あげたもの
「メメ。ご飯だよ」
「……」
「メメどうしたの?」
「……」
口を開いたけど、やっぱり出ない。
昨日、猫神様に会ったのは幻じゃなかったんだ。
よかった。
これで、誠一が助かるんだ。
「メメ……帰ってきたら病院行こうね」
「……」
大丈夫、大丈夫。
僕は、平気だから。
早く誠一の元に行きな!
沙羅ちゃんは、慌てて家を飛び出して行った。
沙羅ちゃんは、昔から僕の鳴き声やグルグル音が大好きだ。
それは、まるで穏やかなメロディを奏でているようだと沙羅ちゃんは喜んだ。
僕のグルグル音は、沙羅ちゃんの子守唄。
僕は、喉を触る。
見た目には、わからないけど。
猫神様が、喉を指差してもらって行くと言ったんだ。
だから、僕は鳴けなくなったし。
グルグルも言えなくなった。
「ただいま。メメ」
「……」
お帰り、沙羅ちゃん。
昨日とは違って、沙羅ちゃんの顔は晴れやかだ。
「再検査したらね。誠一さん、余命二ヶ月じゃなかったの。小さな癌でね。手術でよくなる大きさで、転移もないって」
「……」
よかったね。
沙羅ちゃん。
「じゃあ、メメ。病院に行こう」
沙羅ちゃんは、僕をベビーカーに乗せる。
いつも行ってる病院は、歩いて10分先にある。
僕は、そこの院長先生が大好きだ。
病院について、院長先生が診察を始める。
半年前に僕は健康診断を受けにきた。
だから、どこも悪い所なんてない。
「いつから、鳴かなくなったの?」
「今朝からです」
「ストレスが急にかかったのかな?調べてみようか」
「お願いします」
院長先生は、エコーや触診をしてきた。
「どこも変わった所はないね」
「でも、鳴かないんです」
「声は出そうとしてる感じ?」
「はい。いつものように出そうとしてます」
「そうか。ちょっと様子をみてみようか。一週間後も声が出なかったらまた連れてきてくれるかな?」
「わかりました」
一週間後も、声は出てないと思う。
だって、誠一が助かったんだから。
だから、声なんかなくたって大丈夫。
なくたって生きていけるよ。
帰宅すると沙羅ちゃんは、僕がどうして鳴けなくなったのかをインターネットで調べ始める。
そんなの調べたって意味ないよ!
だって、猫神様にあげたんだから。
沙羅ちゃんは、検索してはため息をついて……。
検索しては、ため息をついてを繰り返している。
沙羅ちゃん?
誠一が助かったんだよ。
だから、もう調べなくていいよ。
僕は、パソコンの上に乗った。
「あっ、メメ。駄目だよ」
沙羅ちゃんの手を叩く。
「調べるなって事?」
そうそう。
よくわかったね。
僕は、沙羅ちゃんに頭突きをした。
「痛いよ。メメ」
そうやって笑っててよ。
ずっと、ずっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます