話を書く話

 お菓子を食べながら談笑していると、桜が何かを見つけた。

「あの絵は何ですか?」

「あ〜前に日向にもらった絵だよ」

「へぇー。上手ですね!」

「そ、そうか? 私の絵を褒めてくれる人は久しぶりやなー。嬉しい」


「えー。上手じゃないですか〜」

「うーん。独創的すぎてよく分からん」

「あ、そうや! みんなも何か作ってよ! いっつも評価される側やからたまには評価する側になりたい!」

「おー。面白そう。何すればいいの?」

「うーん。じゃー物語書いてよ!」


「物語?」

「ちょっと待てい。私の辞書に、文字はない!!」

「語彙力がないってそんな言い換えがあるのか」

「えーでも〜私理系だし〜ちょっと厳しいっかんじ? みたいな?」

「エセ女子高生やめろ」

「ん? あーそういうことか! はいはいそっか私今十七歳だもんな。あーね」


「ん? どうした?」

「つまりこの話は私が書いてましたってオチなんでしょ?」

「ん? どゆこと?」

「いやだからタイトル回収でしょ?」

「え? 何を言ってるんですか?」

「あれ? 違うの?」


「え? 何を言ってるんですか?」

「あっ違うんだ。ごめん何でもない」

「え? 何を言ってるんですか?」

「私が悪かったからそれやめて」


こうして僕たちは話を書くことになった。

しかもそれを日向に評価されるのか。

これは少し気恥ずかしいかもしれない。

僕は何を書くか悩んだ。

物語なんて書いたことないしな。


色々考えている内に秘密基地のことを思い出した。

「けい、明日秘密基地行こーよ」

「え! 何ですか秘密基地って!」

「昔、僕とけいで作ったやつだよ。この前見てきたらボロボ口だったから直しに行こうと思って」


「へぇー! 何か面白そうですね! 私も行っていいですか?」

「うーん。いいよ」

「私も行きたい!」

「私も~」

「二人とも何回か見せたことあったっけ。じゃあみんなで行こう」

「そうだなー」



 次の日、僕たち五人は秘密基地の前にいた。

「え……何か思ってたのと違いました」

「どんなのだと思ってたのさ」

「いや、もっと子供らしい感じの、看板にひらがなでひみつきちって書いてあるような、可愛らしいのを想像してました」

「子供が作った可愛らしい秘密基地だろ」


「いや! ガチじゃないですか! 何これ!? どうやって作ったの?」

「山で拾ったゴミとか集めて」

「ランタンが落ちてたんですか!? じゃあこのツリーハウスみたいなのは?」

「気合で作った」

「作れるか!」


「まーちょっと器用なんだよ」

「もうわけわかんないですよあなた達」

「んなこたいいからとにかく直すぞ。雨漏りとかしてるし結構大変だぞこれ」

「え、そのノコギリは……」

「拾った」

「こわ!」


「良かったな本とか置きっぱにしてなくて」

「そーだなー」

「あ! この木刀ここに置いてたのかー。失くしたと思ってたわー」

「あーそれけいのお気に入りか。訓練で使ってたらすぐ折れるからここに置いといたんだろうな」


「訓練ってなんですか?」

「先生に追いかけ回されたり、先生に物をぶん投げられてそれを避けたり、先生にボコボコにされたりすること」


「あー昨日やってたあれって喧嘩じゃなかったんですね。二人がかりで桜澄さんに木刀で殴りかかってたからビックリしましたよ」

「たはは」

「何ですかそのリアクション。まーでもあんなこと普段からやってたらそりゃ日常的に医療キット持ち歩くくらいしますよね」

「あー桜ちゃんの怪我を恭介が手当てしたんでしょ? いいね〜ロマンティックな出会いだね~」


「トイレに行こうとして遭遇したんだけどな。手当てしてる時も送ってる時もずっとトイレ行きたかったし」

「そうだったんですか!? 言ってくださいよ」

「たはは」

「それやめんかい」



 それから二時間くらい色々していい感じになった。

「うん。いんじゃね?」

「そうだね。また今度あれしようよ。釣竿まだ使えそうだし」

「釣りですか?」

「うん。そこの川で魚釣って塩焼きにして食べるの」


「なんか本当すごいですね。何でもできるじゃないですか」

