第23話 国家機密の行方
夜 縁側から日本庭園がのぞめて12畳ある広い和室で、黒服の男と安守公彦は会談をしている。
「政界を退いてからこちらで華僑院神を祀る神主をなさっているそうで⋯⋯」
「余計な話はいい。用件はなんだ?」
「我々はこの国から引き上げることになりましたのでお別れの挨拶をと思いまして」
「ほお、それで用済みの俺を処分するって腹か?」
「この国には利益が無くなった。それだけです」
「刑事が来た」
***
回想ーー
同 広間の和室
ボサボサ髪にトレンチコートを着た40代半ばの所轄署のベテラン刑事 立土岐一刻(たちどき いっこく)の聴取を受ける安守。
「今日来たのは、連続で発生していた少女失踪事件についてのお話を伺いたいからで、ご存知のことがあれば教えていただきたい」
「なんの話だ? 以前に私を誰だと思っている」
「ただの一般人」
「お前、消されるぞ」
「いつまでも権力者ぶれると思わない方がいい。この事件は、もはや何んの圧力も掛っていない。むしろ解決させろとの上からのお達しでね」
「あの若造め(グールド・グレモリー)」
「御影カンナという女子高生と最近意識を取り戻した兄の御影マコトにも話を聞いている。コネクトシールってやつか。知らないということはないですよね?」
「⋯⋯」
「なるほど、あんたには2代首相夫妻の死についてお尋ねした方がいいのかな?」
「!」
***
同 広間の和室
立土岐から聴取を受けた次の日
「マヤ……久しぶりだな。母さんは元気か?」
「ああ元気じゃねぇの」と、魔法少女のマヤはあぐらをかいてめんどくさそうに答える。
「母さんと一緒に暮らしていないそうだな。あまり親に心配をかけるようなマネをするな」
「父ちゃんだって私のこと言えんのかよ」
「まあいい。今日は小言を言うために来させたわけじゃない。お前は安守の家を継がなくていい」
「はぁ⁉︎ いいのかよ! 一人娘だぞ。離婚して母ちゃんに引き取られているけど、私が安守を継がなかったら安守の名は絶えるんだぞ!」
「そう男を気取る必要はない。普通の女の子でいろ。いいんだ。安守の名は元々、俺一代の名だ。だから俺ではじまって俺で終わる。これは家族3人で暮らしていた頃のアルバムだ持っていけ。
そしてこれ以上、この家に出入りは禁止だ」
「待てよ。何を急に言いだすんだ。ここに呼びつけておいて」
「行け!」
「何だよ! 急に」
「俺のところに刑事が来た」
「!」と、マヤは10年前に見た光景をフラッシュバックする。
近くの竹林で父安守が着物を着た女性を抱きかかえている光景を。
その女性の口からは血が垂れていた。
「父ちゃんが殺したのか?白間(はくま)のおばさんを」
「やはり見ていたか⋯⋯だが、殺していない」
***
安守と黒服の男が会談している頃、魔法少女がアジトにしている廃ビルでは、
入口のところで中に入るのを躊躇している柊紫月の姿がある。
「どおしたんだよ。入れよ」と、マヤが現れる。
「お前は⋯⋯」
「マヤだよ。いつまでそうしてんだよ。帰ってこいよ」
「ここは私の帰る場所じゃない」
「こんなこと言うとすずめに怒られるけど、ありがとよ。アイリ助けてくれて」
「なッ!……」
「みんな分かっているんだ。アイリを助けることはできないって。あのままアイリがクトゥルーにならなくてよかったぜ」
「⋯⋯」
「俺も帰る家、ここだけになっちまったぜ」
***
華僑院神社(安守の屋敷) 広間の和室
「最後にお世話になった華僑院神に参拝させて頂きたい。いい取引をさせて頂きましたと」
「あんたらに参拝させつもりはない。それより最後にこの国で大仕事をしたくないか?」
と、古びた本を取り出す安守。
「それは?」
「ゼロノイドの研究資料だ。国際政府が血眼になって探している。高値のお宝だ。どうする?」
「あんたらに、ただ消されるのはしゃくだ。大海賊なら力尽くで取りに来やがれ!」
***
次の日の朝
華僑院神社(安守の屋敷) 広間の和室に
火条ツカサ、火条アルテ、直江尊、織田ラルフ、柳生ロードら生活安全部一同が集められている。
「それで、海賊相手に大見得きったってわけか」と、呆れる尊。
「心配いらねぇだろ。お前らつえーんだろ?」
