第25話 魔法少女殺し

首都国 ドルス 国際評議場

複数の国際警察機構官僚を引き連れて廊下を歩く国際警察機構長官グールド・グレモリー。

側近の官僚から資料が手渡される。

「フリーゲートブリッジ除幕式の警備計画書です」

「わかった」


同・閣議室

円卓のテーブルに星帝徳川イエミツ以下、国際政府の官僚が集っている。

国際防衛大臣レオス・アルベルトが作戦の内容を伝える。

「ニャルラトホテプによる人類クトゥルー化計画。人類をクトゥルーに変えるとされる魔法少女たちの駆除のため、

彼女たちの潜伏先に武装した国際軍の特殊部隊を配備させています。星帝のご判断があれば今すぐ実行致します」

「(グールド)お待ち下さい。魔法少女を相手に軍の装備では敵いません」

「なんだとッ!」と、レオスはテーブルを叩く。

「それに、まだ未成年の少女たちに武力を行使するとは些か⋯⋯」と、国際文部大臣が否定的な意見を述べる。

「相手はクトゥルーです。もはや人間ではありません」

「我々の立場としては看過できないよ」

「ここは国際警察機構におまかせ下さい」

「黙れッ! 警察の出る幕ではないッ!」

「(イエミツ)何か策があるんだな?グールド」

「魔法少女を倒すには魔法少女を⋯⋯」


***

スメラギ国とある山林

木々の間を駆け抜ける魔法少女たち

「あかりさん、そっちに行きました」

「何ッ⁉︎どこだ」

「凄まじいスピードです。捉えることができません」

逃げる西の魔法少女あかりの頭上から魔法少女なでしこが襲いかかる。

「キャッ⁉︎」とコスチュームが引き裂かれその場に尻もちをつくあかり。

「いったい何のつもりよッ! まさか、りりかがそうさせているの?こんなことして何をッ⁉︎」

「もういませんよ。りりかさんは」

「え?」

「あなたがりりかさんを追い詰めていたのは知っています。ですが今は関係ありません。私はただ魔法少女を倒すだけです」

「待ってッ!待ってッ!」

なでしこは冷めた目をあかりに向けてマジカルナックルを展開する。

山中にあかりの悲鳴がこだまする。


***

なでしこの元にシルバルドが現れる。

「ご苦労様でした。如何でしたか?我々の情報は。こちらが東の魔法少女の居場所になります」と、黒い表紙の資料を手渡す。

「ありがとうございます」

「では、引き続きよろしくお願いします」

「すべての魔法少女は私が倒します」


***

深夜 ひと気のない大通り

大型クトゥルーと戦う魔法少女たち。

苦戦していると突然大型クトゥルーが真っ二つに裂けると、裂け目からなでしこが現れる。

魔法少女たちは、驚く間も無くなでしこの攻撃に倒されていく。

リーダー格の黄色の魔法少女サツキはなでしこの凄まじいまでの強さを見て、その正体を察する。

「あんたが西の魔法少女を倒した"魔法少女殺しの魔法少女"⁉︎」

その瞬間、なでしこの拳がサツキの腹部を貫いて背中から突き出る。

サツキは口から血を吐いて、そのまま砂となって消える。

「よくもサツキさんをッ!」と、他の魔法少女たちがなでしこを囲んで襲いかかる。

だが、なでしこのすばやいハイキックが赤の魔法少女の首を捉えてへし折る。

赤の魔法少女は、白眼を剥いて地面に倒れ、そして、他の魔法少女たちも瞬く間に倒されて、砂へと返ってゆく。


***

東の魔法少女たちのアジト

東の魔法少女は魔法少女たちの中でも最大勢力を誇る。

その東の魔法少女たちを率いるのが、レスラーのような屈強な体格をしたピンクの魔法少女ユリナ。

「サツキがやられただとッ!」と、側近のサツキを倒されたとの知らせに激昂する。

「はい」

「南の魔法少女は、私らにケンカを売って勢力を伸ばそうって魂胆なのか⁉︎」

「わかりません。ですがこのままでは、いつここが襲われてもおかしくありません」

「ふざけるなッ!」と、身近にあったイスを投げるユリナ。

「許さん!誰が最強の魔法少女か教えてやる」


***

停車中の車が次々に爆発。

路上には動かなくなった魔法少女たちが倒れている。

爆発の炎の中からなでしこが出てくる。


***

次の日ーー

北の魔法少女管轄地区

なでしこの襲撃が始まる。

背中を向けて逃げる魔法少女に容赦なく飛び掛かり、首を絞め上げて倒す。


***

なでしこの進撃が止まらない。

