第3章 大人編
第28話 新規参入
首都国ドルス領空
雲の上を飛行するレオノール王国政府専用機。
機内では、レオノール国皇女レイラ・レオノールが、窓外の景色とは対照的などんよりとした表情で、窓越しに
空の景色を見つめている。
同・コックピット
操縦するパイロットのこめかみに拳銃が突き付けられるーー
***
ドルス国際評議場 4F 国際軍ラドルフ大佐執務室
官僚らに制服を着せてもらい、その傍らにいる秘書から次の会議の要旨を聞かされているラドルフ大佐。
そこに陸軍大尉ハバード・ロイジャーが入って来る。
「ハバード⁉︎ お前、今まで何をしていたッ⁉︎ 彼の国で何があったッ!? 他の兵士たちはどうしたッ⁉︎」
「本日をもって軍を辞職したい」
「⁉︎」
ハバードは、胸元から取り出した封筒を執務机の上に置く。
***
ドルス国際評議場 4F 国際軍幹部会議室
中央に大きな円卓のテーブルが置かれ、照明も限られた薄暗い広間。
そこへ国際警察機構長官グールド・グレモリー、林田誠一郎と国際防衛大臣レオス・アルベルト、ヘイムダル社の幹部、
ラドルフ大佐ら防衛官僚達、そして国際政府官房長官渡辺ノブサダが入って来る。
「(グールド)状況の報告を!」
国際軍の官僚が答える。
「現在、滑走路に隊長機を含めたAGX−Ⅱ4機の配備が完了しています」
ドルス国際評議場の裏手にある滑走路にスライダー形態で並ぶ4機のAGX−Ⅱが巨大モニターに映し出される。
AGX−Ⅱは、左から白くカラーリングされた隊長機、ノーマルタイプ、ツヴァイキャノン、そして新型のツヴァイブレードで編成されている。
***
ノーマルタイプのコックピットで機器の確認をするパイロットの国際軍陸軍中尉 冠庭(かんば)トオル。
レバーやスイッチを入念にチェックしている。
「何コレー!」と女性隊員の突き刺さる声が無線から聞こえてくる。
驚くトオル。
「どうした? ミツハ」
ツヴァイキャノンの女性パイロットの国際軍陸軍少尉 巻咲ミツハは、コックピットの機器に戸惑っている。
「いつものメーカーと違うから勝手が分からない〜」
「そんなことか」
「何よ!重要なことよ」
「事前に説明書を確認しておけば造作もない」
「レバーの位置が違うのよッ!」
「国際軍の兵器の8割はヘイムダル社製だからなぁ」とツヴァイブレードのパイロットの国際軍陸軍少尉 グラップ・ロッズナは
冷静に分析する。恰幅のいいグラップにはコックピットは窮屈である。
「みなさーん、私語は謹んでくださーい」と、隊長機の女性パイロットで銀髪で幼い顔つきをした国際軍陸軍大尉 シェル・ルミナーが声を上げる。
***
同・国際軍幹部会議室
「(ノブサダ)これより、国際軍新型機動兵器ロボット導入選考一次試験を開始する」
***
「はい! シェル・ルミナー、AGX−Ⅱ隊長機発進します!」
滑走路を飛び立つAGX−Ⅱ隊長機。
「冠庭トオル! AGX−Ⅱ出る」
「巻咲ミツハ、AGX−Ⅱツヴァイキャノン行っくよー」
「グラップ・ロッズナAGX−Ⅱツヴァイブレード出ます!」
隊長機に続いて次々に滑走路から飛び立つAGX−Ⅱ。
***
同・国際軍幹部会議室
「(ノブサダ)今回、試験するのはスメラギ国の企業、桐川コーポレーション製のAGX−Ⅱです」
「(レオス)想定より大幅にコストが下げられている」
「(ラドルフ大佐)それでいて、導入すれば国際軍初となる可変型機。飛行は安定しているようですね」
ロボット形態に変形する隊長機の映像が映し出される。
「おー!」と、会議室から歓声が上がる。