「もちろんだぜ」と、ツカサは自信満々に胸を叩く。
「だってよ。(ロードに)先生。大変だけどしっかり引率頼むぜ」
「え?」
「こいつ、歳食って見えますけど、同級生です」
「何だそうか。へぇ」
「へぇって何ですか⁉︎ 高校生ですよ!」
「まあいいや。俺をしっかり守ってくれ。まあ、海賊の前にあのねーちゃんに殺されそうだけどな」
殺気だった目で安守を睨んでいるアルテ。小さな声で呪いの呪文のようなことをブツブツと唱えている。
「ところで海賊が狙っている国家機密って何んだ?」
「そりゃあ国家機密だ。言えるわけないだろ」
ため息をついて頭を抑える尊。
「それよりどんな望みも聞いて頂けるという約束は本当なんですよね?」
「もちろんだ。お望みはなんだ? 」
「新生グリティシア帝国の建国!そのために我が父である国王の汚名をはらして頂きたい」
「(尊)帝国って」
「なるほど。我々が行ったことの始末はつけよう。日本にいるヒデタダ公に掛け合う。旧グリティシア国王の疑惑についてイエミツ星帝のお言葉があれば世間はそれで納得する」
「必ずですよ」
「ああ」
「なあ、海賊の奴らは強いのか?」
「もちろんです、ツカサ。大海賊"ハウンド"、全世界の海を股にかける海賊。原油から何まで海のあらゆる流通を支配している彼らは、国にさえも影響を与えると言われています。
島国なら特に。この国の前政権も海賊が裏で支えていたのですね。グリティシア王国崩壊もイシュタルトの力だけというのは些か不可解でした。海賊の協力があったのですね」
「(頷いて)奴らもグリティシア王国近海を手に入れたいって腹があったからな。今や海賊の庇護なくして政権は成り立たない」
「その仕組みを変革しようとしたばかりに父は⋯⋯」
「アルテミア姫、この国に来てどうだ?自分を姫として扱はない外の者との交流は」
「無礼な者ども……と、思ったことは多々ありました」
「(ツカサ)あるのかよッ!」
「あなたにそう尋ねられるのは皮肉ですが、今はとても良き仲間に出会えたと思っています。皇女のままだったらあり得なかったことです」
「身を助けてくれた出会いは大切にした方がいい。それで仲間になれたのなら尚更だ。俺はその人たちのために一生を賭けた」
***
回想ーー
屋敷の庭に正座をする、つぎはぎだらけの着物を着た身なりの少年安守は、華僑院玄徳とアマテラスが目の前に現れると両手をついて頭を下げる。
「面(おもて)をあげよ。凛々しい面構えじゃ。小僧、妾の隣にいる玄徳に仕えよ」
「アマテラス様!お戯れを。人間の子ですぞ」
「そうじゃの。名無しの権兵衛じゃかわいそうじゃ。名をくれてやろう」
「アマテラス様、そういうことでは」
「うーんそうじゃな。あ……あもり⋯⋯安守じゃ。安寧の世をつくるため、玄徳を側で守り続けてほしいという意味じゃ」
***
「だからこの名は俺の代で終わりでいい。役目は終わったんだから」
「(一同)⋯⋯」
***
市街地の路地裏
「アイナ!アイナ!いるんだろ」
「どおしたんだいマヤ?」と、魔法少女アイナの姿で現れる間宮ヒト(ニャルラトホテプ)
「珍しいじゃないか。君の方から僕を訪ねるなんて」
「教えてくれ! 過去に行く魔法を!魔法少女になったんだからそれぐらいのことはできるんだろ」
「時間の魔法か。残念ながら今の魔法少女にはできないよ」
「そうなのか⋯⋯」
「だけど、その場所で過去に何があったかを見る魔法ならある」
「それだ!それを教えてくれ!」
「いいだろう。君に覚悟があるならね」
***
華僑院神社(安守の屋敷) の表にある竹林
竹箒を掃きながら落ち葉を集めて焚き火をしている安守と尊とロード。
「このお屋敷は元々、華僑院元総理のお屋敷だったんですね」とロードが尋ねる。
「そうだ。俺は子供の頃からここに住み込みで奉公に来ていた」
2人が会話する横で尊はふと、焚き火の中に気になるものを発見する。
「10年前、このお屋敷で第2代首相の奥様が背中を刃物で刺されて倒れていたのを発見されたとか」
「おまいさんは本当に高校生かい?よくそんな昔のことを知っているじゃないか」
「ええ。生活安全部のスポンサー(フェリス・グレモリー)が色々教えてくれましたので興味が出ました」