「ずっと山に住んでたらみんなこうなるんじゃない?」

「私の家は海の近くですからねー。こういうのは新鮮で楽しいです」


「……ちょっと待て。ここに作るのはどうだろうか? 良くないかいけい」

「ないかいけいってリズム良く言われても。何のこと? いやあれか。ハンモック」

「そう! ここに作ってはいけないかい?」

「良いと思う。いいなそれ。すごくいい」

「よっしゃあ!」


こうして僕たちは秘密基地を改良していくことにした。

なんだか懐かしい。

この秘密基地を作ろうってなった時、けいと色々アイデアを出し合っていた。


……そういえばその頃にはまだ見えていた。

いつの間にか見えなくなっていて今の今まで忘れていた。


いや、違うな。

いつの間にかじゃない。

何か決定的な出来事があったような気がする。


そうだ。

このことについて書いてみるか。

書いている内に思い出せるかもしれない。

僕は自分の昔話を書くことにしよう。



 それからしばらくしてついに日向に評価される日がやってきた。

「桜ちゃんも書けば良かったのにー」

「私は根っからの審査員体質なんですよ」

「まー、よく分からんけど。っていうかみんな見るのね」

「わしらにも見せてくれよ〜」

「まーいいけども。んじゃ誰のから?」


「えーっとじゃあ天姉のから!」

「私からかー。はいどうぞ」

「はいどうも。では読みます。何の話書いたの?」

「私たちの話だよー」

「まだタイトル回収とか言ってるの?」

「ちがう。まーとりあえず読んでみて」



 私の名前は白石天音。

今、私と二人の弟は口論の真っ最中だ。

「だから!! 何でお前はそうやってネガティブなことばっかり言うんだよ!」


この子は恭介。

いつも暗いことばかり言う私に対して腹を立てている。

「うるさい。落ち着け恭介」


こっちはけい。

私に似て死んだような目をしているが、争いは嫌いなようで恭介が私に怒って、けいが恭介を宥めるのがいつもの流れだ。


「なんでこんな奴らと暮らさなきゃいけないんだ! クソッ! あいつのせいだ!」

「あの人に誘拐される前の方が良かったのか?」

「っ。何なんだよクソが!」

「どんだけ嫌でもあの人の方が圧倒的に強い。言うこと聞きたくないならあの人より強くならないとな」


「あんな化物に勝てるわけねーだろ! ふざけんな!」

「僕に当たられてもな」

「もうどうでもいいよ。どうせ私達なんて」

「お前それをやめろって言ってるだろ!! 次やったら殴るぞ!」

「落ち着けって」


「三人ともご飯ですよ。……リビングで一緒には……食べないですよね。持って来ます」

「ああ。悪いね結輝さん」

「……あの! 桜澄さんは! ……いえ、やっぱり何でもないです」


この市川結輝さんは私たちのお世話をしてくれていてお目付け役みたいな人だ。

「……恭介って結輝さんに対してはそんなに反抗とかしないよね」

「あの人は悪い人には見えない」


「小野寺さんも僕には悪い人には見えないけどな」

「でもあいつのせいで!」

「あーごめん。今のは僕が悪かった。あんたは小野寺さんとか結輝さんとかどう思ってるの?」

「……」

「だんまりか。まーいいけど」


コンコンコンとノックの音がした。

「どーぞ」

「邪魔するぞ」

と言って小野寺さんが入ってきた。


「な、なんでお前が来るんだよ! 入ってくるな!」

「悪いな。話があるんだ。天音。お前全然食べてないだろ」

「……」

「……あのな。当たりのことだがずっと何も食べなければ死ぬぞ」

「……もうどうでもいいよ。私は妹を守れなかった。目の前で死んでいくお母さんに何もできなかった。私なんて幸せになる権利も生きている資格もないんだ」

「お前は自分が特別な人間だと思ってるんだな」


「……え?」

「世の中にはたくさんの人がいる。俺は会ったことがないが、たくさんの人の中には幸せになる権利や生きている資格がないような特別な人間もいるかもしれない。だがお前は特別な人間じゃない。普通の人間だ。確かに普通ではない事情がある。でもその程度だ。それは普通の人間から逸脱する程のものじゃない」


