げんじーの弟子

 子供組でトランプをして遊んでいた時、天姉が

「今日は八月十五日だ!」

と言い出した。

「あー。終戦記念日か」

「いやそれもあるけども。そっちじゃなくて。機械仕掛けの歌姫文化の方だよ」

「あー。わかる人にはわかるやつか」

「今夜はお祝いだ! 踊り明かすぞ!」


「いや踊りとか私全然分からんで?」

「安心しろ。ワルツだ」

「余計分からんわ!」

「んじゃ盆踊りでもいいから。よし秘密基地……いや、アジトに行くぞ!」

「ノリノリだな天姉」



 それからみんなで秘密基地に行った。

夜に訪れるのは昔でさえあまりしなかったので、なんとなく気持ちが浮ついた。

「よし。バケツに水を汲んできたな。ほんじゃ火を起こすぞ!」


 ちょっと地面を掘って、その中に松ぼっくりやらその辺の乾燥した枯葉やらを入れて火をつけた。

薪を時々追加しながらしばらくすると火が安定した。


「薪はどこから持ってきたんですか?」

「山で拾った斧で僕が作っといたやつ。薪割りって筋トレになるんだよね」

「斧が……落ちてたんですか? それは、事件性があるやつなんじゃ……?」


「大丈夫だって。ちょっと赤黒くなってたけど」

「アウト! アウトですよ!」

「冗談だってば」


「なんか火見てたら落ち着くよな」

「そうだねー。音もいいし」

「よし、踊るぞ! 立ち上がれ!」

「はいはい。なんか火の周りで踊るとか部族の儀式みたいだな」


「恭介さん。シャルウィーダンス?」

「いいけど僕ワルツとか踊ったことないよ?」

「私がリードしますよ。任せといてください!」


僕と桜はなんちゃってワルツを踊った。

あの自信は何だったのかめちゃくちゃ足踏まれたけど。

日向とけいは盆踊りしてた。

天姉はなぜか腹踊りをしていた。


でも天姉は鍛えまくっていて、うっすら腹筋が割れているくらいだから見ていて笑えるようなものじゃない。

あれはちょっとぽっちゃりしてるくらいの人がやるから笑えるのだ。

でもずっとドヤ顔でやっているのは少し面白いかもしれない。

その後一時間くらい僕たちは踊り続けた。



 僕とけいが準備運動をしていた時のことだ。

「ごめんください」

誰かが家を訪ねてきたようだ。

こんなことは今までなかった。

僕とけいは隠れて様子を窺うことにした。


「おー来たか。上がってくれ」

げんじーの知り合いみたいだ。

「なにしてるんだお前たち。客だ。今日は訓練はないと伝えてなかったか?」

「聞いてないですね。お客さんのことも」

「そうだったか。とりあえず俺たちも家に入るぞ」



 客は二人のようだ。

「久しぶりじゃの文弥、風河」

「ご無沙汰してます島崎先生」

「二人とも久しぶりだな」

「桜澄……お前本当に無事だったんだな。良かった」

「桜澄君久しぶり。いや〜本当心配してたよ」

「すまなかったな。心配をかけた」


「無事で良かったよ~。あ、その子たちが手紙に書いてた子たちだね。こんにちは。僕は望月文弥もちづきふみやといいます。島崎先生の弟子だから君たちの兄弟子になります。よろしくね」

「同じく、早乙女風河さおとめふうがだ。よろしく」

「よろしくお願いします」


 望月さんはニコニコしている。

早乙女さんはマスクをしているが、この人は……どこかで見かけたことがあるのか、何だか見覚えがある。


「僕、早乙女さんのことどこかで見かけたことがある気がします」

「風河はテレビとか出とるからの」

「え! 芸能人の方なんですか?」

「格闘技をやっている」

「風河君有名なんだけどなー。普段あんまりテレビとか見ない感じ?」

「すみません。うちテレビが無くて」


「早速で悪いが、頼めるかの?」

「はい。やりますかね」

「師匠、俺はあんまり良く分かっていないんだが、今日は何で二人を呼んだんだ?」

「けいと恭介の勉強のためじゃ。二人とお前が戦うのを見学させるんじゃよ。なにも本気でやる必要はない。軽くやれ」

「なるほどな。わかった」



 それから外に出て先生と二人の勝負を見学することになった。

ただ向かい合っているだけなのに圧がある。

三人の間には重たい緊張感が走っていた。


 勝負は軽く手合わせをした程度だったが、先生は僕たちを相手する時の軽くあしらう感じではなく、ちゃんと戦っていたように見えた。


多分、この二人は僕やけいより強い。

この手合わせはすごく勉強になった。

「すごかったです。いつもより先生の余裕がないように見えました」

「……そうか」

早乙女さんはあまり笑顔を見せないのだろうか。

先生もそんな感じだが、少し違う気がする。

先生より暗い、影のある表情に見えた。

それに手合わせの時も今もずっとマスクをしている。

有名人だから顔を隠しているのだろうか。


「それじゃ。またね恭介君、けい君」

「はい。また」

「今日はありがとうございました」

とても良い経験だった。

今度は直接手合わせ願おう。


 次の日、早乙女さんが一人で訪ねてきた。

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