第35話 ゼロノイドベイビー

レオノール国・教会

ハザルド・ハンキと火条アルテ、レイラ・レオノールによる会談が行われている。

アルテが口にした"火条"の名に目を見開いて「火条⁉︎」と驚くハザルド。

「我が帝国の帝王の名は火条ツカサ」

「か⋯⋯火条⋯⋯ツカサ⋯⋯なぜあの男が生きている」

顔に冷や汗を滲ませ、ハザルドの拳が小刻みに揺れる、動揺を隠しきれない。


***

教会の屋根の上

対峙するキャプテン・バロック、プリンセス・マジーネ=月代サヨと火条ツカサ、直江尊、天影台アカネ。

「そうだろ⋯⋯"火条ツカサ"博士」

「⁉︎」と、目を見開くツカサ。

「俺が⋯⋯」

「ハハハハッ」と高笑いをあげるキャプテン・バロック。

「ーーってわけでなく、お前は火条博士のクローンだ。本人であって本人ではない本人だ。火条博士は、数々の失敗から人間をゼロノイドに変えることをあきらめ、

細胞レベルから人間態ゼロノイドを作り出すことへ転換した。火条博士は、そうして40数体のゼロノイドベイビーを生み出すことに成功した。

その中に自らの細胞で作り出したクローンがいた。それがお前だ。博士は自らをゼロノイドへと進化させる夢をあきらめきれなかったんだ」

「(尊)ツカサがゼロノイドを生み出した天才科学者⋯⋯」

言葉を失い驚きの表情で固まるアカネとサヨ。

「やっぱりあの頃のツカサにそっくりだ」

キャプテン・バロックは付けていた銀色のフェイスマスクを外す。

彼の顔は額から右目にかけて大きなキズができている。

それでも分かる。彼は、写真で音白リイサ(おとしらりいさ)の隣に写っていた白衣の男性にそっくりだ。

キャプテン・バロックは、高校の教室で火条ツカサを囲んでリイサと3人で談笑していた頃の情景をフラッシュバックして「フッ」と、笑う。


***

ドルス国・市街地

大型交差点の前に建つビルの大型テレビにザドクルム・レオノール皇子と国際外務大臣ランザ・ハーキンが握手するニュース映像が映し出されている。


***

国際評議場・星帝執務室

星帝徳川イエミツに報告をする国際官房長官渡辺ノブサダ。

「ランザ・ハーキン外務大臣とレオス・アルベルト防衛大臣、それとグールド・グレモリー長官がそれぞれハイオネスク入りしたとのことです」

「なんだと! 勝手なマネを」

「ランザ大臣は、ハザルド氏と会うことで出身の経済団体に国際政府が連携するとアピールする狙いがあると思われます。レオス大臣も経済団体の幹部に会うと報告を受けています。

それにグールド長官に至っては、スメラギ国首相として友好国であるレオノール国に国王の弔問が目的だと訪問の申請が上がっています。如何致しましょう?」

「マサユキか⋯⋯」と、ため息を漏らすイエミツ。

「ノブサダ、始末を頼む」

「ハッ」と、一礼するノブサダ。


***

グルドラシル国・政府官邸

レオス・アルベルトはグルドラシル国首相のオルデオ・ミルトと握手をする。

「ひさしぶりだな。レオス」

「ようやくだな」

「グルドラシルを手に入れるのに随分と手こずらされた。これで経済団体⋯⋯」

「いや、我々ヘイムダルが世界を支配することができる」と、レオスは不敵な笑みを浮かべる。


***

レオノール国・教会の屋根の上

「リイサは?リイサは?音白リイサは何者なんだ⁉︎」と、涙を零して問いかけるアカネ。

「彼女も俺たちと同じ科学者だ。俺たち3人がゼロノイドを生み出す研究をはじめた。きっかけは簡単だ。はじまりの男ウルヴァだ」

「(ツカサ)おっさん?」

「(尊)"宇宙転換論"か!?」

「そうだ。20年前、人は悪魔と手を組んで神にケンカを挑んで勝った。人間同士の相互理解の壁を取り除いて国際評議会と国際政府ができた。そして、地球の支配者となった人間は、神々の排除を行うようになった。"抜神攘夷"それを快く思わなかった

ウルヴァは、自らが作った国際政府と距離を置き、真の平和は人、神、悪魔が理を超えたひとつの存在"ゼロノイド"に進化することだと提唱した。その考えに大きく影響されたのが俺たちってわけだ」

「(尊)ゼロノイドが平和のため?⋯⋯」

「存在が異なるから、争いが生まれる。だったら同じ存在になってしまえってことだ」

「(尊)だったらなぜ国際政府はゼロノイドの存在を危険視している」

「神に勝つことができたのは当時魔界を統べていた関白豊臣ヒデヨシ率いる悪魔勢力が人間側についてくれたのが大きい。大戦後、ヒデヨシは、ウルヴァの考えとは違って、ゼロノイドを軍事利用するため、ゼロノイド研究を推し進める政策を掲げた。

