第3話 シュッツグル星

BFK639星域 ブリクキア恒星群の12X66Y8L宙位でエデンの星間航行器シナイver.12.7が緊急停止して10分ぐらいだろうか。


シナイの器内ではまだ第3種知性体シュッツグル星人のクミン指導者の演説で盛り上がっていた。


翻訳機の調整が出来ていないのにいきなりやらかしたせいなんだろうと思うけど斬新だった。


感情を完全に抑制出来るはずの歌い手のリアリエがわくわくして今の演説を色々な声で再現している。

「あの声、あのメロディ神ってたわ。」


「あのぴょんぴょんと跳ねる踊り、めちゃめちゃ可愛いかった。」


ユキル達もキャプチャーを繰り返し再生している。


「この器はシュッツグル星に誘導されています。」


「182秒後には重力圏に入ります。」


「周回軌道で待機するようにコントロールされています。」


航行器のナビコがアナウンスする。


「今のところコントロールの介入の解除は出来ていません。」


「いいんじゃないかな、あの指導者の星がどんなところなのか楽しみだし。」


ポリツが言う


「ねえ、シン首長いいでしょう。」


トリトスまで乗り気だ。


「大丈夫、見に行こう。」


ラドがシンの顔を見上げて言う。


まあ、ラドが言うんだからいいかな。


楽曲の配信グループ〈アポカリプス〉は元々は個々で活動していたのだけれどサロンで知り合って一緒になった。


〈テオテニー化され、アーフが普及して学校も会社も意味を失ったペコ人に向けて星間通商連合新規事業部開拓課は惑星ペコ(後のエデン)開発事業団を設立してサロンの運営を開始した。

サロンはペコ人の過去の歴史の中で文化を興隆させたことがあるのでそれっぽいことをやってみることになった。〉


各メンバーは一応担当している分野が特に得意というだけでワンオペで全部作り上げるスキルを持っている。


ところがシナイはシュッツグル星の周回軌道に乗ったままで降下しようとしない。


今は器の天井を惑星に向けて全天透過ウィンドウにしている。


シュッツグル星に大陸は見当たらない。


青い海に小さな島が点在している。


ただし軌道上には大陸に相当する様な宇宙都市がいくつもある。


スペースコロニーの様なものだろうか。


ナビコがアナウンスを始める。


「現在はこの器を検疫しているところだそうだ。」


アーフがシュッツグル星についてコスモエンサイクロペディアを検索する。


「この惑星では住民は全て周回軌道上にあるコロニーに住んでいて惑星上には環境管理者か旅行者ぐらいしかいない様です。」


10万年程前に発達したテクノロジーの暴走でこの惑星にあった大陸は全て失われた。


その後残った者達が再度文明を興隆させた際に激しく環境を汚染したために再び滅亡の淵にたった。


住民は完全に地上から離れて暮らし惑星の環境を改善保護することを選択したらしい。


かなり多くの種族が一度はこの選択を迫られるようだ。


今のテクノロジーなら惑星環境を損なわずに暮らす事も出来るはずなのだが今更重力に囚われた生活に戻る事は出来なくなってしまった。


コロニーの一つが着器のためのゲートを開いた。




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