「……」

「普通の人間であるお前が幸せになってはいけない道理はないし、生きてはいけないわけがない」

私は今まで普通の人を見たら凹んでいた。

自分が惨めになるからだ。

でも……そうか。

私もその普通の人間なのか。


「……私は、幸せになりたいと願っても、生きていてもいいんですか?」

「いいっつってんだろ。話を聞けよ。飯抜きにするぞコラ」

「や、やめてくださいよ! ……あ」

「ハハ。じゃあいっぱい食べろよ。邪魔したな」


「……どうだよ恭介。あれが悪い人に見えるか?」

「……ちっ」

「ハハ。まだ認められないか。お前が丸くなったら僕も楽なんだけどなー」



 日向が読み終えたところで天姉が僕に向かって謎にドヤ顔してきた。

「え、僕こんなにやさぐれてたっけ?」

「ヤバかったよ。マジ宥めるの大変だったもん」

「え、わしの出番は?」

「あ、ごめん」


「私もおらんなー。いやそんなことよりやっぱり桜澄さん変わらんなー。私桜澄さんのこういうとこ好きや」

「私も大好きです」

「わしも」

「僕たちもだね」

「だな」

「俺もお前たちの素直なところは好きだ」

「何ですかこれ。みんな仲良しですねー」


「それで? 評価は?」

「みんなのを読んでから判断する。さてお次は、恭介だ!」

「うわ僕か。僕もノンフィクションなんだよねー」

「私たちの昔話?」

「いや、僕たちってより僕の話だけど」



 僕は佐々木恭介だ。

僕には昔、友達がいた。

その友達は他の人には見えないようで、今は僕にも見えなくなってしまった。


所謂イマジナリーフレンドってやつなんだろうか。

もしかしたら防衛機制で幻覚が見えていただけなのかもしれないが。


僕にはいつも狐が見えていた。

その狐はただそこにいるだけだった。

僕が殴られていても蹴られていても、ただじっとこちらを見つめていた。


先生に連れられてこの家に来てからも狐は見えていた。

僕は何度も狐に話しかけたが見つめてくるだけで何も言わない。


僕はこの狐をりんと呼んでいた。

凛としてるからだ。

他の人に見えないことは分かっていたので、人がいるところで話しかけたりはしなかったが、誰もいない時には愚痴ったり、楽しかったことを聞かせたりしていた。


僕のことを肯定も否定もせずにただ話を聞いてくれるりんの存在は僕の心を落ち着かせてくれた。



 ある日、りんが動いた。

部屋をゆっくり歩いていた。

こんなことは初めてだった。

いつもいつの間にかそこにいて、じっとしていたのに。

僕は嬉しくてりんに話しかけたが何も言わない。


突然、りんが走り出した。

部屋から出て、どうやら外に向かっているようだ。

「待って!」

僕も走って追いかけた。


外に出てからもりんは走り続け山の奥へ奥へと進んでいく。

時々こちらに振り返り、ついて来ているか確認しているようだ。


りんは小さな祠の前で立ち止まった。

僕が追いつき、息を整えていると、すーっと、りんは消えた。

祠に近づいて見てみると狐の像があって、狐の像の足元には胡蝶蘭の花が添えてあった。



 その日から毎日、祠に手を合わせに行った。

この狐の像がもしりんなら今までの感謝を伝えたいと思った。



 ある日、いつものように祠に手を合わせていると突然

「こんにちは」

と話しかけられた。

驚いて振り返ると、そこには狐のお面をつけた子がいた。

僕と同じくらいの年だろうか。

顔は見えないのにニコニコしているのが分かる。


「こんにちは恭介。りんだよ」

またまた驚いた。

この子は今、自分のことをりんと言ったし、僕の名前も知っていた。

「き、君はりんなの?」

