第17話 転校生は28歳

キサヒメ学園 生活安全部部室


太陽の光が窓から入る早朝、置き時計の針が7:00を指している。

部室内には割烹着を着てひとり黙々と雑巾で床拭くロード・スクリームの姿がある。

そこへ大きなあくびを手で押さえながら入ってくる直江尊。

おもむろに窓に近づきサッシを指でひと舐めする。

「おーい、新人。埃まだ残ってんぞ」

「(苦笑いで)す、すみません」

今度は、置いてあったノートPCをどけてテーブルの上を拭いていると

背後から現れたラルフが「触るな」と、殺気立った目でロードを見ている。

「は、はい」

おとなしそうなラルフからは想像もつかない豹変にロード・スクリーム28歳は思わず後退りしてしまう。

次に「おはよう」と、ボサボサの寝癖が残った髪型にまぶたが重い寝ぼけ眼で入って来る火条ツカサと

その3歩後ろの火条アルテ。

「おう、新人君!掃除しているね。この部室は君が入る前からとてもピカピカだったんだ。俺たちに負けないように

もっとピカピカにしてくれよ」

「(ウソをつけ!用務員の方が入り浸っていたときは、とても綺麗だったと聞いていたが、俺が来た時には、ほぼゴミ屋敷だったじゃないか。

とくにお前の身の回り!)」と、思いつつ、ツカサの席の下に落ちていた空き缶を拾ってゴミ袋に入れるロードは、任務が終わったら

どうやり返そうかと考えるのが楽しみになりつつある。

「あの方、またニヤニヤしながら空き缶拾ってます」

「相当好きなんだな。掃除」

「やはり、皇女時代の執事やメイドたちに比べたら、拭き上げ方はイマイチですわ。あの者たちは元気にしてますでしょうか」

窓のサッシをひと舐めした指を眺めて不満を溢すアルテ。

「ウルヴァさんと比べてたらもっと遠く及びませんわ」

「ウルヴァのおっちゃんがいた頃は良かったな。黙っててもお茶が出てきたのになぁ」

一同はあの頃はよかった言わんばかりにため息が漏れる。

「(こいつら後輩部員をなんだと思っている。それにしてもグールド長官に命じられた任務は何が目的なんだ?

