第14話 教官との交渉
帰途の途中でドロップアイテムを確認し、天を仰ぐ。
……恐らく、今回のポイントで十位圏内……下手をしたら五位圏内にいくかもしれない。それが、非常にヤバい。
――俺としては、これ以上ユーノと義母を刺激したくない。特に義母は、ユーノとチームを解消して俺が成績を上げたって知ったら、怒り狂ってマジで俺を殺しにくるかもしれない。
義母を犯罪者にしたくないし俺も死にたくないので、なんとか手を打たないとだ。
あと、エドウィンを出来るだけ巻き込みたくない。
ユーノは策略家なので、エドウィンに何か仕掛けて順位を落とすか、あるいは退学に持ち込むことも考えられる。
罠に嵌められないよう出来るだけエドウィンとは行動をともにしているのだが――コイツ、突拍子もないことをいきなりしでかすので本当に油断がならないのだ。目を離すと消えてるし。校則違反気にしないし。フリーダムすぎる。
俺はため息をつくと、エドウィンに言った。
「……なぁ。お前、ランキングには興味ないよな?」
「あァ? なんだよいきなり。……肉を渡さねぇって話か? 賛成だ!」
「いや、それは無理だから一つは渡す。……そうじゃなくて……。俺たちのチームがランキングから外されてもいいかって話」
エドウィンが怪訝な顔をした。
「……別にいいけどよ……。外されるのか?」
「……たぶん、今の調子でいったら、あと一つか二つ任務をこなしたらトップになるだろう。なんせ、普通に任務をこなしたって絶対に俺たちには勝てないから。最初からトップだったらいいが、俺たちはそうじゃない。だから納得出来ない連中から絡まれてトラブルが増える。教官たちも食ってかかられるだろう。……そうなると他のセイバーズを目指している生徒に悪影響を与えるという理由で、ランキングから外される」
と、予想を語る。
「だから、その前に教官と交渉したい。俺たちのチームが特別なのは確かに俺たち自身の努力じゃないが、だからといって損ばかり押しつけられてもな、って考えたんだよ。レアドロップアイテムを渡すんだ、教官たちに優遇してもらったっていいはずだ」
エドウィンは気のなさそうに返事をした。
「ふーん……。別にいいけどよ、教官がごねたらどーすんだよ」
「普通の任務に戻してもらうよ。で、レアドロップアイテムは山分けしよう。そもそもが、アカデミーで納品してポイントもらうより、卒業してから市場に出して売った方が儲かるだろ。肉は、どっかで野営して全部食おう」
「おっしゃ! それでいこうぜ!」
エドウィンが盛り上がった。
アカデミーに戻ったら注目された。睨まれてもいる。
プロもこんな感じなのかな……と内心ため息をつきつつ、そして「あ? テメェ、何睨んでやがる、喧嘩売ってんのかゴラ」とお買い上げしそうになっているエドウィンの襟首を掴んで引きずりつつ、受付室に向かう。
受付室に入ると、後ろから複数チーム入ってきた。
参ったな、と思ったが、話を進めれば教官たちが彼らを追い出すだろうと踏んだ。
フィッシャー教官の他にシモンズ教官が現れる。そして今回は女性の教官が現れた。ナタリア教官、魔法担当の一人だ。
後ろにいる複数チームが、「え、なんで教官がたくさん出てきたんだ……?」とかツッコミを入れた。
「任務完了しました。まず、通常ドロップアイテムです」
オーク肉と低級体力回復薬、あと、雑魚魔物のドロップアイテムを出す。
「かなり狩ったわね」
ナタリア教官が驚いている。
「依頼内容がボスのレアドロップアイテムでしたから……。ボス部屋前で野営するため、徹底的にくまなく狩りました」
「マジかよ……」「気合い入りすぎ……」と、後ろの連中がざわつく。
「……で、任務とは関係ありませんが、雑魚魔物のレアドロップアイテムです。スライムの粘液と、色違いのエーテルストーン、あとダーティラットの前歯です」
それらもドン! と出すと、後ろから「聞いたことあるか?」「知らない……」とヒソヒソ話しているのが聞こえてくる。
なんだろ、後ろの連中は。難癖つけてくるかと思いきや、ガヤなのか?