「(ラドルフ大佐)変形もスムーズですな」
「(グールド)みなさんの感触は上場のようですね。ところで本日のテストパイロットはどのような方達で?」
「(レオス)もちろん、選りすぐりのパイロット達を用意しました。紹介してくれラドルフ大佐」
「(ラドルフ大佐)はい。先ず、冠庭中尉ですが、4年前の戦争で活躍した優秀な軍人です。現在は、経理課で事務の仕事をしていましたが、今回のために呼び戻しました。適任でしょう。
そして、巻咲少尉は、冠庭中尉とは同期で気心も知れていて、体調を理由に戦線から遠ざかっていましたが、同じく復帰させました。グラップ少尉についてはいろんな戦線で活躍し特選軍にも
所属しておりましたエリートです。人型機動兵器については、先月免許を取ったばかりです。最後に部隊を率います隊長は、先日昇進したばかりのシェル大尉になります。部隊を指揮するのが今回が初になります」
グールドは怪訝な表情を見せる。
「確かに適任だ」と、高笑いを上げるレオス。
「やはり新規参入には高い壁が存在しますね」と、林田は小声でグールドに言葉を溢す。
「なるほど。見事な人選ありがとうございます。ブランクがあってもすぐに戦線復帰できる。AGX−Ⅱの操作性の容易さをアピールできるいい機会になります」
「チッ」と、舌打ちをするレオス。
「(官僚)試験機、現場空域に到着致しました」
***
海に浮かぶ島が見えてくる。
「(トオル)現着した。変形する」
トオルがレバーを引くとAGX−Ⅱはロボット形態に姿を変える。
続けてツヴァイキャノンも、ミツハが悲鳴を上げながら変形。
ツヴァイブレードも変形する。
「(シェル)みなさん。ロボット形態になりましたね」
「(トオル)目標を捕捉する」
AGX−Ⅱのツインアイカメラが、島にいる牛のような頭部を持ち四足歩行する巨大な怪物の姿を捉える。
「(トオル)いたぞ!」
「(ミツハ)何アレー! 気持ち悪いー」
怪物の表皮は岩石のように硬く荒れていて、ひび割れている部分からは赤い溶岩のような熱源が見える。
***
ドルス国際評議場 4F 国際軍幹部会議室
「(ラドルフ大佐)今回、用意した目標物は、先月のフリーゲートブリッジ事件で鹵獲した大型クトゥルーです」
「(グールド)一次試験から実践⁉︎ それも編隊したばかりの部隊にやらせるのか?」
「(レオス)AGX−Ⅱは、競合のヘイムダルと違い、軍にも実績が無い。だから一次試験からこれくらいのことはしたい。データが欲しいんですよ。データが」
レオスの隣に座るヘイムダル社の幹部がニヤリと笑みを溢す。
***
「(トオル)何か作戦はないんですか?シェル隊長」
「えっ!え、え〜!」
「チッ、ミツハ! 肩の巨大なキャノン砲を奴の背中に撃ちまくれ」
「了解! ガラ空きよ!」
ツヴァイキャノンの砲撃を雨のように浴びせられるミノタウロスクトゥルー。
呻き声を上げて地面に俯す。
爆煙でミノタウロスクトゥルーの姿が見えなくなると、ミツハは「やった!」と喜ぶ。
その時、爆煙の中から複数の触手が飛び出して来てAGX−Ⅱに襲いかかる。
バスターライフルで触手を退ける隊長機とノーマル機。
「こうなれば、私が行きますッ!」とツヴァイブレードは両肩のアーマーからビームブレードを展開。
すり抜けるように触手の間を飛んで見せる。
ツヴァイブレードが通り抜けた途端、触手たちは次々に真っ二つに斬れる。
「(シェル)やったー! 冠庭君に任せる。私の作戦通りです」
「わ、私にこんな操縦が⋯⋯」
***
ドルス国際評議場 4F 国際軍幹部会議室