彼らと一緒に行動を共にしてその活動内容を報告してくれと言っていたが…………確かに部員は怪しい奴が多い。

かの実験で生み出された怪物ゼロノイド。何食わぬ顔で不法滞在をしている亡国のお姫様。犯罪者予備軍オーラ全開のオタク青年。

しかも戸籍や免許の偽装なんていくらでもやっている。公文書偽造でいつでも引っ張って来れそうだが…………。

(尊を見て)それに国際軍の兵士まで潜入している。本当に彼らは何者なんだ?生活安全部なんて言っているがテロリストなのか。

まさか⁉︎この間のモンスター事件も彼らの仕業?やっぱり国際軍の彼に聞いてみるか。いや、待てよ。国際軍の彼にも正体がバレてはいけないなんて

あの長官何考えてるかよくわからないけど、これは国際警察機構の将来に関わる任務なのか?)」

そんなことを繰り返し考えるロードの潜入3日目の朝だった。

ロードは、ウルヴァの遠い親戚という設定で理事長フェリス・グレモリーの推薦によって生活安全部に入部することができた。

だが、生活安全部一同はウルヴァが天涯孤独の身だったことは承知の事実。しかもフェリスのゴリ推しということもあり、

一同のロードに対する不信感は強い。

「(怪しい…………)」と、一同の心の声は一致している。


潜入初日ーー

同教室

ロードは、黒板の前に立ちクラスメイトたちの前で挨拶。

「柳生ロードです」と剣術指南役として徳川家に仕える際の

家名を使い、ツカサたちとは異なるクラスに転入した。

転入生にクラスは騒つくも、「転入生が来た!」という色めき立つ声より

「え⁉︎年上?」「フケすぎじゃね?」「先生かと思った」の声の方が多かった。


潜入3日目の現在ーー

体育の時間、体力テストが行われロードは再びクラスの注目を集めている。

「なんだ?なんだ?機動隊所属の俺の身体能力に驚いているのか?ちょっと本気を出しすぎてしまったか。

これが大人げないって奴か。すまない学生諸君」と、キランと白い歯を覗かせドヤ顔を決めるロード。

「あの,柳生君…………」と、女性体育教員が恐る恐る話しかける。

「はい!先生」と、キメ顔のロード。

「柳生君、今日はどこか具合悪い?」

「へ?」

「数値が、その10代平均以下、まるで30代前半なの。測り直す?」

「いえ」

ロードは、明日とてつもない筋肉痛が全身を襲うことを覚悟した。

そこへ「ロードさん、ロードさん」と、月代サヨがやって来る。

「どうしたんですか?月代先生。どうして"さん"つけなんですか?」

「ご、ごめんなさい。なんだかロード君が年上に見えちゃって。なんとなくロードさんって言いたくなっちゃうの」

サヨは24歳、綺麗だな思いつつ、ああ、教員として潜入できていたら、期待できることもあったんだろうなと今の立場をさらに悔しく思うロード。

「そんなことより、理事長がお話があるそうよ」

やって来るフェリス。

「ごきげんよう」

「?」

「お兄様から聞いているわ」

「はぁ…………」

「あいにく教師の席が空いてなかったの。校長しか…………だからお兄様の言うように高校生がんばって」

「…………(教師で着任しても子供に上から目線で見られるのは一緒か)」


***

ドルス国際評議場閣議室

円卓のテーブルに星帝徳川イエミツ以下、国際政府の閣僚たちが一堂に会している。

「第1級テロだと?」

国際警察機構長官グールド・グレモリーからの報告に反応する国際防衛大臣レオス・アルベルト(ドイツ代表)。

「はい。モンスターを構成していた核となる鉱物。これは人工的に作られた物だとわかりました」

騒つく閣僚たち。

室内が騒然となる中で、イエミツは黙って配られた資料と鉱物が入れられたシャーレに目を落とす。

「さらにモンスター駆逐直後には自身をクトゥルーだと名乗る人物から犯行声明とも取れる電話がありました」

「クトゥルーだと?」と、イエミツが顔を上げ反応する。

「厄介だな」

「?」

「ノブサダ」

国際政府官房長官の渡辺ノブサダが立ち上がる。彼はかつて魔界を統べた第六天魔王織田ノブナガの弟である。

「クトゥルーは宇宙創生の頃より宇宙の支配者だとされてきました。かつて地球を侵略せんとする宇宙の支配者(クトゥルー)たちは神々によって駆逐されその姿を消した。

