第111話:アキラくんのママのママたち



 女装専門ショップ『YUKITOユキト』の店先。


 店長の雪人さんのご子息、アキラくんと店番。


 って、いいの、これ?


 このふたりじゃ、もし、お客さん来ても何もできなさそうなんですけど!?


 と、思い至ったのは、アキラくんとおしゃべりをしてて、ネタが尽きた瞬間。


 幸いと言うか、お客さんは現れず。


 ある意味、大丈夫か、このお店……、と、老婆心ながら心配になったり。


 老婆!?


 老婆ちがーう!


 少女やーっ!


 ……。


 何気に、それも違ってる気もしなくもなくも、ない?


「まーやおにぃちゃん、どしたの?」


 あたしがぼんよりしていると、アキラくんが、怪訝顔。


「あ……なんでもないよ、うん、なんでもない、なんでもない」


 そんな他愛もない、やりとりの最中。


「ごめーん、遅くなっちゃったっ」

「アキラぁ、お待たせよぉ~」


 お店に入ってきた、妙齢の美女がふたり。


「ママのママ!」


 レジ裏からトコトコと、出て、その美女に飛びつくアキラくん。


「え? ママ!?」


 ママって、アキラくんのお母さんって、あかねさんじゃ?


「あら! あなたが真綾さんね! 雪人ちゃんから話は聞いてるわ!」

「アキラのことぉ、みててくれたのねぇ、ありがとぅ~」


 確か、さっき雪人さんが『両親が迎えに来る』って……。


「アキラので美里、よろしくね」

「同じく~、雪江よ~」


 あぁ……なるほど、ママの、ママ、ね。


 雪人さんとあかねさんご夫妻の、それぞれのお母さま、ってことね。


 それで『両親』って言うのも、少し違和感もあるけど。


 アキラくんが『ママのママ』って呼んでるのは、きっと『おばあちゃん』とか呼ばれたくないから、そう呼ばせてるんだろうなぁ、と、なんとなく。


 とか、思っていたら。


「あ、美里ママ、母さん、遅かったね」


 ちょうど雪人さんが、奥の部屋から戻って来る。


「道路がめっさ混んでたのよ。それより、面接は終わったの?」


 雪人さんが部屋から出てきたってことは、そういう事よね?


「あぁ、ほぼ終了、と言うか、ちょっと必要な準備を、ね。レイちゃん、こっち」


「はい!」


 レイちゃんも、出てきた。


 面接、ほぼ終了? 必要な準備??


「あ、これですね。昨日、真綾ちゃんに借りて試しに着けたやつ」

「うんうん。写真撮るにしてもこれが必要だからね。必要経費でこっちで持つから……サイズ、これがいいかな?」


 お店の棚。


 あたしの『上げ底』と同じものが並んでるところから。


「これは……真綾ちゃんのと同じサイズですね」


「うん、このくらいがちょうどいいと思うんだ。大きすぎると嫌味だし、小さすぎると目立たないからね」


 雪人さんとレイちゃんが、その『上げ底』の商品を手に、何やら?


「じゃぁ、ブラジャーはこっちね」


 そこから、下着の棚へ移動。


 あぁ、採用は決まったけど、写真撮影にあたって、が必要、って事か!


 なるほど。


「サイズは、っと、このあたりかな……よし、じゃあちょっとフィッティングしてみよっか」


 怒涛どとー


 雪人さんとレイちゃんは、また奥の部屋へと移動。


「今のが~、アルバイトの子、ね~」

「あ、はい。菅原レイさん、です」

「なかなか可愛いじゃない。あのなら大丈夫そうね!」


 雪江さんと、美里さん。


 確か、お隣の女の子向けショップのオーナー、だっけか。


「てっきり~」

「真綾さんがアルバイトするものだと思ってたけど」


 あー……。


東雲女子うちの学校、アルバイト禁止なんですよ……」


「あらあら」

「残念!?」


 と、思ってたんだけど……。



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