「(ラドルフ大佐)初心者とは思えん操縦だ⋯⋯」
「(グールド)AGX−Ⅱは操縦者のサポートとして、学習装置X(エクス)が搭載されています。桐川コーポレーションのテストパイロット(ラルフ)の戦いの記録が先ほどの動作に反映された。
この機体は長く乗れば乗るほど、操縦者と一緒に成長し進化する可能性を秘めた機体です」
「(ぐぬぬ)⋯⋯」と、なるレオス。
***
ミノタウロスクトゥルーは口を大きく開けて炎を噴き出す。
「(トオル)まだか」
ノーマル機はミノタウロスクトゥルーを惹きつけるように大きく旋回する。
「こいつの性能もケタ違いだが、あの怪物もケタ違いだ。どっちの怪物が優れているか?俺が試されている」
ノーマル機は、再びスライダー形態になってミノタウロスクトゥルーの真正面から突っ込む。
ミノタウロスクトゥルーは、飲み込まんとばかりに口を大きく開ける。
そして、ミノタウロスクトゥルーの喉元が紅く光る。
「トオルッ!」
「中尉殿ッ!!」
「冠庭くん!」
ミノタウロスクトゥルーの口から炎が噴き出す瞬間、交わすと同時にロボット形態に変形。
ビームソードでクトゥルーの首を喉元から切り裂く。
ミノタウロスクトゥルーの頭部はゆっくりと地面に落ちて"ドッシーン"という音が島全体を揺らす。
「目標、沈黙確認!」
「やりましたね。中尉殿」
「さすが」
***
ドルス国際評議場 4F 国際軍幹部会議室
「(ラドルフ大佐)やはり腕は落ちていなかったか。冠庭」
「(グールド)如何でしょうか、官房長官?」
「桐川コーポレーション製AGX−Ⅱ。第一次選考合格! よろしいかな?」
渋々頷くレオス。
周りから拍手が起こる。
「(ノブサダ)では次回、2次選考試験にて競合のヘイムダル社製ヴァナディスと性能テストを行い基準をクリアしたものを新たに陸軍第一方面部隊に導入する」
「失礼します!」と、制服に身を包んだラドルフ大佐の直属の部下たちがぞろぞろと入ってくる。
「(ラドルフ大佐)何事だッ⁉︎」
「ハッ! レオノール国皇女レイラ・レオノール様を乗せたレオノール国政府専用機がハイジャックされた模様です」
「(ラドルフ大佐)レオノール国だとッ!」
「レイラ・レオノール様は、グールド・グレモリー長官と会談のため、来国されるとのことで。本日正午、武装した6機の人型機動兵器を伴ってドルス空港に着陸したことで事態が発覚致しました。
現場の様子をご確認下さい」
ドルス空港の滑走路で武装したロボットたちに取り囲まれている飛行機が映し出される。
「(グールド)これはテロだ」
「(ノブサダ)これより、この場を対策本部とする」
「あの機体は我が社のゼノデオ! 一年前に国際軍に配備した機体がなぜ⁉︎」と、焦燥するヘイムダル社幹部。
「(冠庭)現場から俺たちが近いです。向かわせて下さい」
「我が社のゼノデオを6機も相手に無茶だ!」
「(グールド)なおのこと、彼らが打ってつけではないですか」
「(レオス)何を言っているんだ。これは演習ではないんだぞ」
「(グールド)データが欲しかったのでは? 」
「(ぐぬぬ)⋯⋯」
「我々としてもより実践の性能を披露できるいい機会です」
「わかった。ならばヴァナディスの兄弟機ゼノデオに後れを取れば、その時点で2次選考試験の機会は与えん、いいな!」
「かまいません」
「シェル隊、現場に急行せよ!」
「(シェル)了解しました」
「(ラドルフ大佐)!ところで犯人の目的はなんだ⁉︎ 声明は?」
「それが、同時刻に我々のところに星帝徳川イエミツ様宛に親書が届けられております」
「(レオス)親書だと?」
