第48話:母さんの、ふむふむ



「男の子と女の子……男性と女性は根本的に体格、と、言うか骨格が違うんですよね」


「ふむふむ?」


 母さんと店員のアカネさんのやりとりを。


 所在なく、脇で聞く。


「肉付きも違いますけど、骨格の違いがやっぱり大きいですから……」


「ふむふむ……」


 やりとり、って、言うか。


「なので、その骨格が目立たなくなるように隠すようなお洋服がいいですねー」


「ふむふむ!」


 母さん、ふむふむマシーン?


 けど、アカネさんの話は、なんとなくわかる。


 今着てるこの『しの女』の制服も、実は。


 身体にぴったりとした感じではなく、ふわっとした感じで身体のラインがあまり出ない。


 冬服だと、袖の幅も広くて、腕も完全に隠れるし。


 今はもう夏服で半袖なので。


 腕は完全に見えちゃってるけどねっ!


「それから、胸の方は例の上げ底でカバーできてますけど、下半身も少し手当てしたいところですねぇ」


「ふむふむ?」


 むむ? 下半身、だと?


 何か、イヤぁな予感。


「お洋服の前に、そちらも確認しておきましょうか……こちらへ」


「はぁい」


 そしてまた、女装ショップの方へと戻る。


「こちらですね。これで小さめのヒップをボリュームアップして女性らしさもアップできます」


「ふむふむ!」


真綾まあやくん、ちょっとこれ、着けてみてくれるかな?」


 と、アカネさんから手渡される。


 丸い座布団? みたいな。


 肌色なのが、ものすごく、微妙。


「こっちの長いヒモを腰に巻いて、お尻に当てて、短い方のヒモを両方の太ももに結ぶ感じで」


 あぁ……ヒップて、お尻か。


 ふむふむ。


 やばい。


 母さんのふむふむが感染したか?


 もう、反抗して抵抗しても。


 無意味なことはわかってきたので、素直にフィッティングルームに向かう。


「ショーツの上に付けていいけど、スカートは脱いだ方が装着しやすいと思うよー」


 アカネさんに言われた通り。


 スカートを脱いで、渡された『ヒップアップクッション』を、装着。


 ちなみに。


 商品タグに『ヒップアップクッション(中)』って書いてある。


 今すでに装着しているブラジャーの中身もだけど。


 さらには、こんなモノまで売ってるとは。


 こんなモノまで使って、さらに女性らしさを、と。


 求めるヒトが、居るんだなぁ…………。



 はい、居ましたね、ここに……。


 まったくもって、不本意ながら。


 もう、どうせ、ここまで来たら、と。


 上からスカートを履きなおして、姿見に映る姿を確認してみると。


 たしかに、ふくよかになった感じ。


 ふむふむ。


 フィッティングルームのカーテンをあけて。


「どう?」


 と、フィッティングルームの中でくるくるっと回って見せれば。


 母さんとアカネさんが。


「ふむふむ、いいね!」

「うんうん、イイ感じですねっ!」


 ふたりして、親指立てて、イイネしてくれる。


 ウレシイやらカナシイやらオカシイやら。


「これ、ください」


 母さん……。


「まいどありですー。じゃあ、これ着けて他のお洋服も試着していきましょう……っと、タグ、切っちゃいますね」


 !!??


 アカネさんがエプロンからシャキーンとハサミを取り出して。


 ウチのスカートを捲り上げて。


 スカートの中に手と顔を突っ込んで。


 ぷちっと。


「はい、いいですよー」


 切り取った商品タグを左手でひらひら、と。


 何故か、金色のハサミを右手でちょきちょき、と。


 うれしそうに見せつける、アカネさん。


「実際に使う時は、ショーツの中に着けるといいですよー」


 左様でございますか……。


 それにしても。


 女装。


 奥深すぎ……。




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