その大戦において、最も彼らに有効的だった力が魔力でした。そのため多くの悪魔が神の武器とされ命を落とした。それによって大戦後、神と悪魔の関係は悪化。

幾度となく争いが起きるきっかけとなりました」

「理(ことわり)…………」と、グールドは険しい表情で呟く。

「その歴史から今でもその名に嫌悪感を持つ悪魔が多い。クトゥルーの名が再び広まることで神に対する負の感情が再燃して統一されたこの世界が

再び割れる可能性があります」

「…………」と,言葉を失う閣僚たち。

「世界を再び割るわけにはいかない。ただ名を騙っただけであればいいのだが、クトゥルーの名前が出てきた以上、

事を慎重に進めなくてはならない。頼むぞグールド」


***

スメラギ国 市街地大通り

200体以上のモンスターの大群が大通りを進んでいる。

車を乗りすて逃げ出す人々。

ビルの屋上にその様子を眺めている、鎧のような派手なコスチュームを纏った女性=マリーダがいる。

彼女は手のひらにたくさんのモンスターの核となる鉱物を持って不適の笑みを浮かべる。

「この種子から生み出されるクトゥルーの子らよ。人間の血肉を喰らい我らの糧とするのだ」

「そこまでよ!魔術協会!」と、少女の声が響く。

「マジカルアップ!」の掛け声とともに7色のひし形の装飾をあしらったコンパクト型アイテム=マジカルコンパクトが光る。

現れた5人の少女たちが、ハートと星が舞うキラキラとした空間で光に包まれて魔法少女となる。

ピンク色の魔法少女=りりか。

青色の魔法少女=アイリ。

緑色の魔法少女=マヤ。

オレンジ色の魔法少女=すずめ。

白色の魔法少女=なでしこ

「出たな魔法少女!」

「あなたの思い通りになんかさせない!」と、りりか(ピンク)はマジカルコンパクトを

スティック状に変化させて星が飛び出す攻撃魔法でマリーダを攻撃する。

「小娘どもがこしゃくな!」

攻撃を弾き返すマリーダに今度は剣型のマジカルソードに変化させて素早い剣さばきで彼女を追い詰めていく。

「みんなを傷つける悪者は私たちが許さないんだから」

一方、モンスターの大群を相手にする残りの4人の魔法少女たちはそれぞれの武器を駆使して戦っている。

アイリ(ブルー)はマジカルコンパクトを弓矢型のマジカルアローに変化させ、モンスターたちを次々に射抜く。

マヤ(グリーン)は槍斧がたのマジカルハルバートに変化させて、「うおりゃぁああ」、ブンブン振り回しながらモンスターを薙ぎ払っていく。

「お姉(ねぇ)たちに遅れてられない」と、すずめ(オレンジ)は拳銃型のマジカルショットを2丁構えて戦う。

そんな中、短剣型のマジカルだがーで戦うなでしこ(ホワイト)はモンスターに苦戦をしている。

「レベル2のあんたじゃ、厳しいんじゃないの?精々ポイントを稼いでね。私はお先にレベル4に行かせてもらうから。じゃあね」

と、すずめがなでしこを煽りながら前線へと突っ込んでいく。

「私だって!」負けじと、なでしこはモンスターの群れの中に斬り込んでいく。

だが、焦りからモンスターに側面からの隙を突かれ、触手攻撃が彼女を襲う。

グッと目をつぶるなでしこーー

その時、"ブシュッ"という音ともに、生温かい紫の液体が彼女の顔に掛かる。

「⁉︎」と、なでしこが目を開けると目の前にはソードアーマーの姿がある。

そして、マリーダとりりかの頭上を1台のバイクが飛び越えてゆく。

「なんだ⁉︎」

ローズファリテが乗るローズピンクのバイク型アビリティマシン=ローズライダーは火花を上げて派手に着地する。

ローズライダーは、一部装飾の異なるソードライダーのカラーバリエーション機で合体機能も備わっている。

ローズファリテの姿にマリーダは「新しい魔法少女⁉︎」と驚く。

「違うわ。私たちは生活安全部"ヒーロー"よ」

「何?」

ファイヤーアーマーとシューティングアーマーも参戦してモンスターたちを倒していく。

りりかは口調と表情を一変させて「生活安全部!言ったはずだ。貴様たちではクトゥルーを倒せない。さっさと失せろ!」

「対策済みだ」と、ソードアーマーがモンスターを真っ二つに斬り裂き、砂へと変える。

「チッ!」と舌打ちするりりか。

そして、やれやれとした表情でロードがギアコマンダーをかざして「変身!」と、金色のアーマードギア=ゴルドガレオンに姿を変える。

剣型のガレオンソードを取り出して、彼もモンスターたちを次々に切り裂いて倒してゆく。