「(ラドルフ大佐)中身は?」
「はい。それがレイラ・レオノール様を国主とする"国王宣下"依頼書です」
「人質のか?それが要求?」
「おそらく」
「(グールド)ならば私は、かまわないと思っている」
「(レオス)何を言っているんだ!」
「併せて、徳川内閣の閣僚にすることも要求として書かれています」
「(グールド)レオノール国はいまだに国際政府に加盟していない国のひとつ。いい機会ではないですか。私のところに会談を持ちかけたのもこのことかもしれない」
「ありえん! 加盟していないハイオネスク地域一帯はヘイムダル社も参加する経済団体が主導で国同士の合併を持ちかけているんだ」
巨大モニターに地図が映し出される。
「(ノブサダ)ハイオネスク地域はヨーロッパの地中海にあるレオノール国ら6ヶ国からなる地域だ」
「(グールド)旧グリティシア王国にも近いな」
「ハイオネスク地域の国はいずれも国際政府にはまだ加盟していない。現在、経済団体主導で合併を進め、経済的に台頭を見せるグルドラシル国を中心にひとつの国として国力を高めたところで国際政府に加盟する運びになっている」
「企業が国をプロデュースとは」
「(レオス)だからテロリストの要求に応じて、足並みを乱すわけには行かない」
「(ラドルフ大佐)するとテロリストたちは合併反対派か」
「それが、親書の中には徳川内閣閣僚の方々全員にレイラ・レオノール様を合併国の首相に推薦して頂きたいとあります」
「(グールド)私は喜んで推薦する」
「(レオス)バカなッ!途上国の姫が大国を差し置いて合併国の首相などと」
「(ラドルフ大佐)一体どうなっているんだ⁉︎」
ノブサダは「至急、閣僚を集めろ」と、官僚に指示する。
「こちらシェルです。現場上空に到着しました」
「林田、今日は何日だ?」
「8日です」
「そうか、合宿か」
***
ドルス空港上空
飛行するAGX−Ⅱ4機。
「(トオル)見えてきた」
政府専用機を取り囲むゼノデオもAGX−Ⅱの存在を捉える。
「変形して一気にかかるぞ!」
「(一同)了解!」
ロボット形態に変形するAGX−Ⅱたち。
ゼノデオも装備したマシンガンを構える。
その時、一筋の光線がノーマル機の目の前を通過する。
光線はゼノデオ1機の腹部を貫き破壊。
腹部に空いた穴は熱で融解している。
トオルが見上げると、そこには両腕と両肩にあわせて4問の巨大キャノン砲を装備したマッシブなボディのロボットがいる。
「(ラルフ)AGX−Ⅲフィーアバスター。発射ッ!」
4問の巨大キャノン砲から一斉に光線が放たれる。
一気に4機のゼノデオを破壊する。
***
ドルス国際評議場 4F 国際軍幹部会議室
「(レオス)あの機体は一体なんだ」
「(グールド)2次選考試験の時に披露する予定でしたAGX−Ⅲです」
***
AGX−Ⅲの後方からファイヤーグリフォンとスーパーソードライナーも飛来する。
「久しぶりのこの体(ファイヤーグリフォン)だ。やらせてもらうぜ」
ファイヤーグリフォンは、グリフォンソードを手に向かって来るゼノデオを横に真っ二つに切り裂く。
政府専用機では、待機していた国際警察機構特殊部隊NEXTAが突入を開始。
黒い防護服に身を包んだ隊員が小銃を構えて続々と機内に入っていく。
その様子が国際軍幹部会議室の巨大モニターにも映し出される。
「(隊員)乗客が⋯⋯1人もいない?」
「(レオス)人質がいないだと⁉︎」
つづく
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