襲撃が何日も繰り返され、魔法少女たちの間で畏怖される存在へと変わっていた。

バリケードを破壊して、魔法少女たちがアジトにしている廃工場を襲撃。

魔法少女たちの攻撃をもろともせず、次々に魔法少女たちを駆逐して行く。

命乞いをする魔法少女の言葉にも耳を貸さずマジカルナックルから繰り出される必殺技でとどめを刺す。


***

無表情で倒れている魔法少女の頭を踏み潰すなでしこ。

そこへ「見つけたぞ!魔法少女殺しの魔法少女!」と、なでしこ討伐のため、やってきた緑の魔法少女らのチームが襲いかかる。

なでしこは、取り囲む魔法少女たちを顔が歪むほどの威力のパンチと蹴りで一蹴する。

倒れた魔法少女たちに見向きもせず立ち去るなでしこの背中。


***

なでしこたち魔法少女がアジトにしている廃ビル。

疲れきった表情でベッドに俯すなでしこ。

体中にアザやキズができている。

「スメラギ国にいる魔法少女はあとわずか⋯⋯だけどまだ⋯⋯まだドルスの魔法少女がいる⋯⋯」

「ボロボロだな」との声に「誰ッ⁉︎」と、身構えるなでしこ。

そこに現れたのは柊紫月。

「紫月さんッ⁉︎」

「手伝わせて欲しいと言ったはずだ」


***

回想ーー

走行する電車内

立土岐の銃乱射で緊張する車内。

ゴルドガレオンが対峙する。


***

立土岐のルルイエ空間

大型クトゥルーと戦うなでしこ。

クトゥルーの触手が斬撃で切り落とされるとそこに紫月が現れる。

「紫月さんッ⁉︎どうしてルルイエ空間に?」

マジカルコンパクトを見せる紫月。

「それはアイリさんの!」

「私にも手伝わせてくれ」

「これは魔法少女の戦いです」

「!」と、何かを感じ取るなでしこ。

「この先の駅にもクトゥルーの反応が⁉︎」

「任せろ。私が行く」

「あッ!待って」


***

バリケードゾーンの目の前に現れるサムライアームズ。


***

倒れた立土岐を抱えるロード。

その様子を人混みの間から見たなでしこは立ち去る。


***

「すずめはまだダメか?」

首を横に振るなでしこ。


***

アジトの陰で頭から布を被り膝を抱えて怯えるすずめ。

「やだ、クトゥルーになりたくない」


***

「もう無茶はよせ」

「大丈夫です。これは魔法少女のケジメです。人々を守るために魔法少女がいる。だけど真実は人々を守るために魔法少女を倒さなくてはいけない」

決意を新たにするなでしこ。


***

東の魔法少女アジト

「まずい。このままでは」と、焦燥に駆られるユリナ。

「おいッ!なんだ貴様たちは⁉︎」と奥から声が聞こえてくる。

入ってきた北の魔法少女の姿に驚ろくユリナ。

「北の魔法少女がなんのようだッ!」

ユリナと犬猿の仲とされる北の魔法少女を率いるピンクの魔法少女楓。

「曲げて頼む。このままでは共倒れだ。一緒に手を組んでくれ」

手を差し出す楓に躊躇するユリナ。

「西の方からもまだ戦える魔法少女たちを集めてきた。ドルスの魔法少女も援軍をよこすと話している」

「アイナが?わかった。手を組もう」

ガッチリと握手する二人。


***

東の魔法少女管轄地区

陣形を組む魔法少女たちに切り込む、なでしこ。

あっさり蹴散らして前に進むとマジカルショットを構えた魔法少女たちによって編成された鉄砲隊が待ち構える。

「北の魔法少女?」と、異変に気付くなでしこ。

浴びせらる銃撃をかわして「私はひとりじゃない」と、マジカルハルバートを展開。

鉄砲隊に切り込む。

今度は槍型の武器を装備した魔法少女たちが側面から襲いかかる。

なでしこはマジカルアロー展開して対抗。

無数の矢を放って退ける。

だが、次から次へと魔法少女たちが出てきて、なでしこに襲いかかる。

圧倒的な物量。四方八方から攻撃を仕掛けてくる魔法少女たちになでしこもマジカルハルバートとマジカルソードで応戦。

体力の消耗から次第に動きが鈍くなるなでしこ。

背中や手足を切りつけられキズを負い、壮絶な戦いの中、もがくなでしこ。


***

体中にできた切り傷から血を流すなでしこに肩を貸して一緒に歩く紫月。

「手伝うと言っただろ」

「これは魔法少女の戦いです」

「だったら私も魔法少女の力を使う」

「ダメです。あなたはダメ。じゃないと誰が私を殺すの?」

「え⋯⋯」