俺たちにレオノール国が研究所を提供してくれたのもヒデヨシの政策があったからだ。のちにヒデヨシは国際評議会と国際政府の主導権を握るため人間に反旗を翻んだが、まあいい、今は置いとこう。つまりゼロノイドは、人、神、悪魔を超えた最強の存在。

そんなものが生み出されれば我々旧人類は淘汰される」

「(尊)だから化け物と⋯⋯」

「(ツカサ)化け物⋯⋯俺が」

「火条博士は、そんな最強の生命体を生み出すことに夢中になった。そして俺たちは5年かけてゼロノイドベイビーを作った。火条博士は自身のクローン、つまりお前を器として記憶を移植するところまで研究が進んでいた。そんな時だ⋯⋯」


***

回想

研究所に武装した黒い特殊部隊が突入してくる。

特殊部隊の隊員たちはゼロノイドベイビーたちが入った円筒型の大きなガラスの容器=生命維持装置に向かって銃を乱射。破壊して周る。

逃げる研究員たち。

「はやく逃げるんだ!」と、若き日のキャプテン・バロックは、モニターに向かって作業を続けるリイサを引き剥がそうとする。

「離してッ! この子達を助けないと」

リイサは、バロックの手を払いのけ、生命維持装置のロックを解除、ゼロノイドベイビーたちを取り出す。

「あなたも急いで」

「わかった」

ゼロノイドベイビーたちを保護カプセルに入れ、トラックの荷台に詰め込むリイサとバロック。

「ツカサは?」

「まだクローンの保管室だ!」

「まさか記憶の移植を⁉︎ ツカサのところに急ぎましょう」


***

扉を開けて火条博士がいると思われる保管室に入るリイサとバロック。

そこには背中から血を流して倒れている火条博士の姿がある。

「ツカサッ!」と、駆け寄るリイサ。

だが、すでに彼は絶命している。

博士の頭には記憶を移植するヘルメット型の装置が装着されている。ヘルメット型の装置から生命維持装置に繋がるコードが途中で千切れている。

「記憶の移植には失敗したようだ」

「もう1人のツカサは? ツカサはどこ?」

リイサは破壊された生命維持装置の側に近づいていくと5歳くらいの体格をした子供が倒れているのを発見する。

「ツカサ!」と、抱き上げるリイサ。

「はやく逃げよう」

その時、"ドッカーン"と、保管室で爆発が起きる。

飛んできた瓦礫がバロックの顔に直撃して流血する。

「ウッ!」

煙の向こうから現れたのはクトゥルーと思われるモンスターたち。

「(キャプテン・バロック)リイサは人と悪魔の間にできた子だった。彼女がゼロノイド研究に共感したのは自分たち半魔のようなマイノリティたちが生きずらい世の中を変えるためだ」

リイサは、背中から黒い翼を生やして、翳した右手に魔法陣を展開。そこから出るビームでクトゥルーたちと戦う。


***

クトゥルーとの死闘の末、ツカサを抱えて研究所の外まで逃げ延びたバロックとリイサ。

リイサはその場に膝をついて倒れ込み、見る見るうちに体が縮んでいく。

「魔力を使い過ぎたリイサは子供の姿になってしまった⋯⋯」


***

「リイサは、クローンと他のゼロノイドベイビーたちを連れてスメラギ国に渡り、大学時代の恩師、天影台教授の庇護下で暮らしていた。俺は俺で見た通りアウトローな商売をしている」

「(アカネ)父を知っているのか⁉︎ 」

アカネはギュッと拳を握りしめる。

「そうか、あの日、木田たちに殺された同級生はみんな、レオノールから逃げてきたゼロノイドベイビーだったんだな⋯⋯」

「お父上には感謝している。ツカサの婚約者だから一緒にいたいと願うリイサの気持ちを汲んでくれた教授が、ゼロノイドベイビーが暮らす施設や学校を用意してくれた」

「なんで、リイサやあなたたちは襲われたんだ?」

「ゼロノイドベイビーと兵器の開発が完了したからだ。つまり用済みってわけだ。俺たち金食い虫が国を傾けさせたからなぁ。それに当時の国王にゼロノイドの体を手に入れれば若さと最強の肉体が

手に入ると間宮ヒトにそそのかされたんだ」

「(ツカサ)ニャルラトホテプか⁉︎」

「(アカネ)そいつ木田のときも!」

「(尊)安守さんのときもだ」

「間宮ヒトの狙いはゼロノイドの研究データだ。もちろんそのデータは俺が持っていて一部をスメラギ国との契約の条件として当時の華僑院総理に手渡した。それが手切れになったんで安守のところに回収にあがったってわけだ」

「(ツカサ)リイサは、いつも俺と一緒にいて口うるさいやつだなと思ってたけど、俺を⋯⋯」

ツカサは、5歳〜中学生まで、寝坊したときや宿題をサボった時にガミガミとリイサに注意されたことや、ケンカして怪我した時にリイサに手当てしてもらったこと、その時のリイサの心配する顔を走馬灯のように思い出す。

