第155話:去年、男子を募集した理由



 校長室にもつながる、応接室。


 校長先生、教頭先生、担任の先生に、八時間目のエリ先生。


 加えて、あたしの母さんまで。


 六者面談!?


 かとも思える、ものすごい状況ではあるも。


 思い切って、疑問をぶつけてみたいな、と。


「校長先生、ちょっとよろしいですか?」


 校長先生、直々に。


「はい、なんでしょう?」


 他の先生から、止められるかとも思ったけど。


 それもなく、校長先生が、対応してくれそうなので。


 ぶっこんでみましょう。


「来年度の事はわかったのですが、どうして今年は男子を募集されたのですか?」


 一瞬、固まる。


 校長先生のみならず、他の先生たちも。


 ただ。


「そうですね、不思議ですよね、うちの子だけが入学できたのも」


 母さんが、追撃してくれる。


 さすが、母様かぁさま


 校長先生が、教頭先生と何やらアイコンタクト?


 何やら、少し顔を見合わせて、お互いに頷いて。


「……実は……」


 校長先生が、語ってくれる内容は、と、言えば。


 端的には先ず少子化で入学希望の生徒が減少していること。


 これに対応するには、女子だけでなく、男子も受け入れる共学化が必要なこと。


 ただ、完全な共学化を行うためには、施設ハードウェアの準備も必要。


 けれど、施設を整えるには、多額の資金も必要。


 そこで、共学化の準備として、少数の男子を募集して、は共学化への布石としたい、と。


 実際には。


「ここだけの話、正直に申し上げますと……」


 募集はしたものの、実際に男子を受け入れる気は、もともとなかった、と。


 それって……。


「それって……かなりマズいんじゃないですか? 合格したのに、入学できないなんて?」


「ええ、それで、面接の形で、入学の意志を確認させていただいた訳です」


 あ。


 そうか。


「それが『女子の制服で女子の校則でも入学するかどうか』の、念押しをされた、と」


「はい……まさか、本当にその条件で入学される男子が居るとは思いもよらず……」


 なるほど……。


「園田さんに関しては、もうひとつ特殊な、特異な状況がありまして、ですね」


 はい?


「実は、願書に『性別』を記入する欄を作っておらず、名前で男女の判別をしたのですが……」


 あ。


「あぁ……名前だけ見たら、確かに女の子に見えますわね」


 母さんの言う通り。


 真綾まあや


 名前だけだと、どこからどう見ても、女子、だよねぇ……。


「ええ、それで、男子用の面接もかなり後になってしまったことと、さらに……」


 校長先生の歯切れが悪いのも仕方がない感じ、かな。


「ご自宅が当校の真正面だと言うのもあって、ですね……」


 自宅が学校前、と。言うのは、逆に。


「うちの家をうまく使えば、着替え場所もなんとかなる、と」


「はい、その通りです」


 特例で、学校の外に出て、自宅に戻っても良いって条件は、そのため、だもんね。


「なるほど……」


 つまるところ。


「瓢箪から、駒、だった、と言う感じですかしら?」


 母さんが、まとめてくれて。


「おっしゃる通り、です」


 入学後の、八時間目とかは、後付けでの対応みたいな感じだったかもね。


「わかりました。ありがとうございます」


 一応、お礼。


 でも、校長先生は。


「くれぐれも、この件は……」


「ええ、大丈夫です。わたしもここの卒業生ですし……おクチにチャック、しますわ。ね、真綾」


 おクチにチャック、の、仕草の母さん。


 あたしも。


 下手な事を喋ったら、ブーメランで自分自身に降りかかって来そうだし。


「んふふ。了解、おクチにチャック、ね」


 おクチにチャック、の、仕草。



 と、言うことで、このお話は、内緒、ね。



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