りんは頷いた。


「恭介が毎日手を合わせてくれるからこの山の神様が信仰を取り戻して少しなら私も人に化けたりできるようになったんだ。ありがとう。恭介のおかげだよ」

「え? ど、どういうこと?」


「とりあえず! 私たちはあなたに感謝してるの! それで私たちの住処にご招待することになりました! イェーイ!」

何が何だか分からずオロオロしてると

「あ、あれ? あんまり嬉しくない?」

と不安そうにりんが聞いてきた。


「な、何だかよく分かんないけど行ってみたい!」

「やった! よし。じゃあ、そこの狐の像に触れて目を閉じて」

言われた通りにするとなんだか宙に浮いたような感覚になった。

「まだ目を開けないでね。もう少しだよ。……よし着いた! 目を開けていいよ」


目を開けると先程と同じ風景が目にはいった。

「え? 何も変わってないよ?」

「あれ? あ、まだ渡してなかったね。これつけて」

りんは懐から狐のお面を取り出して僕にくれた。

「これをつけたら恭介にも見えるはずだから」


「……何、これ。石段が……」

「お、ちゃんと見えてるね。この石段を登ったら私たちの住処に行けるよ。あ、真ん中は歩いちゃダメだよ。とおりゃんせとおりゃんせっつってね」

「わ、わかった。それより……おしゃべりなんだね。狐の姿のときは何も言わなかったのに」


「何もできなかったんだよ。この山の信仰はそれだけ失われている。今は恭介のおかげっていうのとまぁ……ラストラリーみたいなもんだよ」

「らすとらりー?」


「気にしなくていいよ。それよりそろそろ見えてきたね。あの神社が私たちの住処だよ!」

上を見ると荘厳な鳥居の奥に美しい神社があった。

普通狛犬がいる位置に狐がいる。


「そういえばさっきまで昼だったはずなのに、いつの間に夕方になったの?」

「ここはずっと夕方なんだ。あと時間の流れが現世と違う。でも浦島さんにみたいにはならないから安心してね。こっちで三日経てば現世で一日経つ、みたいな感じだよ」



 それから手を洗ったり、ポケットになぜか入っていた小銭を賽銭箱に入れたりと普通に神社でやるようなことをした。


「おー子狐。戻ったか」

神社の中から声が聞こえてきた。

「はーい! 恭介、今から会うのがこの山の神様だよ」

山の神様は大きく、美しい毛並みの白い狐だった。


「よく来たね。人の子よ、お前のおかげで私たちは少しではあるが力を取り戻せた。ありがとう」

「え、いや。僕は何も……」

「フフ。まぁ良い。礼をさせてくれ。といっても大したことはできんがの。食事を振る舞おう。安心しろ。黄泉戸喫などにはならんよ。ちゃんと帰らせてやる」


それから色々な食事が持ってこられた。

食べている間、人に化ける様を見せてもらったり、狐の嫁入りの話を聞かせてもらったりして楽しかった。

「あーおいしかったし楽しかったー」

「そうかそうか。それは良かった。では名残惜しいが、子狐よ。家に帰してやれ」


「はい。じゃあ恭介。帰ろうか」

「……もっとここにいちゃダメ?」

「お前には帰るべきところがあるだろう? 寂しいがお別れじゃ」

「そっか。……またね!」

「……気をつけて帰れよ。お前と会えて良かった」



 石段を降りている途中で言い忘れていたことを思い出した。

「りん。言ってなかったけど、狐の姿のとき、僕の傍にいてくれてありがとう」

「……うん」

「ど、どうしたの? 元気ないね」


「……実はね。私たちそろそろ消えちゃうんだ」

「……え?」

「この山はあまりにも信仰を失いすぎた。もう私たちが存在し続けることは難しいんだ」

「そ、そんなの嫌だよ!」

「しょうがないんだよ。これも運命。最後に恭介と会えて良かったよ」