ゴルドガレオンは「!」と、ソードアーマーが自分の戦いを見ていることに気づく。

目が合い、ソードアーマーは目を逸らして自分の戦いに戻る。

「?」と、首を傾げるゴルドガレオン。

「私たちの戦いの邪魔だ!」と、りりかはソードアーマーに斬りかかる。

マヤも「よっしゃ!ワタシも」と、続けてゴルドガレオンに向かっていく。

「マヤちゃん!」と、アイリが止めようとするも、魔法少女とアーマードギア、モンスターが入り乱れての戦いが始まってしまう。

「ああ、もうめちゃくちゃだ!私がとっておきを見せてやる」と、マリーダが地面に発現した魔法陣に種子を投げ込む。

すると魔法陣から巨大なモンスターが現れる。

「大きい!S級モンスター⁉︎」

「私たちで勝てるのかしら」

焦燥の表情を見せる魔法少女たちにマリーダは高笑いを上げる。

「見たか!魔法少女たちよ!これならなすすべもない!アーハハハッ」

マリーダがのけぞる程の高笑いを上げていると、「うおおおお!」と、ライドファイヤーの拳がモンスターに炸裂する!

モンスターはその場に膝をついて崩れる。

「な、何ィ!」と、目ん玉を飛び出さんとばかりに目を大きくして驚くマリーダ。

「ロ、ロボット⁉︎ずっこいわよそんなの!なんなのあんた達ィ!」

再び起き上がるモンスターに「やっぱりライドファイヤーのパワーじゃ倒せないか」

力不足を痛感したライドファイヤーが「新人!後を頼んだぞ!」と、叫ぶと列車型アビリティマシン=ドライグライナーが来る。

ドライグライナーは、ラルフ専用機となるはずだった機体で、救難災害用に開発。先頭車両はドリルになっていて、後部車両はクレーンが装備され、

中間部の屋根には小型ジェットが搭載されている。

小型ジェットが分離して「初陣なのに人使いが荒いな」と、ゴルドガレオンが操縦する。

小型ジェットからの空爆でモンスターが怯んでいる隙に「救難変形!」と、ドライグライナーは人型に変形して

小型ジェットが、ウィング、頭部、胸部の飾りにかけてのパーツに変形して、ドライグライナー本体にドッキングすることで完成する。

右肩にはドリル、左肩にはクレーンが装備され、クレーンにはアタッチメントウエポンとしてシャベルバケットとアームをそれぞれ取り付けることが可能である。

「変形合体ドライグライナー!」の名乗りを上げて大地に降り立つ。

"キィー"と声を上げ歯軋りするマリーダ。

「やっておしまい」と、モンスターの触手から放たれるビームの嵐でドライグライナーは爆炎の中に消える。

「やったか!」

煙が晴れると傷ひとつ付かず微動だにしないドライグライナーの姿が現れる。

「な、何ィ⁉︎」

「じゃあ、こっちから行くぞ!」

右肩のドリルで、襲って来る触手を蹴散らして、胸部のバルカンでモンスターの動きを抑えると

「トドメだ!」と、右足側面の装甲を展開して、出てきたチェンソー型の武器=チェンソーブレードを取り出して

右腕に装着。

刃が回転して一気に巨大モンスターを真っ二つにする。

モンスターが砂に帰るとマリーダは「覚えてろ!」と、懐かしい捨てゼリフを吐いて自らの足元に発生させた魔法陣の中に消える。

「消えてしまいましたね」とローズファリテ。

「さぁ、このモンスターについて教えて貰おうか?魔法少女」と、切っ先を魔法少女達に向けるソードアーマー。

「その必要はない!言ったはず。あなた達の出番はここまでよ!」

武器を構える魔法少女たち。

「やろうてわけか」と、拳を合わせるファイヤーアーマー。

対峙する生活安全部と魔法少女。

「新入りやれ」

ドライグライナーはため息をひとつついて、"ババババ"と、魔法少女たちにバルカンを浴びせる。

「え?」


***

夜景をビルの屋上から見つめる10歳〜13歳位の中性的な容姿をした少年=間宮ヒト。

「はじまりの男がいなくなったとはいえ、やはり邪魔だな生活安全部」

ニヤリと、不適な笑みを溢す。


***

ロード潜入4日目の朝

キサヒメ学園 理事長室

生徒の出欠者名簿に目を通すフェリス。

名簿には柳生ロード欠席。理由筋肉痛と精神疲労と書かれている。

頭を抑え、ため息をつくフェリス。

「ハァー」


つづく

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