……と、ナタリア教官がスライムに食いついている。
「いいわね! この数はなかなかのものよ! 確かに、スライムのレアドロップアイテムは低確率とはいえ出やすいのだけど、こんなに出るなんてすごいわよ!」
……なんで教官たちって、レアドロップアイテムについて熱く語るんだろう?
後ろの連中も引いてるぞ。
「次は、任務であるボスのオークのレアドロップアイテムと、宝箱のレアアイテムです」
「「「え!?」」」
後ろの連中が驚いている。あ、教官たちもだ。いや、依頼票作ったのそっちだろ。
「これが、オークのレアドロップアイテム……睾丸です。あと、宝箱のレアアイテムはこれでした。色が違うんですけど、わかります?」
教官たち全員が顔を寄せ合い、レアアイテムを検分する。
「……中級の体力回復薬に似ているが、少し違うかもしれない。これは、鑑定に回す。もしもかなり珍しいレアアイテムの場合は、さらに特別ポイントをつけよう」
「……ありがとうございます。それでなんですが……」
俺はエドウィンをチラリと見つつ、礼を言った。
俺の挙動で察したフィッシャー教官が、察した。
「さらにレアが出たんだな?」
「…………」
俺が黙ると、教官たちが視線を交わした。
そして、シモンズ教官が後ろの連中に声をかける。
「君たちも任務か? なら担当教官を呼んでくるから前に来なさい、先に済ませよう」
後ろの連中は戸惑った。
「えっ……」
「いや……」
「……あとからで……」
と、濁している。
「いいから来なさい。彼らの任務は特殊なので時間がかかる。何せ三人がかりで行わなくてはならない。……事によっては教官全員で協議を行わなくてはならないんだ。君たちを先に終わらせよう」
シモンズ教官が再度促すと、彼らは慌てたように出ていった。
ナタリア教官は紙に何事かを書くと扉まで行き、外に貼り紙をして扉を閉め、鍵を掛けた。
「よし、じゃあじっくりと見させてもらいましょう!」
……気合いが怖い。というか、ナタリア教官はなんでこんなに白熱してるんだ?
恐れを抱きつつ、俺は最初に雑魚魔物の超レアドロップアイテムを出した。
「まずはこれです。スライムから出た、虹色に光る何かと、ゴブリンの大きなエーテルストーン、あと、ダーティラットの……毛皮? 文献がなかったので何かわかりませんでした」
ナタリア教官が悲鳴を上げた。
え、何に悲鳴を上げたんだ?
ダーティラットの毛皮か?
そして、驚いた教官たちが続々とやってきたぞ。
「こ、これは! 幻の美容液!! この虹色に輝く液体は絶対にそうだわ!!」
外れだ、スライムだった。
ナタリア教官がまくしたてているのを要約すると、スライムのレアドロップアイテムである粘液は、美容液として使われるらしい。肌が若返り、しかも脂肪燃焼効果もあるとか。だが、さらに効果がアップし美白効果までついた『幻の美容液』と言われる超高い美容液があり、それは虹色に輝いていたのでたぶんこのレア中のレアがそうだったと思われる、いや絶対にそう! ということだ。
女性の教官が全員目の色を変えている。怖い。
「ナタリア教官、落ち着いてください、気持ちはわかりますが、生徒の前です」
フィッシャー教官が勇気を出して言い、ナタリア教官は頷いているが目は虹色の粘液に釘付けだった。怖い。
「……あとは……、まずこちらを先に出します。宝箱のレアアイテムで、明らかに高そうなのが出ました」
キラキラ光る瓶を取り出すと、全員がおぉ、とざわめく。
「低級、中級、と続いたら上級だが……。にしては輝きが異常だな。これも鑑定に回そう」
俺は頷いて、黙る。
教官たちも、黙る。
「……まだあるんだろう? とっておきの隠し玉が」
俺は、しぶしぶといった雰囲気でオークのレア中のレアドロップアイテムを取り出した。
「オークのレアドロップアイテムの肉、二種です」
サンダーズ教官が走ってやってきたよ。
フィッシャー教官も前のめりだ。
「……もしや……食べたのか?」
「すっげー美味かったぜ!」
エドウィンがいい笑顔でサムズアップした。
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