第13話・決戦前夜

共通試験の前夜。

根を詰める時ではないと思い、俺はぼんやりと過ごした。


母親は夕飯にとんかつを揚げていた。

最近はラコールが主食になっていたから食べられるか少し心配だったけど、食べてみたら意外と平気だった。


「試験場の下見はした?」


トンカツに味変の七味マヨネーズをつけて食べていたら、姉が口を開いた。

なんだそれ。


「会場の東農大は広いから毎年迷子になる人がいるらしいよ」

「俺は迷子にならない」

「そんなの分かんないじゃない。自転車で行くんでしょ? 駐輪場の場所は調べてある?」

「そんなの現地に行けば張り紙ぐらいあるだろ」

「調べてないのね」


姉からLINEで動画が送りつけられた。

道路から門を通って駐輪場に向かい。その後、会場に指定されている教室までを歩いて撮影された動画。

途中に自販機やトイレもピックアップされている。

まるでグーグルマップのカメラみたいだ。


「この前合コンした相手に東農大の院生がいて。世間話で試験会場が東農大だって話したら動画を撮ってくれたの。親切な人ね」


それは親切ではない。

そいつの下心だ。


まあ、邪な感情があったとしても、役に立つ動画をもらえたことには感謝する。


「東農大の人にお礼言っといて」

「私にはないの?」


感謝は強要するものではない。

無粋な女だ。

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