第12恐怖「変色する赤い糸」

 

 あまり信じてもらえませんが、私は小さい頃から、霊感がありました。それも日によってムラがあり、強まるときには幽霊が見えるだけでなく、色々と不思議な体験をします。


 なかでも特に不可解だった、頭にこびりついて消えない嫌な体験の話をします。


 私は現在独身ですが、一時期、婚約者・K子がいました。

 私はK子と半年の交際を経て、婚約をしました。交際期間が短いと感じられるでしょうか。それには理由があります。馬鹿げた話だと思われるでしょうが、私には、とあるものが見えたのです。


 K子の左手の小指から私の右手の小指に繋がる、赤い糸が。


 私の思い込みだと思ってもらって構いません。幻覚だろうがなんだろうが、見えてしまうものは仕方ないのです。


 それでその赤い糸というのは、よく聞くような、いわゆる「運命の赤い糸」とは、少々性質が違っていました。


 その赤い糸は基本的に、意識を集中しなければ見えないのですが、条件によっては勝手に見えるようになります。それは、色が変わる時です。


 その糸は、彼女の体調や機嫌次第で、さまざまな色に変わるのです。しかも変色する際には、じわじわと侵食するように別の色が染まってきて、それがこちらの指先まで達すると、私まで同じような気分になってしまうのです。ですから、離れていても彼女のことがよく理解でき、便利な側面も不便な側面もありました。


 ところがあるときのこと。重大な問題が起きてしまいました。


 よくあることだとは思いますが、いざ式の準備に取り掛かると、仲違いがおき、険悪な期間が続いてしまいました。すると、向こうの怒りや悲しみ、苛立ちが、糸を伝わってくるので余計に大変でした。


 式が間近に迫った頃、ついに私とK子は、これまでにないほどの大喧嘩をしてしまいました。私が、「結婚するのをやめるか」などと口走ったせいです。


 激怒したK子は、これから式の段取りについて話し合う予定だったのを拒否し、タクシーをつかまえて、去っていきました。


 そのとき糸は、複雑な色をした状態でした。


 私はその糸をじっと見つめながら、冷静になろうと努めました。

 そのとき。


 大きな衝撃音が、離れた場所から聞こえました。

 私は血の気が引きました。


 それは、車の衝突音だったのです。


 まさか、K子の乗ったタクシーでは……

 タイミング的にはおかしくありませんし、糸は音がしたほうへ向かって伸びています。私はすぐさま、そちらへ駆け出しました。


 と、ほぼ同時に、糸が変色をはじめました。

 侵食してきた色は、墨汁のような黒。


 身の毛がよだつような思いで、私は全速力で走りました。


 角を曲がると、その光景が目に飛び込んできました。やはり、彼女が乗ったタクシーが事故に遭ったようです。それもトラックと衝突したようで、車体はひしゃげていました。


 タクシーに向かって懸命に走っているさなか、侵食してくる真っ黒い色が、私の指先に到達しました。

 すると私は、タクシーを目前にして、気を失ってしまいました。


 目が覚めると、病院のベッドに横たわっていました。

 しばらくぼんやりしていましたが、ふいに、K子のことを思い出しました。

 糸はどうなっているのだろう。糸を見れば、彼女の状態がわかるはず。


 どうかお願いだから見えてくれ、そう思いながら指先に集中してみると……

 赤黒い糸が、じわじわと見えてきました。


 その先へ、視線を動かしてみると……

 窓辺に、血だらけのK子が悲しそうに立って、私を見下ろしていたのでした。


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