聖女様の友人達 前編
次の日の昼休み、俺は学校の中庭にいた。ここは辺りに生えている木や草花が壁になってくれて道行く他の生徒たちからは見えづらい。だからこそ九条さんはここを選んだのだろう。
付け加えるとそこにいるのは俺と九条さんの2人だけではなかった。俺の友人である茂雄、そして九条さんと仲の良い茶髪ショートカットの女の子と黒髪ツインテの女の子の計5名がいた。いずれも俺と九条さんの仲を知る者たちだ。
何故俺たちがこんなところに集まっているのかというと…九条さんのとある提案のためである。
立案者である九条さんは「パンッ」と手を合わせると、みんなの視線を自分の方に誘導した。
「はい、皆今日は集まってくれてありがとう。今日皆に集まって貰ったのは私の彼氏である極道君が悪い人じゃないって分かって貰うためなの」
九条さんの提案の内容…それは「周りの人たちにも俺の内面を理解して貰おう」という事で、まず手始めに九条さんと仲の良い2人に俺の内面を知って貰おうとこの集会を企画したらしい。
まずは「
本当に…彼女にはここまでやって貰って頭が上がらない。どれくらい感謝すれば恩を返しきれるのだろう。…例え一生かかっても返す気でいるけれども。
「ほらほら極道君、2人に挨拶して。大丈夫! この2人は絶対にあなたの事を分かってくれるから」
九条さんが俺の背中を押しながら笑顔でそうせかす。
そうだよな。せっかく九条さんに機会を作って貰ったのだから、いつまでも感傷に浸ってないでこの機会を生かさないといけない。
俺は友人2人の前に立つと彼女たちに向かって話し始めた。
「えっと…九条さんとお付き合いさせてもらっている極道善人です。俺…顔が怖いせいでよく勘違いされるんだけど、色々噂されているみたいに人殺しとかヤクとかやってないから! だから…俺と普通に接してくれると嬉しい…かな」
俺は相手に怖い印象を与えないようにこやかに笑いながら必死で自分は悪人ではないとアピールした。
2人は俺にどう接そうか迷っていたようだったが、まず左側にいた茶髪ショートカットの娘が口を開いた。
「う、うん…。あたしも天子から極道君の話は聞いてて…それで噂されているみたいに悪い人ではないと心の中では分かっているんだけど…。ごめんなさい、やっぱり顔が怖くてまだ慣れないの。だから…慣れるまで時間をくれないかな? あっ、あたしの名前知ってる?
近衛さんは自分の顔の前で両手をパチンと合わせて謝罪してきた。彼女は九条さんから俺の内面について聞いてはいるものの、やはり俺の顔が怖いせいでまだ受け入れるのに時間がかかるようだった。
「いやいや、近衛さんが謝る必要はないよ。ごめんな、こんな怖い顔で…」
俺は自分の顔が怖い事を謝罪した。この顔のせいで俺がどれだけ苦労してきた事か…。父ちゃんも母ちゃんも別に怖い顔ではないのにどうして俺だけこんな顔に生まれたのか甚だ疑問である。
「プッ…何それ? 顔が怖いのは別に極道君のせいじゃないでしょ? それはあなたが謝る事では無いと思うよ。極道君って意外と天然?」
彼女は俺が自分の顔の件で謝罪したのが少しおかしかったらしく、それまでの緊張していた表情が少しだけ緩んだ。俺たちの間にそれまで流れていた空気とは異なるなごやかな空気が流れ始める。
少しだが…俺を受け入れてくれたという事だろうか?
次に俺は黒髪ツインテールの娘の方を向いた。
彼女は確か…変態の三橋から九条さんのハンカチを取り返した時にその光景を目撃していて、それを九条さんに報告してくれた娘だよな?
「…
「み、みーちゃん?」
いきなりニックネームで呼べと言われて俺は困惑した。…この娘は今までの人生で俺が接した事のないタイプだ。
「(みーちゃんは親しい相手や仲良くしたい相手にはそう呼べって言うの)」
九条さんが俺にそっと耳打ちしてくる。
「…よろしい。天ちゃんがごくどーの事を好きだと聞いてから、ごくどーの事は少し調べさせてもらった。申し訳ないけど大切な友達を守るため、許して欲しい」
俺は彼女の言葉を固唾を飲みながら聞いた。
俺の事を調べていた…か。そりゃ自分の大切な友達がこんな悪人面の事が好きだと言えば誰でもそうするか。あっ…だから俺が三橋からハンカチを取り返した時にあそこにいたのか。
「…ごくどーの事情はわたし独自のリサーチや天ちゃんから聞いた話でおおむね理解している。そしてリサーチの結果…わたしは2人の仲を応援する事にした。2人はお似合い。ごくどーの内面は今までの行動を見ていてよく分かった」
みーちゃんはそう言って「フッ」とほほ笑んだ。えっと…彼女は俺の事を受け入れてくれたという事でいいんだよな?
「…あ、ありがとう。みーちゃん」
「…ん、あなたの努力の結果。これ、わたしのメッセージアプリのID。何か困った事があったら連絡して。これから友達として仲良くしよう。…一応念のため言っておくけど、天ちゃんを泣かせたら…分かってるよね?」
「あ、ああ。もちろんだ」
彼女は俺に圧を発しながらメモ用紙に書かれたメッセージアプリのIDを渡してきた。…いまいちキャラがよく分からん娘だが、どうやら俺の事を受け入れてくれたようだ。
これで九条さんの他にまた1人…俺の理解者が増えた。俺は思わず九条さんの方を見る。
「極道君が今まで頑張ったからだよ。ちゃんとあなたの内面を見てくれる人はいるんだよ♪」
「九条さん…」
九条さんが俺に優しく微笑んでくる。俺1人では絶対にここまでこぎつけられなかっただろう。
ここを、ここを足掛かりにして俺の内面を理解してくれる人を増やしていくんだ。彼女の期待を絶対に裏切ってはならない。
◇◇◇
ここからは主人公の内面を少しずつ周りの人に理解して貰う話になります。
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