「そんな……」

「……じゃあ……元気でね」

「待って!」


その時、つけていた狐のお面が消え、気づけばあの祠の前にいた。

僕は……何もかも忘れていた。

石段のことも神社のことも、どうして自分が今祠の前にいるのかも。


ふいに気配を感じ、振り返った。

狐のお面の子が笑っているような気がした。



 読み終えた日向がこっちを向いた。

「なんでこんなことあったのに今まで黙ってたん?」

「いや忘れてたんだってば。書いてる内になぜかどんどん思い出してきてさ」

「はー。この山にはお稲荷様がいたんだなー」


「思い出してみても夢なのか現実なのか分かんないんだけどな」

「そういや昔、恭介が部屋で一人ブツブツ言ってたの見たことある気がする」


「え? わしの出番は?」

「ごめんげんじー」

「なるほどなー。うーん。そうやなー。個人的には好きな話やな」

「日向動物好きだもんな」


「よし。じゃあ最後! けい!」

「ほいよ」

「どんな話なの?」

「ファンタジー?」

「なんで聞いてくるの?」

「いやなんかもうよく分からん」

「とりあえず読んでみるか」



 遥か昔、神が世界を作り、生き物が誕生した。

生き物は増え、世界は生き物で満ちた。

神はそんな様子を眺めていた。


そうしているうちに神はやがて頭を悩ませることになる。

人間という種が圧倒的に激増したことで世界のバランスが崩れたのだ。

神は世界に自ら介入することを好まないが、やむを得ず世界に調整を加えることにした。


魔族の誕生だ。

魔族は次々に人間の国を滅ぼしていった。

しばらくして、人間は魔族を真似て魔法を使うようになる。

これにより、魔族優勢ではあるが、ある程度バランスのとれた状態になった。

神は満足し、また世界を眺めることにした。


ところが数年前、また神は頭を悩ませていた。

小野寺桜澄の存在だ。


彼は人間として辿り着いてはならない程の高みに上り詰めてしまった。

たった一人で人類を圧倒的に優勢にしてしまったのだ。

大きくバランスが崩れた世界に神はまた手を加えることにした。


そうして世界に魔王が誕生した。

魔王の誕生は魔族全体の強化を生んだ。

人類と魔族の総合的な力は同じくらいになったが、人類は小野寺桜澄がいるから総合力で負けていないだけだ。

小野寺桜澄は一人しかいない。

全体的に強くなった魔族は同時多発的に人間の国を襲った。

それを彼一人で対処することなどできるわけもなく人類は大きく数を減らした。


その責任は小野寺桜澄に向けられた。

「お前のせいで魔王が生まれたんだ!」

それまで英雄として崇められていた生活から一変。

町を歩けば石を投げられ、水をかけられる。

彼は人類に失望し、戦うことをやめた。


 そうして過ごしていたある日、彼の家族が魔族に殺された。

深い絶望に打ちひしがれる暇もなく、友人が攫われた。

これはこの国の偉い人からの命令で、彼を戦わせるために人質をとろうとしたのだ。

友人は激しく抵抗し続け、おとなしくさせるために脅しで兵士が放った魔法が誤って当たってしまい死んだ。

彼は怒り狂いその国を滅ぼした。

それから彼は、人類とも魔族とも敵対した。


世界は人類対魔族対小野寺桜澄という三つ巴の戦いとなった。


 人類は魔王と交渉を試みることにした。

小野寺桜澄に勝つには人類と魔族が手を組むしかないと考えたからだ。

そして魔王の元に、魔族を殺さずにたどり着くことができるような強者、勇者が選ばれた。

大軍で魔族を殺しながら魔王までたどり着いても交渉に応じてくれないだろうという考えからだ。