「俺にとっては思い出したくもないね」
「奥様が殺される3日前には、夫であるスメラギ国第2代内閣総理大臣白間康辰(はくま やすたつ)が近くの料亭で同じく背中を刃物で刺されて殺されているのが発見された。
当時、大騒ぎになりましたよね?政敵である華僑院派の安守さんたちも疑われた。だけど事件は未解決のまま」
「奥様は、俺の妻の妹だ。ましてや幼少の頃から一緒に華僑院様にお仕えしていた」
「だからこちらに匿われていたんですね」
「華僑院様にとっては娘同然であり、そんな彼女が殺されたことで俺たちへの疑いも改めざるおえなかった」
「それで事件は暗礁に乗り上げたと⋯⋯」
「多くの捜査陣を投入しても解決できなかった。探偵ごっこの高校生には解けないよ」
***
魔法少女がアジトにしている廃ビル。
なでしこ、すずめ、紫月は目も合わせることなく無言のまま冷え切った空気が漂う。
「なんでアイリ姉ぇを殺した奴と一緒にいなきゃいけないの」
「すずめさん、聞こえますよ!」と、焦るなでしこ。
「(紫月)⋯⋯」
「マヤ何やってんのよ。早く来て⋯⋯」
そこへ魔法少女アイナが現われる。
「ニャルラトホテプッ!」と身構えるなでしことすずめと紫月。
「なでしこ。マヤは父親を殺そうとしているかもしれないよ」
「マヤさんが⁉︎」
日本刀を持って飛び出す紫月。
***
夜ーー
武器を手にした数百人のプロトギア部隊が石段を駆け上がる。
「よっしゃ!やってやるぜ」と、ファイヤーアーマーがプロトギア部隊に挑んで行く。
***
回想一年前ーー
屋形船の座敷で待つウルヴァ。
襖が開いて間宮ヒトが入ってくる。
「久しぶりだね。ウルヴァ。今の時代を作ったはじまりの男と一緒にお酒が呑めるなんて光栄だ」
「その姿で、酒を飲まれると困る。炎上ものだ」
「そうだったね。君は表舞台から姿を消して高校で用務員の仕事を始めたんだってね」
「僕の役目が終わっただけ。お前こそ今何を企んでいる。ニャルラトホテプ」
「今はゼロノイド研究を継続させてるよ。今は最終段階だ」
「木田春馬をそそのかして、ゼロノイドの子供たちを虐殺しておいてか?」
「うん。主導権を握りたかったからね。それに人間ベースのゼロノイドはいらないんだよ。遺体は研究材料になるから欲しかったけどね」
「僕たちは今の世をつくるためにとんでもないパンドラの箱に手をかけたと後悔している」
「ヒデヨシは後悔することはなかった。むしろ凄まじいまでに僕らクトゥルーを手中に収めようとした。
本人は収めたつもりだったんだろうね。僕らは君らのような下等生物の下ることはあり得ないはずなのにね」
「いつまで我々をそう冷笑し続けるつもりだ」
「いつまでだろうね。ずっとかな?君たちは面白い。本当に些細なきっかけで歯車を狂わせるからね。木田君もそうだったね」
***
ファイヤーアーマー、ローズファリテ、ソードアーマー、シューティングアーマー、ゴルドガレオンに歯が立たないプロトギアたち。
「たやすくゼロノイドに関する資料を渡してくれるはずがないか」
「ゼロノイド⁉︎」と、ソードアーマーはそのワードに引っかかる。
「一体なんなんだお前たちは⁉︎」
「俺たちはキサヒメ学園生活安全部だ!」
ファイヤーアーマーを中心に横並びになって決めポーズを決める。
「高校生だとぉ!」
***
回想一年前 屋形船の座敷ーー
「本題に入ろう、ゼロノイドの研究と技術をまとめた資料を渡してくれ。クトゥルーの進化がそこに書かれている。
ワルプルギスの夜はそこまで来ている」
「お前は、いずれ名もなき子供たちによって滅ぼされる」
「何を言っているんだい?有史を動かした者たちはその因果で有史に名すら残らぬような者に滅ぼされるとそう皮肉りたいのかい?」
「そうだ。名の残らぬ者(ヒーロー)によってね」
***
生活安全部と海賊プロトギア部隊の戦いが続く中に魔法少女マヤが現われる。
「大切なものを守るためだったんだでしょ父ちゃん。今度は私が守る。マジカルアップ!」
マヤは光に包まれ巨大な龍に酷似したモンスターに姿を変える。
マヤクトゥルーは、大きな口で次々にプロトギアたちを捕食して行く。
***
灯りを消して1人座禅を組む安守の背後から触手が忍び寄る。