「魔法少女を終らせる。約束です。最後のひとりになった魔法少女を魔法少女じゃないあなたが殺すって」


***

東の魔法少女たちの本陣

ユリナは配下の魔法少女に報告を受ける。

「魔法少女殺しの魔法少女の姿は見えなくなったようです」

「そうか。よくやった」


***

マジカルコンパクトの通信で同じ知らせを聞く楓。

「よしッ!魔法少女殺しの魔法少女はもはや虫の息。東の魔法少女より早く探し出して我々の手で始末するぞ」

「オーッ!」と、鬨を上げる魔法少女たち。

楓が天に突き上げた拳が斬撃と共に腕ごと地面に落ちる。

激痛に叫ぶ楓の前に紫月が現れる。

「始末されるのはお前たちだ」


***

アタッシュケースを持ったサングラスの男を惨殺するシルバルド。

その傍らにはブラックジョーカー。

アタッシュケースを開けるとギアコマンダーがぎっしりと詰まっている。

「駆除対象を援助して国際軍は何のつもりだ」

「おそらくこのギアコマンダーには起爆スイッチが付いていて、装着した魔法少女を爆破させるつもりだったんでしょう」

「(ギアコマンダーを見て)ふん。ヘイムダルか」

「ヘイムダルが間宮ヒトを介して魔術協会と繋がっていたのは把握できています。本当に何を考えているのでしょうか。あのお方は」


***

東の魔法少女たちの本陣

突然の爆風が本陣を襲う。

そこに現れたのはなでしこ。

両手のマジカルショットでユリナの取り巻きの魔法少女たちを次々に撃ち抜いて行く。

「お前がッ!」と、大型の斧型の武器、マジカルアックスを手に取るユリナ。

ユリナから振り下ろされたマジカルアックスをなでしこは両腕で受け止める。

重たい一撃がズシンッ!と両脚を地面に沈める。

そして強固なマジカルナックルにヒビが入る。

マジカルアックスを押しのけたなでしこは、拳をユリナの顔面に向かって伸ばす。

ユリナはその拳を片手で受け止めるとなでしこを軽々と投げ飛ばす。

なでしこは空中で態勢を立て直すと、もう一度突き放った右腕のマジカルナックルがユリナの胸部に直撃。

だが、彼女はビクともしない。

ユリナはなでしこの腕を掴んで地面に叩きつける。

仰向けに倒れた、なでしこの右腕を踏みつけるユリナ。

そしてユリナは執拗なまでになでしこの腹部を踏みつける。

「グハァッ!」

「お前が、お前が、お前ひとりのために魔法少女たちはッ! もうめちゃくちゃだ」


***

フェイスマスクが割れて紫月の顔が覗くボロボロのサムライアームズは足を引きずりながらなでしこの元に向かう。


***

なでしこが所持していたりりか、アイリ、マヤのマジカルコンパクトが転がる。

「りりかさん⋯⋯アイリさん⋯⋯マヤさん⋯⋯私は負けない⋯⋯」

3つのマジカルコンパクトの光がなでしこを包む。

光に弾かれるユリナ。そして「これ以上、自分の憧れと希望に裏切られる魔法少女を生み出したくないッ!」と、

ピンクの魔法少女へと進化を遂げたなでしこが光の中から姿を現わす。

ユリナは再びマジカルアックスを振るうとなでしこはそれを指先で受け止める。

「⁉︎」

マジカルアックスの刃はこぼれて使えなくなると、マジカルスティックに変化させ

光線による遠距離攻撃に切り替える。

だが、なでしこを覆うオーラが攻撃をビクともさせない。

ユリナが連射する光線にもろともせず、なでしこはゆっくりとユリナに近づいて行く。

「チクショウッ!」とユリナはパンチを繰り出す。

ユリナの拳を鷲掴みで受け止めたなでしこは、握り潰す。

骨が砕ける音ともに悲鳴を上げるユリナ。

なでしこはパワーアップしたマジカルソードを展開。

一振りでユリナを光の斬撃の中に消滅させる。

「あなたたちは幸せよ。真実を知らずに散るのだから」

変身を解除させてその場にしゃがみ込むなでしこ。

辺りには動かなくなった魔法少女たちが転がっている。


***

なでしこは魔法少女になる前、クトゥルーに襲われた頃の光景をフラッシュバックする。

しゃがみ込むなでしこの周囲に血を流して倒れている魔法少女たちーー。


***

目の前の方からパチパチと間宮ヒトが手を叩きながらやってくる。

「おめでとう。なでしこ」

なでしこはハッと自分が何者かを思い出す。

「兄さん⋯⋯」


つづく


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