになってしまったのはわしの責任だ。


わしには弟子の暴走を止める義務がある。


世界は消させない。

これ以上弟子に罪を重ねさせてはならない。



 小野寺桜澄から反魔の書のレプリカを受け取った四天王は小野寺桜澄と別れ、目的地に向かい始めた。


結界の外、瓦礫の山やこちらの様子を窺っている魔物を眺めながら歩みを進める。


「はぁー」

ゼノライトが重いため息をついた。


「なんだ貴様。ため息をつくな鬱陶しい」

「うるせーな狼女。別にため息くらいいいだろうが」


「貴様何度言えば分かる。私にはちゃんと名前がある。狼女と呼ぶな」


「……あ、そっか。親父がいないからアンタらをたしなめるのってアタシとカヨイがやんなきゃいけないんだった」


ロゼメロの言葉にゼノライトが俯いた。


「そうだったな。二人とも落ち着け」


カヨイがそう言うとウルフロバテーネも

「分かった」

と言って俯いた。


「はぁー」

またゼノライトがため息をついた。


「わざとか貴様。私を怒らせるためにわざとやっているのか?」


「え? ああごめん。なんか無意識に出ちゃってるみたいだ」


素直に謝ったゼノライトをウルフロバテーネはそれ以上責めなかった。


「なぜそんなにため息をつくのだ。悩みでもあるのか?」


「そりゃため息もつきたくなるさ。これからオレたち世界を消すんだぜ?」


反射的にカヨイが言った。

「あまり深く考えるな」


同意するようにロゼメロが頷く。

「そうそう。んなこと考えたって辛くなるだけだって。もっと楽しいこと考えようよ。ほら、あそこにいる魔物なんか可愛くない?」


「ん? あぁ美味しいやつだな」

ゼノライトはチラッと見るとぶっきらぼうに言った。


「……アンタ水族館行っても魚みたら美味しそうって言いそうだよね」

「確かに。ゼノならそう言うかもな」


「水族館なんか行ったことないだろ。これから行くこともないし。全部消すんだからな」

「もー。なんだってそんなに悲観的なの?」


「オレさ。世界を消すのが正しいのか正直疑問なんだよね」


「……私もそれは少し思っていた。もちろん私たちを作った桜澄様の望みなのだからそれを叶えるために私たちが動くのは当然のことだと分かってはいるのだが……言っていいのか分からないが桜澄様は」


「それを本気で望んでいるようには見えない、というのだろう?」

被せるようにカヨイがそう言った。


「……ああ。カヨイとロゼメロはどう思う?」

「アタシもそう思うよ。親父は優しいからね」


「……」

「どうしたんだカヨイ?」


ウルフロバテーネが顔を覗き込むとカヨイは真剣な顔をして言った。


「いいか三人とも。よく聞け。マスターは世界を消したいわけじゃない」


ゼノライトが目を見開いた。

「どういうことだ?」


「マスターが人間の国を一つ滅ぼしたのは知っているだろう?」


「らしいね。アタシたちが作られる前の話でしょ?」


「そうだ。その時マスターは人類とも魔族とも敵対し、神への復讐を心に誓い、天使を殺して世界を消すことにした。だが始まりがどうであれ今マスターを突き動かしているものは復讐心などではない」

「復讐心じゃないなら一体なんなのだ?」


「責任感だ」


「責任感……ねぇ」

噛み締めるようにゼノライトが呟いた。


「ああ。国を滅ぼした時に殺した人々への責任だ。マスターは大勢を殺した。殺した命の数だけマスターには責任がある。少なくともマスターはそう思っているのだろう」


「今更、はい復讐やめました! とはできないってわけか。なるほどな」


ゼノライトはまたため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る