練習21
「退部なんて、どうして……。急すぎるだろ」
「でも、もう決めたんだ」
やせこけて見える顔つきのくせに、瞳だけはしっかりと大きく生徒会長の威厳のようなものを感じさせる。
「なんで退部なんかするんだよ」
問いかけると、荒川は視線を窓の外の入道雲に移した。本格的な夏の暑さを思わせる蝉の鳴き声が、人気の少ない放課後の廊下に響いている。
「なんというか、居心地が悪くて」
「居心地?」
「演劇部の皆にとって、僕は迷惑な存在なんだよ」
目を合わせないまま、荒川が笑う。雲に許しを請うみたいに。
「夏の総会が終わった後も、文化祭、体育祭と続いていく。会長になったから昼休みの委員会も放課後の仕事も多くなって、ろくに部活に出席できない」
そんなやつは毎日合同練習の部活にとっちゃ邪魔でしかないでしょ、と笑う荒川はどこか寂しそうだった。
「けど、裏方でもやれることあるだろ」
こんな言葉を望まれていないとわかっているのに、言ってしまう。
「裏方もいいけど、僕が役者をやりたいのは知ってるでしょ? それに、部活に直接参加している人じゃないとどうしても他の皆と溝ができる」
「でも……」
スマホでやり取りうまくやればいいだけの話じゃんか、という言葉を呑み込む。そんな単純な話じゃ、きっとないんだろうから。
「ありがとう、
荒川が俺の目を見る。瞳が鈍く光っている。反射しているのは高い入道雲だった。
「皆が僕のことを迷惑だと思っているって言ったら、被害妄想が過ぎるってなるかもだけど、本当のことだと思う。だから僕は辞めるよ」
言葉が出なくなった。そんなことないだろ、と否定したくなるのをぐっとこらえる。わからないから、ぐっとこらえる。
俺を置いたまま立ち去ろうとする荒川の背中に尋ねた。
「なんで、俺にこんなこと言うんだよ」
荒川が足を止める。
「俺は……」
どうしたらいいんだよ、と言ってしまいそうになる。でもそんなのきっと、荒川にだって、
「わからない」
荒川が言って、ゆっくりと振り返る。
「けど、森村には言っておきたいって思ったから」
それだけ言うと荒川は歩き出し、もうこちらを振り向くことはなかった。
自分が荒川を止めたいのか止めたくないのか、よくわからないまま頭を抱えて、高校の校舎に併設された会館に入る。既に上履きがいくつか下駄箱に入れられていて、演劇部の皆が来ているようだったが、先輩達はまだ来ていないみたいだった。
和室の前まで来て、俺は立ち止まった。中から、皆の声が聞こえる。
「荒川、今日休みだって」
「またかよ。あいつ練習来られなさすぎるんだけど、Cのシーンは平気なの?」
「代役は立てられるようにしてるし、なんとかなるでしょ」
「でも、荒川絶対にやるでしょ」
「まあね。それで失敗したら失敗しただよ」
「嫌だよ!先輩にとって最後の文化祭だよ? それで恥かくのは荒川だけじゃないし」
「それはそうだよね……。先輩に迷惑かけられない」
「だから、荒川には真面目にやってもらわなきゃ困る」
「いっそのこと辞めてくれたらいいのに」
「やめなよ。そういうの本人に言わないでよ?」
俺は咄嗟にドアを強く開いていた。ガタン、という音に和室の中にいた部員達が一斉にこちらを振り向いた。
「あ、森村、おつか――」
「いい加減にしろよ!」
怒鳴らずにはいられなかった。
「お前ら、荒川のことなんだと思ってるんだよ!」
「……聞こえてた?」
部員の一人が呆れたように言う。
「丸聞こえだよ」
「はぁ。でも実際、生徒会でもなんでも荒川が練習出来ないせいで失敗されたら大迷惑なの!」
彼女は悪びれる様子もなく続ける。
「こっちは先輩達を送り出さなきゃいけないし、一生懸命演劇一筋でやってるの。頑張ってたって他と掛け持ちして回らないようになってるようなやつは迷惑でしかないのよ」
「ちょっと言い過ぎ」
他の部員が止めに入るが、彼女は怒りを抑えられないようだった。その瞳は揺れて、炎のようだった。止めに入った部員も、他の皆も、彼女と同じような瞳をしていた。
俺は、諦めの気持ちが湧いた。
「そうか、なら、望み通りにしてやるよ」
そう言って、和室を後にする。
靴に履き替えて校舎を出ると、一直線で高校の最寄り駅まで走った。入道雲がさっきよりも遠くに行ってしまったような気がする。俺は、追いつけ、と心の中で願いながら走る。下り坂を駆け下りると、改札を通り抜けようとする直前の荒川に追いついた。
「荒川!」
叫ぶと、彼がこちらを振り返った。暑さのせいか、骨ばった頬がさらに痩せこけて見える。
「何?」
瞳が蜃気楼のように揺れている。何かを見定めるかのように。
「俺も、退部するわ」
荒川が目を見開く。
「何言って――」
「あんなこと言うやつら、一緒に演劇やる価値なんかない」
俺はしっかりと彼の瞳を見る。
「一緒に他で、演劇やろうぜ」
しばらくの
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