「もうこれ以上誰も父ちゃんを傷つけさせない。見たんだ。あの日何があったか」
「マヤか⋯⋯」
そこへ「マヤさん、ダメです!」と、なでしことすずめと紫月が"バタン"と襖を開けて入ってくる。
だが、安守は触手に取り込まれてしまう。
***
「見ろ!」と、マヤクトゥルーの額を指差すファイヤーアーマー。
マヤクトゥルーの額には取り込まれている安守の姿がある。
「おっさんが!」
「俺たちがやる」と、宣言した尊にロードが頷く。
***
合体シークエンス
「超特急合体!」と、2人が声を重ねて叫ぶソードライナーとドライグライナー。
ドライグライナーは、全身が5つのブロックに分かれる。
ソードライナーの足裏、左腕、右肩、背中、胸にが変形したドライグライナーのパーツがドッキングして
「スーパーソードライナー!」と名乗りをあげて完成する。
スーパーソードライナーは、ライナーブレードとナギナタブレード(チェンソーブレード+ライダーブレード)を両手に装備して飛翔。
「バーテックスストーム!」と2刀流の技でマヤクトゥルーを切り裂く。
***
日が昇りはじめて来た。
華僑院神社側の浜辺にマヤと安守の姿。
安守はマヤに膝枕をされて横になっている。
そこへ生活安全部となでしこ、すずめがやってくる。
すでにマヤは目閉じて意識がない。
「安守さん。あなたが守りたかった国家機密ってのは白間元総理を殺したのは元総理の夫人だという事実だったんじゃないですか?」と尊が問いかける。
安守は弱々しい声で答える。
「高校生にバレちまうなんて国家機密もクソもないな。どうして分かった」
「海賊の目的がゼロノイドに関する資料だと分かった。だけどあなたは昨日それを燃やしていた」
焚き火の中に燃える一冊本。表題にゼロノイドとあるのを尊は見逃さなかった。
「ゼロノイドに関する資料が重要じゃないとするとあなたが隠したかったのは、10年前の事件のこと」
***
回想10年前ーー
華僑院神社(当時安守の屋敷) の表にある竹林
安守と話す白間夏乃。
「許せなかった。アマテラス様の史跡を取り壊してこの地に神様がいらっしゃったことをなかったことにするあの人の政策が。間宮ヒトとかいう男に
会ってからあの人の行動は常軌を逸してた。ゼロノイドの研究を再開させ抜神攘夷思想を活発に唱えるようになった。終いには華僑院様も追放しようと企んでいた。
私たち姉妹もアマテラス様に拾われ夏乃という名前を頂いた。私たちの思い出を壊されたくないだから⋯⋯」
夏乃は着物の袖から茶色い小瓶を取り出して中身の液体を飲み込む。
「よすんだ!」
夏乃はその場に"ドスン"と倒れる。
「おい、しっかりしろ」と、体を揺するも夏乃の反応はない。
竹林の中からその様子を見ていた幼き日のマヤ。
***
「あとは彼女の背中に包丁を突き立て同じ者の犯行に見せかけた。華僑院様を守るため、彼女の意志を尊重した……あとは簡単だ。警察に満足に捜査させないように手を回した」
「そうまでして夫人を守りたかった理由は?」
「私たちは身を助けてくれたあのお方たちを一生賭て守ると誓った……あの人の思いを大事にしたかった。マヤもその気持ちを汲んでくれたんだろう。バカなことを。
俺は、夏乃さんの行動を罪として歴史に残したくなかった。彼女がいなければ、今頃この国はクトゥルーが支配する国になっていた。スメラギ国の歴史に彼女の名を汚名として残したくない。
アマテラス様に頂いた大切な名だ。例え有史にその名が残らぬとも彼女を讃えたい⋯⋯」
「だから国家機密⋯⋯」
安守はそっと目を閉じて、マヤと一緒に砂となって風の中に消える。
***
桐川コーポレーション ハンガーデッキ
桐川トウカと海賊の黒服の男と話をしている。
「今回は、これだけの機体を用意して頂いてありがとうございます」
「これだけの数、何に使うか聞かないが自信作だ」
「AGXシリーズ。実に素晴らしい。ところでこちらの機体はなんですかな?」
「スクラップだ」
男の目に止まったのは大破したAGX-Ⅱだ。
「もったいない。買い取らせて頂きましょう」
つづく
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