「(アカネ)そうだったのか⋯⋯だからリイサのときも2人の間に私が入る余地がなかったのか⋯⋯」

「俺が話したかった思い出話は以上だ。再会できて嬉しかったぜ火条博士」

キャプテン・バロックの端末にサスケから着信が入る。

「おっと。どうしたサスケ?」


***

採掘場

複数の重機が岩場を掘り起こしている。

「キャプテン、出てきましたぜ。扉だ」

岩場の間に巨大な石の扉が顔を出している。


***

「野暮用ができた、また今度会おう」と、キャプテン・バロックとサヨは隣の建物に飛び移って姿を消す。

「おい待てッ!」


***

路地裏を行くキャプテン・バロックとサヨ。

「(フェイスマスクを外しながら)プリンセス・マジーネはセンス無さすぎるわ」

「仕方ないだろ。思いつきだ」


***

教会

護衛から耳打ちをされるハザルド。

頷いて「わかった」とニヤリとする。

「話は終わりだ。やはりレオノールを任せられるのはラント様しかいないと確信した」

「待って! ハザルド」

「レイラ様、これがそなたとの今生の別れとなる。餞別に教えてやろうそなたの父は、はじまりの男"ウルヴァ"だ」

「⁉︎」と、口に手を当てアルテに衝撃が走る。

突然の父の名にほうけるレイラ。

「ミレイア様が残した手記だ。受け取りなさい。そこに父のことやそなたが生まれた時のことが記されている」

「ハザルド⋯⋯」

「禍根を残したままではすっきりしないからな」

ハザルドは護衛に「こいつらを殺せ」と、言い残して教会をあとにする。

護衛は抜刀して3人に近づいてくる。

柳生ロードも抜刀して護衛の前に立つ。

ハザルドの姿が見えなくなると、護衛は顔に巻いたターバンを解いて素顔を見せる。

護衛の正体は"柊紫月"

「あなた!」

「お前たちは行け! あの男には殺したと伝えておく」

ロードは頷き、レイラとアルテを連れ、走って教会の外へと逃げる。


***

「レイラお姉様は、息災でしたか?ハザルド」と、レント皇子がハザルドの前に姿を現わす。

「皇子⁉︎ なぜこのようなところにお一人で」

「お前が心配だからだ」

「滅相もございません。それより今はお父上様のお側に⋯⋯」

「父上との別れはすんだ。今やらなくてはいけないことはこの国の安泰だ。伯父上に臆することはない。バロックがおる」

「やはりあなたは聡明なお方だ。このハザルド決意いたしました」


***

採掘場

石でできた巨大な扉の前に立つ、キャプテン・バロックとサヨとサスケ。

「さぁ、とっととはじめるか」

サヨは右手に魔法陣を展開して巨大な扉に触れる。


***

ハルネオ・スタルクの屋敷

ザドクルム・レオノールは兵士や民衆を集めて決起する。

馬に跨りザドクルムは叫ぶ。

「これより王宮に向かう! ラント皇子は、もはや囚われの身も同然。王国を私物化する摂政ハザルドから国を取り戻す」

「オーッ!」と、拳を突き上げる兵士や民衆たち。その中にシェル・ルミナー、冠庭トオル、巻咲ミツハ、グラップ・ロッズナ、グランズ・ハルバンの姿もある。

「政府は腐敗し、権力を誇示するため、民の暮らしをないがしろにしてきた。そして苦しい生活を強いてきた」

「そうだッー!」

「我は帰ってきた! 今こそ解放を求め叫ぶぞ!出陣!」

ザドクルムを先頭に行軍が出発する。


***

採掘場

サヨは、触れた巨大な扉にエネルギーを注ぎ込む。

すると大地が大きく揺れ始める。


***

王都

突然の大きな揺れにパニックになるザドクルムの行軍。

「じ、地震⁉︎」

王宮から大きな物体が地中から顔を出して樹木のようにグングンと伸びていく。

きのこの傘のような物体には腕が生えて、青く丸い宝石のような鉱物が複数並んで付いている。

恐竜のような爬虫類種に似た頭部が顔を出して「グォオオオ!」と、雄叫び上げる。

中央にある青い鉱物の中にハザルドの姿が確認できる。

「私は決意した。"地球(ほし)の記憶"を守るためハイオネスクはレオノールによる統一が必要だ。ハイオネスクはラント様が支配しなくてはならない!」

青い鉱物からビームが放たれ王都の町が破壊されて行く。


***

採掘場

「(キャプテン・バロック)ついに目覚めたな地球の記憶の"門番"」


***

門番は雄叫びを上げて口から強大なビームを放つ。

ビームはまっすぐ伸びて100㎞以上離れたグルドラシルの首都にあるビル群を直撃。

多くの人々がビームの中に掻き消され、衝撃で弾かれた人々は、全身を捻られるようにして飛ばされていく。

官邸からその様子を見ていたレオスとオルデオは口を開けて驚いたまま固まってしまう。

門番は再び大きな口を開けて雄叫びを上げる。


つづく

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