生き残っている国のうち、代表の大国からそれぞれ一人ずつ、計四人の勇者が選ばれた。

彼らは合流した後、魔王がいる城に行くことになっている。

今日はこの国の勇者の旅立ちの日だ。


 「おっちゃん。お茶」

「マスターって言えっつってんだろクソガキ。大体なんでバーでお茶出さねーといけねーんだ。ふざけんな。……まぁ今日くらいいいか」

「お、マジで?」

「……お待たせしました。こちらロックの水割りです」

「お前京都人かよ。バーで氷水出すのもふざけてんだろ。帰ってほしいなら帰れって言えや」

「帰れ」

「本当に言うなよ」

「お会計、一億です」

「……単位は?」

「ジンバブエドル」

「なんでだよ……。いやまータダなら遠慮なくいただくけど」


「なんでこんなガキが勇者なのかねー」

「こんなガキより強いやつがいないからだろ。まぁそれでなくても先生を止めるなら僕たちしかいないと思うけど」


小野寺桜澄は僕たちの先生だ。

選ばれた四人の勇者は全員先生の教え子だ。

先生が滅ぼした国の孤児院で僕たちは育った。

そこで先生に鍛えられ、国が滅びた後なんとか生き残った僕たちはそれぞれ別々の国に身を寄せた。


「じゃあなおっちゃん。達者でな」

「……気をつけていってこいよ」

この国の人達にはずいぶん世話になった。

その後も顔なじみに挨拶してまわった。

そして最後は先生の師匠だ。


「お? けいか? よくきたの〜こんな辛気くせー牢屋まで」

先生の師匠、げんじーは先生を強くしたことで魔王を誕生させたとして囚われている。

「今日出発するよ」

「あーそうか。ハハハ。気をつけて行ってこいよ。桜澄に会ったらよろしくな」

「会ったら殺されるってば。んじゃまぁ。いってきます」

「いってらっしゃい」


げんじーを解放するためにも早く先生を止めないと。



 ……え?

日向が唖然としてる。

「は!? ここで終わり!?」

「うん。力尽きた」

「プロローグで終わってんじゃねーよ!」

「ちなみに魔王はゆずで、ラストはげんじーも脱獄して六人でなんとか先生を倒す」

「そこまで考えてんなら書けや!」

「いやもう疲れたんだって。それぞれで脳内補完しといて」

「えー」


「俺、ちょっと強く書かれすぎじゃないか?」

「いやーこんなもんでしょ」

「だな」

「いや悪い気はしないが。こんなに強くないと思うが」

「まーそれはさておき。けっかはっぴょー!!」

「うお声デカ! 後半の伸びがすごいな」

「けっかはっぴょぉぉうぅぅ!!!」

「いやもういいって」


「第三位からいきます! 第三位は、けい!」

「まー話が途中だししょうがないでしょうね」

「そうだよ! まぁでも長くなりそうだったし仕方ないか。とりあえず次、一位です! 第一位は……恭介!」

「おーマジか! 嬉しい」

「個人的な理由で申し訳ないけどやっぱ動物の話は私好きなんよねー」

「あーそういえばその祠ってどこにあるの?」

「無くなってた。あの日の次の日に気になって見に行ったんだけど祠が無くなってて、結局文字に起こすまでなんであの場所にいたのか忘れてた」

「なんだか不思議な話ですね」


「あーでもその後、なんか自分にとって大切な存在が消えてしまったような感覚だけは残ってて、石ころとかを並べてお墓みたいなのを作ったんだよね。それで毎日そこまで走って行って手を合わせているうちに走るのが好きになったんだよね」

「へぇそうだったんだ」

「今度みんなで手を合わせに行くか」

「そうですね」


こうして日向の思いつきで始まった僕たちが話を書くという話は幕を閉じた。

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